グリーフサポート勉強会

第2回 悲しんでいる遺族を傷つけない接遇のあり方

~遺族を側面からどう支えていくか~

鷹見有紀子

 第1回目では、死別の悲しみへの理解として、ご遺族がどんな状態なのかについて勉強しました。第2回目は、その状態のご遺族を、葬祭従事者が側面からどう支えていくかについて、接遇のあり方を中心にお話ししたいと思います。
 接遇のあり方、といっても、お辞儀の角度や歩き方についてのお話ではありません。グリーフサポートの観点からみたご遺族とご遺体への接し方のポイントを、できるかぎりわかりやすくお伝えしたいと思います。
 悲しんでいるご遺族をさらに傷つけない接遇のあり方として、
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 ・ご遺体への接し方
 ・言 葉
 ・表 情
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について、考えてみましょう。すでに多くの葬儀社さんが実践されていることも多いと思いますが、一つひとつ再確認していきましょう。

ご遺体への接し方

●生きているかのように接する
 慣れ、というのは怖いもので、葬儀の仕事が長くなってくると、どういう態度でお柩を扱ったらよいのか、考えてもわからなくなってくることがあります。柩に入った状態を見慣れてしまうと感覚が麻痺して、それがご遺体であることを意識できず、単なる「箱」のようにしか感じられなくなってしまっていることもあるのではないかと思います。

 そんなときは、自分が故人だったら?あるいは、遺族だったら?という目線に、立ち返ってみるのがよいと思います。自分の大切な人がそこに寝ているとしたらどうなのか、あるいは、自分自身がそこに寝ているとしたらどうなのか、を考えてみるということです。
 ご遺体に対しては、そこにいるその人があたかも「生きているかのように接する」ことがポイントです。では具体的にはどのように接したらよいのでしょうか。

●移動は2人以上の人の手で
 繁忙期などはとくに人手が不足しがちな葬儀社さんも多いことと思いますが、台車付の棺台やストレッチャーに載せたご遺体は、必ず2人以上の人の手で移動します。どんなに多忙なときも、これは鉄則ではないでしょうか。どうしても人手が足りないときは、ご遺族の手を借りてもよいと思います。

●歩くスピードよりもゆっくり
 歩くのと同じスピードでの移動は、寝ている側にとっては猛スピードに感じます。病院のベッドで自分が寝ている状況を想像してみてください。柩を動かすときは、自分がその速さで運ばれても怖くないかどうかを、考えてみるようにしましょう。
 もちろん、故人が実際に速さを感じるわけではありませんが、生きている方に対してはあり得ないようなスピードで移動することは、ご遺体を「人」としてではなく「モノ」として扱ってしまうことであり、傍で見ているご遺族が無意識のうちに感じとってつらくなることがあります。スピード一つで、ご遺族を深く傷つけてしまうことになるのです。

 柩を安置するときに、何度も位置決めをし直すことも、故人に失礼です。ご移動させていただく前に、柩を動かす職員同士で左右のバランス等、安置する場所をしっかり確認しておきましょう。
 また、ご遺体に限らず、ご遺族が大切にしている物―遺品や遺影写真なども丁寧に取り扱います。丁寧に取り扱うために意識するとよいのは、同じく「ゆっくり」動かす、ということです。そのためには、職員自身が時間に追われることのないようにしましょう。

●柩が通るとき「失礼いたします」は故人に失礼
 柩が会葬者の間を通るときに、その柩を移動させながら職員が「失礼いたします」「申し訳ありません」と声をかけて道を空けさせているのをよく耳にします。それは故人に対してあまりにも失礼で、本末転倒な言葉です。また、会葬者も悲しみの当事者であることを意識すれば、「柩が通るからどいてくれ」と葬儀社の職員が言うのは、会葬者に対しても失礼なように思います。

「柩が通るから道を空けて」と言うのではなく、「まもなく、正面玄関よりご出棺でございます」というような伝え方で、お柩の動線を伝えます。そして、お柩をゆっくりとご移動している間に、葬儀社が指図せずとも自然に道をあけてもらえるのが望ましい状況でしょう。人ごみの中を柩が慌しく突っ込んでいかなければならないような状況は、そもそもつくってはならないと思います。
 しかし、やむを得ず急いでいる場合、あるいは会葬者が多く混雑している場合、柩が通ることに気がつかない会葬者に声をかけてよけてもらう必要がある場合、言葉としてはせめて「恐れ入ります」がふさわしいのではないでしょうか。
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×「お柩が通りますので、道をお空けください」
○「まもなく、正面玄関よりご出棺でございます」(動線を示す)

