三回忌―個から見た死と葬送(20)

三回忌 三回忌だという。 つい2カ月ほど前の出来事のような、はたまた夢の中の出来事であったかのような…。 現実感がまるでないのだ。 心を裂かれた傷みはまだ癒えることはない。 でも、癒える必要はないのだ、と思う。 この傷みこそあなたの残り香なのだから。 この傷みがなくなったら、あなたが私の手の届かない先に行ってしまったことになるから。 どうか、私の心を傷ませ続けてください。 「時間が解決してくれる。いや時間しか解決してくれない」と人は言う。 それは何と残酷なことだろう。 時間よ、止まってほしい。 かろうじ... 続きを読む

親友の葬式―個から見た死と葬送(19)

親友の葬式 彼の葬式が行われる葬儀会館は駅からわかりやすい立地にあった。冬から春に移行する時期。コートはなくとも歩いて少し汗を感じるくらいだった。 式場に入る。遺族席に行って挨拶する。 死者の配偶者が私が来たことに驚き、腰を上げる。そして私が亡くなった彼の小学校以来の親友であることを周囲に教える。 「わざわざ、申し訳ありません…」 「いや、彼との約束だから。むしろもっと早く来るべきだったのですが」 「ちょっと顔を見てやってください。彼もSさんには会いたいでしょうから」 死後数日経っていたので、顔色は濃く沈... 続きを読む

長過ぎる不在―個から見た死と葬送(18)

基本としてここに描いたものはフィクションである。私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。長過ぎる不在 先日、後輩の息子が死亡し、葬儀に出かけた。職場で倒れ、入院。10日後に息を引き取ったという。 遺族の顔を見ると、15年前の私とそっくり。 目はときおり上げるが誰も見ていない。 宙を彷徨っている。 私は15年経たが、息子の不在から卒業できていない。 5年後に部屋の模様替えをしてみたが、かえって居心地が悪くなった。 息子の帽子を2つ取り出して玄関にかけてみた。ときおり触って... 続きを読む

息が止まる時―個から見た死と葬送(17)

息が止まる時 生命の火がかすかに揺れている。 静かにろうそくの火が燃え尽きようとしているのだが、そこはかとなく保たれている。 見ているしかない。 新たにろうそくを足すでもない。 新たに何かをすることを本人が本能的に拒否しているように思えた。最期の生きざまを見守るしかない。 何もできないことを最初は切なく思ったのだが、本人を見ているとそれとは違う。 本人は、その消えゆくさまを楽しんでいるかのようだ。まるで遊戯をしているようだ。 閉じた目が開くことはなく、静かに息をするのを辞めるのではないか、ほぼそのようだ、... 続きを読む

子連れ無理心中―個から見た死と葬送(16)

子連れ無理心中 こういうニュースがいちばん怖い。 しかも記事はいつも中途半端だ。そこに至った経緯を想像しようとしても何も見えてこない。 でもそのニュース記事を書いた当の記者にもそれ以上は書けなかったのだろう。警察が発表した以上の情報はないのだろう。 おそらくそれを探ったならば、1日はもとより数日でも済まないだろう。半年あってもその真実はわからないだろう。また、仮にわかったとしても、それを明らかにすることは死者に対してどうなのだろう。多くの者が傷つくだろう。しかし、そこにはもしかしたら、第三者としてではなく... 続きを読む