現代葬儀考

社会問題化する自死

 

 2005年の1年間の自死した人は3万2552人(警察庁発表)。これで8年連続で自死者が3万人を超えた。
 最新の平成17年人口動態統計月報年計(概数)の概況によると、死因のトップは悪性新生物、いわゆるがんで、32万5885人。続いて心疾患、17万3026人、脳血管疾患13万2799人、肺炎10万7210人、不慮の事故3万9787人、そして自殺が3万539人、老衰2万6336人と続く。
 そういえば元アイドルが急死と伝えられたが、実は自死であったということが最近報じられた。私はこのニュースを事務所からの帰途、車を運転しながらラジオで聞いた。報じたキャスターは、「自殺は個人的な問題だけではなく、すでに社会問題だ」と語っていた。

 本年6月に自殺対策基本法が制定された。自殺対策の総合的推進と自殺者遺族等の支援を目的としている。
 基本法では「自殺は個人的な問題としてのみとらえられるべきではなく」としている。これまで自死は極めて個人的な問題として好奇の目で見られてきたが、それを複眼的に見ることが法律的に明らかにされた意味は大きい。
 これにより全国の自治体は自殺対策の策定・実施が義務づけられた。仙台市は高齢者のうつ対策を市内全域で始めるという。うつ病患者の早期発見に取り組む。

 個人的なことを言えば、昨年私は生命保険の加入を勧められ、申し込んだところ保険会社から「ご契約をお引き受けできません」という通知がきた。告知書で3年前からうつ病の治療を受け投薬中であることを書いたためである。要するに死亡リスクが高いので、保険会社は儲からないから引き受けない。60才にもなり、もう充分生きたという感覚もあるのでショックは受けないが、社会的に拒絶されていることに嫌悪感を抱いた。

 警察庁の発表によれば、自死者の72・3%が男性であり、60才以上が33・5%、50代が23・3%である。50代以上の中高年で過半数を超す。原因・動機は、(1)健康問題が40・0%、(2)経済・生活問題が31・4%、(3)家庭問題が9・8%、(4)勤務問題が6・3%となっている。
 でも、健康問題があったから、その不安で人は自死を選ぶのではない。その多くは、9割近くは精神的疾患、特にうつ病に陥っていると推定されている。

 うつ病患者としての体験を言うならば、うつ病に至った原因となるストレスはあったのだろうが、いったんうつ病になり、それが極度になると、極端な視野狭窄に陥り、生きる選択が重く苦しく、死の選択のほうが楽に覚思えるようになる。
 問題は、うつ病であることを自覚し、通院している者が少数者であることだ。ある調査によると70歳以上の2割にうつ症状が見られ、自殺リスクは通常の34倍という。うつ病を招くストレスを追求するのもいい。もっと大切なのはうつ病患者の発見と治療である。

 深刻なのは、自死された遺族の問題である。自死は本人の意思とされるから、怒りのもっていきようがない。よってグリーフはとめどもなく内向する。
 自死は本人が選択したと考えるからいけないのだ。うつ病が極度になったときの事故なのだ。自死の問題は生命倫理の問題ではなく病気の問題なのである。

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