×「失礼します」
○「恐れ入ります」
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●名前や続柄で呼ぶ
「故人」「ご遺体」という呼び方は、その言葉そのものが、ご遺族の心に刺さることがあります。ご遺族が、まだその死という現実すら受け入れられていない場合はなおさらでしょう。ご遺族を痛めつけてしまう可能性のある言葉を、わざわざ職員が用いないようにしたいものです。

「有紀子様」などというように、故人のお名前で呼ぶのがよいのではないでしょうか。呼び間違えてしまうことが怖いときは、続柄でお呼びするとよいでしょう。例えば、故人が喪主にとっての母である場合には、「お母様」と呼ぶ、といった具合です。

●棺台は清潔に
 自分の大切な人が、埃やゴミだらけの台に載せられていたら、どうでしょうか。汚れた棺台は、ご遺族の心を荒ませてしまいます。「棺台はベッド」と捉えてみて、自分自身がそこに寝かされてもいいと思えるくらいに、清潔に保つことをこころがけましょう。
 棺台には、いろいろな状態のご遺体をお載せしていることから、「何が付着しているかわからない」と、現場の職員はあまり触れたがらない傾向にあるようです。専用の清掃用具(雑巾と手袋などでしょうか)を設置し、棺台の清掃は毎回の施行終了時の必須作業にしていただきたいと思います。職員に対しての衛生面の配慮が、ひいてはご遺族のグリーフへの配慮につながっていきます。

 また、雑巾の支給(?)にまで気を配っておられない葬儀社さんは多いようです。常に十分な枚数の雑巾がないと、掃除はおろそかになります。

●無断で触れない、触れさせない
 葬儀社の職員に対し、「私のお母さんなのに、あんたたち、なに勝手にやってんの?と思った」という声は、葬儀をふり返った多くのご遺族から耳にすることです。
 赤の他人である葬儀社職員が、遺族の許可なくご遺体に触れるべきではありません。今から触れさせていただくということと、その理由(例えば「お着物を直させていただきますね」等、何のために触れようとしているのか)を、前もって伝えることが遺族の安心感につながります。

 また、故人に対しても、必ず「今から触れる」ことを、言葉をかけて断わってから触らせていただくようにしましょう(「ちょっとごめんなさいね」等)。ここでも、「生きているかのように接する」が原則となります。生きている人間だったなら、断わりもなく他人から突然体を触られることはあり得ないのです。

 また、自死・事故死などで遺体が損壊している場合などは、ご遺族は柩に触れられたくないだけでなく、柩の中を見てほしくない、と思っていることがあります。ご遺族がそう思っているようだということを早い段階で察知したら、宗教者に対しても、打ち合わせの段階で職員からお伝えできるとよいでしょう。
 たとえ儀式上の必要性があっても、宗教者の行為であっても、ご遺族の心情的には柩への接触を容認できない場合があります。しかし、なかなかご遺族から宗教者に直接その意向を伝えることは難しいものです。
 私の父が亡くなったときは、全身やけどでしたので納体袋に入った状態でしたが、「中を見られるのではないか」と思うと、葬儀社の職員がろうそくを取り替えるために柩の傍に行くのも、はらはらどきどきしながら見ていなければなりませんでした。
 柩に触れるときは必ず前もってご遺族に声をかけています、ということを早めに示し、ご遺族に安心していただけるようにしましょう。

●美しい道を通る
 病院で息を引き取った場合、霊安室に安置の後、正面玄関と比べるとあんまりだと思われる暗い裏口のようなところから帰宅させられて、ショックを受けてしまうご遺族は大勢いらっしゃいます。

 葬儀においても、棺の通る動線が美しい道であるかどうかが、ご遺族の心情に大きく影響してきます。
 建物の構造上の制約があったとしても、通用口のようなところを通って出棺しなければならないのでは、故人やご遺族が本当にお気の毒です。柩の通る道は掃き清めておき、通路には余計な物(その時の故人やご遺族に関係のない物)を置かないようにしましょう。

言 葉

●ゆっくり話す・簡潔に話す
 死別体験後の心の変調として、人の話が理解できなくなる、という経験をされるご遺族は大勢いらっしゃいます。
 長いセンテンスでのダラダラした説明は、その話を理解しようとするご遺族を、不必要に疲れさせてしまいます。
 簡潔に、短い文章で、普段よりも数段ゆっくり話すことがとても大切です。必要に応じて、同じ内容を何度でも繰り返して伝えることも重要です。

