現代葬儀考

葬祭業の条件―錯覚している「近代化」

 

 「葬祭業」とは葬儀に関するサービスを提供している業と理解し、その範疇には専門葬祭事業者のみならず、冠婚葬祭互助会、JAの葬祭部門、生協の葬祭部門、あるいはホテル等で葬儀やお別れ(の)会を行う部門、ギフト業や生花小売業を主としているが葬儀部門のあるところ、その全てを言う。

 統計的には「事業所・企業統計調査産業分類一覧」の「836 冠婚葬祭業」の「83A 葬儀業」には収めることができない。ちなみに平成18年事業所・企業統計調査によると、葬儀業の企業総数は3494、事業所総数は7473となっている。おそらく実際に葬儀業に携わっている企業は約4500~5000であると推定される。

 葬祭業を市場(マーケット)的にとらえるならば冠婚葬祭互助会が47%、JAが13%、その他が10%とすると、葬祭専門業者は全体の30%程度であろう。日本消費者協会のデータでは、依頼先が葬儀社62・0%、冠婚葬祭互助会が22・7%であり、JAは9・5%に留まっているのは、消費者が企業実態を把握していないことからきている。互助会もJAも「○○葬祭」と名乗っているケースが少なくない。消費者対象のアンケートがしばしば実態とかけ離れるのはこうしたことからきている。

 あるマーケッティングをしている業者が私に「葬祭業について教えてほしい」と言ってきたことがある。普段はコンサルタント等を業としている人と会うことを断っているのだが、間に入った人がいて断れずに会った。
 その人は「葬祭業にはイベント業として将来性がある。やっていることは古臭いし、もっと新しいプランを出せると思う。問題は遺体を扱わなくて済む方法だ」と語ったのだ。
 私は話の先を聞くことをやめ、「お帰りください。私はあなたの参考になることは話せないし、そのように事業者が考えるならば、葬祭業に参入してほしくはない」と言って追い返した。

 ときおり、こうした錯覚を葬祭業に抱く人がいる。このところ「近代化」を掲げてマーケティングの専門家に葬祭業の将来戦略を託する事業者が少なくない。彼らは「サービス業」として「遅れた」業界という認識から出発する。確かに改善の余地はある。しかし葬祭業は単なるサービス業ではないという事実を忘れては、根本を誤るだろう。

 葬祭業のユーザーとは、死別を体験している遺族であり、そこには遺体があり、それは単なる物ではなく、遺族や関係者にとってはさまざまな想いが入っている貴重な存在であるという事実である。こうした事実を軽視するところからは葬祭業は始まらないし、道を誤る。
「葬祭業は遅れている」という認識の底に死や死を扱うことへの偏見や蔑視が少しでもあるならば、葬祭業に係わってはいけないと思う。

 昔の、外見は古臭いように見えた葬祭業者の中に、死者の尊厳と遺族への不当な干渉に身体を張って守ろうとした、熱い想いを抱いていた人が何人もいたことを忘れてはならない。葬祭業にとって「いのちの尊厳」とは抽象的なもの、きれいごとではない。極めて具体的なこの死者、この遺族に係わることである。

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