●悲しみをあおらない
 葬儀当日に、あるいは通夜の場でも、司会者により「ナレーション」を行うことがあります。先日、母方の祖母の葬儀に参列したとき、「お孫様3人のご成長をなにより気にかけておられました」というナレーションを聴いて、私は涙が止まりませんでした。しばらく疎遠になっていたのに、自分が孫の数に入れてもらえたことがうれしかったのです。

 しかし、私が泣いたのはあくまでも結果であって、泣けたからそれがよいナレーションだったというわけではありません。
 ところが、ナレーションの良し悪しの評価については、「遺族が泣いたかどうか」「感動したかどうか」を判断基準にされることがよくあるようです。しかし、ご遺族を「泣かせる」ことがよいことなのかどうか、そもそも葬儀の場に「感動」が必要なのか、疑問に思います。むしろそれは、司会者が言葉によってご遺族を傷つけて泣かせているだけ、のこともあるのです。それをマイクを通じて行ってしまうのは怖いことですし、それがよいこととして評価されてしまうのは、恐ろしい誤りのような気がしてなりません。

 ナレーションを入れる場合でも、ご遺族が感じていらっしゃること、ご遺族が故人や会葬者に伝えたいと思っていらっしゃることを、司会担当者はパイプ役のようにそのまま表現することにとどめるのが無難であり、プラスアルファの定型文を使用する際には、それが遺族の思いと一致しているかどうか、その言葉が遺族の悲しみを不必要にあおっていないかどうか、十分な注意が必要だと思います。

 例えば、よく耳にする言葉に「今ひとたびの願いもむなしく」という定型的な言い回しがありますが、本当にそのご遺族はそう思っていらっしゃるのでしょうか。もちろん、ご遺族の心情と一致していればよいのですが、そうでない場合、「大往生で満足している」ご遺族に強い不快感を与えることもありますし、場合によっては大きく傷つけてしまう結果を招くこともあります。
(例えば、そのナレーションを聞いた子どもが「“今ひとたび”と私がもっと強く願ってあげなかったせいで、おばあちゃんは死んじゃったんじゃないか?」と思ってしまう心理は、十分に想像しうることです。)
 その人の死にまつわる思いは人それぞれ、さまざま、そして複雑です。葬儀の場で始めて顔を合わせる司会担当者が、開式までの短時間にご遺族の気持ちを推し量ることなど到底できないのです。余計な一言でご遺族の心情をかき乱すことのないようにしたいものです。

●言葉の用い方
「お願いします」「してください」「してはいけません」「しなくてはいけません」などの表現は極力避ける。
 悲嘆にくれるご遺族は、心身ともに極限状態にあります。その状態を何とか保っていらっしゃるぎりぎりの状態なのです。息をしているのさえもおつらい状態なのかもしれません。傍目には悲しんでいるように見えない場合でも、そうなのです(悲しみの表現方法は人それぞれですから、人によっては、何事もなかったように振る舞いながら、つらさに耐えているということもあるのです)。
 そんなとき、ご遺族は誰からも、何かをお願いされたり、制止されたり、指図されたりすべきではないはずなのです。ご遺族が「元気そうに」見えるからといって、事務的な作業を次から次へと「お願い」することのないようにしましょう。

 また、葬儀の場では、遺族がよいと思うやり方で故人を送ってあげられることがご遺族のグリーフワークとして大切ですので、「こうしてはいけない」「こうしなくてはいけない」という言い方で、葬儀社の職員がご遺族に伝えるべきことは何もありません。
 会葬者に対しても、焼香や献花を「きれいに見せる」目的で、整列させたり、そろって焼香することを強いたりせず、それぞれの人がそれぞれのペースで思い思いに焼香・献花をするのを、職員が「制止」することのないようにしたいものです。

表 情

●満面の笑みは場違い
 葬儀では「満面の笑み」は場違いです。そこが、ファーストフード店など他のサービス業の接遇マナーと大きく異なるところです。

表情のポイント
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基本はあたたかい笑顔。ただし、TPOが大切。相手が悲しみをあらわにしている時は真顔で。
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 具体的には次のようになります。
  ・歯を見せて笑わない
  ・声をたてて笑わない
  ・遺族のほうを見ながら職員同士で話さない
  ・職員同士の会話は真顔で

●歯を見せて笑わない、声をたてて笑わない
 そんなことは当たり前、わかりきっている、と思われるかもしれませんが、仕事に慣れてくると、無意識に笑みがこぼれていることがよくあるのです。とくに職員同士が馴れ合ってくると、ロビーや式場内でもつい、世間話や近況について話して笑い合う、ということがよくあります。
 そのため、細かいようですが、「歯を見せて笑わない、声を立てて笑わない」ことをきっちりマニュアル化したほうがよいように思います。職員一人のその「笑い」一つで、ご遺族の全ての信頼を失うことにもなります。遺族の悲しみを全く理解せず、ご遺族の目の前で笑い合っている職員に、誰が信頼して大切な人の葬儀を任せたいと思うでしょうか。

●遺族のほうを見ながら職員同士で話さない
 職員同士の打ち合わせはできるだけご遺族の目につかないバックヤードで行うことが望ましいですが、式中はそうもいかない場合が多いと思います。

 例えば「香炉の数をいくつにするか」について、式場の中を見ながらヒソヒソとやってしまうと、ご遺族には打ち合わせをしているということはわかりませんから、「こちらを見て、私たちのことを何か言っている」と思わせてしまうことがあります。ご遺族は他人の言葉や表情、態度に、普段以上に敏感になっていらっしゃるのです。ずいぶん遠い位置からでも、職員の表情や態度を見ていらっしゃいます。常に、自分の目線の先に注意を払うようにしましょう。

●職員同士の会話は真顔で
 同じ理由から、職員同士が笑い合っていると、ご遺族は、故人の死に様や、自分たちのことを笑われている、と感じてしまうことがあります。「私の大切な人が死んだというのに、何がおもしろいんだ!」という怒りを感じさせてしまうこともあります。
 仕事は円滑に円満に、職員同士仲良く進めたいところですが、ご遺族の心情に配慮したとき、職員同士の会話に笑顔は必要ありません。ちょっと固い感じがするかもしれませんが、式場やロビーでの職員同士の打ち合わせは真顔でするようこころがけましょう。

●会葬者のグリーフへの配慮
 接客時の表情に気をつけることは、会葬者のグリーフへの配慮でもあります。会葬者も悲しみの当事者であるのだということを意識せず、ついニコニコと満面の笑みで接してしまいがちですが、親密な人間関係は何も血縁のつながりに限ったことではありません。場合によっては親族以上に故人と縁の深い方が、一般会葬者として末席にいらっしゃることもあるでしょう。
 悲しみにくれている会葬の方を、職員の表情や態度で傷つけないようにしましょう。

■物事の優先順位の指南

●ひげを剃るか剃らないか
 実はこの2月に義姉が亡くなりました。葬儀の1時間前に、夫から「ひげを剃ったほうがよいか」と訊かれて、見ると確かに、身だしなみとしては剃ったほうがよいと思われる伸び具合でした。そこで私はふと計算をしました。これからひげをきちんと剃ったら、何分かかるんだろう、と。
 火葬場ではもう故人の顔を見ることはできないと言われていました。じかに故人と対面してお別れができる残りわずかの時間を割いて、このひげを剃るべきなのかどうか? 少し考えてから、私は「こんなときに、ちゃんとしようとしなくったっていいんだよ」と答えることにしました。夫はそのまま他の親族とともに故人の傍へ行き、開式までの時間を過ごしていました。
「ひげくらい、剃っておけよ」と後から他の親族に言われていましたから、もしその親族にアドバイスを求めていたら、開式までの時間の過ごし方はもっと違ったものになっていたでしょう。

 今から自分はどうしたらいいのか、何をするべきか、ご遺族から葬儀社の職員に「~したほうがいいですかねえ?」とアドバイスを求められることはとても多いと思います。そんなとき「しっかりした遺族」としての体裁を整えることではなく、「きちんと悲しむ」ことができるための優先順位を、適切にアドバイスできると、とてもよいと思います。
 私は、同じ理由から、夫に「初めて会う親族に紹介しようか」と言われましたが、「また今度でいいよ」と断わりました。式場は故人を送るための空間であり、親戚同士の顔合わせの場ではないと考えたからです。夫の気を煩わせるのも申し訳ないと思いましたし、柩の傍で挨拶をし合うことによって、故人とお別れをしたいと思っている人の大切な時間と空間を奪ってしまうような気もしていました。遠方からの親族も駆けつけて、見たことのない親族ばかりでしたが、私からは敢えて、式場内では誰にも挨拶をしませんでした。おそらく、夫の家の親族からは今頃「挨拶もできぬヨメ」と言われてしまっていることでしょう。でもそれでよかったと思っています。

 次回は、施行のあり方についてさらに具体的にお話しいたします。

葬祭事業者のための「グリーフサポート」勉強会 『SOGI』104号
鷹見有紀子

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