グリーフサポート勉強会

第3回 “きちんと悲しめる”施行

鷹見有紀子 

前回は、「悲しんでいる遺族を傷つけない接遇のあり方」についてお伝えしました。今回は、具体的な施行のあり方をお話しします。

 第1回目の勉強会で、「グリーフワーク=深い悲しみにくれている人が意識して行う心の作業」とご紹介しました。ご遺族がこの「グリーフワーク」をきちんとできるように葬送のプロセスを組み立てる。それは、葬儀社にしかできないグリーフサポートではないかと思います。
 ご遺族が大切な人の死という現実と向き合い、きちんと悲しめるために大切なことは、時間をゆったりと確保し、ご遺族の負担を減らすことです。

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グリーフワークのできる施行のポイント
 ・ご遺族の負担を減らす
 ・時間をゆったり確保する
 ・グリーフワークを妨げない
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 この3つの側面から、具体的に葬儀社ができることをみていきましょう。ここでは、社葬などではなく、個人葬においてできることを中心にご紹介していきます。

■ご遺族の負担を減らす

●省略してもよいこと、したほうがよいこと
 通夜~葬儀~出棺までのご遺族の過ごし方を拝見していると、大切な時間の多くは、故人を送るためのこととは全く関係のないことで埋めつくされています。「しなければならないこと」があまりにも多すぎて、ご遺族はがんじがらめになっているのです。しかし、遺体が火葬されてしまうまでの間にいかにきちんと悲しめるか、死という現実に向き合う時間をとれるか―つまり、グリーフワークができるかが、後々(葬儀後)のご遺族の状態に大きく影響してくるのです。そこで、省略可能な事柄について、「してもしなくてもどちらでもよいのだ」「省略しても構わないのだ」ということを、葬儀社がプロの立場からご遺族にお伝えできるとよいと思います。「本当はこうだ」「こうしなければならない」という制約を極力取り払うための手助けをするのです。
 具体的にみていきましょう。

〔電報の読み上げ〕
 電報ほど、葬儀当日のご遺族の負担になっているものはないように思います。
 一度に届けばまだよいのですが、日に何度も到着します。ご遺族が直接受け取る場合は、そのつど呼び出され、サインを求められます。喪主宛に届くため、配達員の方がはじめに「電報です」と言ってくださればよいのですが、「喪主様は?」と言って訪ねて来られれば、喪主は仮眠をしていてもそのつど、周囲に起こされてしまいます。開式間際(場合によっては開式後)に届くこともしばしばあり、開式直前まで、ご遺族は、電報の読み上げ順の決定や、読み仮名の確認に相当の時間を割かれ、煩わされることになります。

 例えば、取引先の会社の社長の下の名前の漢字の読みがわからない場合、職場に電話をかけて調べるなどするわけですが、それが10件、20件となったら、どれほどの負担となるか、おわかりいただけるでしょう。しかも、それを開式までの短時間の間にしなければならないのです。また、電報の多くは喪主の名前で届きますが、親族の誰の関係からの打電かわからず、喪主が親族に聞いて回らなければならないこともあります。電報の種類も今はいろいろあり、ひとくくりには言えませんが、差出人の住所や電話番号の書いていないものは多いのです。

 本来弔意を伝える手段であるはずのものが、ご遺族の負担を増すものと化してしまっているのは残念なことです。これは、電報が、儀式の中で必ず読み上げなければならないもののようになってしまっていることが問題なのです。
 そこで、「読み上げをしない」という選択もあるのだということを、葬儀社から伝えていただきたいと思います。それだけで、ご遺族の負担をかなり減らすことができるでしょう。

 とはいえ、何も言わずに読み上げを省略してしまうと「電報の読み上げを忘れたのではないか」「私の送った電報が届いていないのだろうか」と不安に思ってしまった方がご遺族に耳打ちをするなどして、結果的にご遺族の不安を増してしまうこともありますから、読み上げ省略の旨をアナウンスで一言入れたほうがよいかもしれません。

〔供花の順番決め〕
 電報同様、供花も「順番決め」がご遺族の負担になってしまっています。
「順不同」という立札を立てていても、実際には順番を考えて並べることが慣例になってしまっていて、多くの花をいただけばいただくほど、その順番の決定にご遺族は大きく頭を悩ませることになるのです。
 ですので、順番を決めなくてもよいように、「到着順」「五十音順」と大きく表記すると、ご遺族の負担を軽くすることができます。

 また、名札は直接供花に立てるのではなく、芳名板を別に用意すると順番の変更が楽になります。特に、花の種類が異なる場合、順位を替えるたびに大移動しなければならないのでは、式場内がいつまでも落ち着きません。
 故人とご遺族との最後の別れのための時間と空間を、供花の順番決めのためにごたつかせないようにしたいものです。

〔焼香順位〕
 地方によりますが、焼香の際に参列者の名前を読み上げるための「焼香順位帳」の作成にも、ご遺族は多くの時間と労力を割かれています。親族全員、場合によっては、村の人の名前まで、時には100人近い人の名前を読み上げなければならない慣習の地域もあるようです。

 これも、省略しても構わないものであること、あるいは、なるべく負担の少ない形で作成する方法を、葬儀社から伝えられるとよいと思います。例えば、鈴木太郎様ご家族様、鈴木太郎様ご夫妻様、鈴木家一同様、などというように、家族単位で読み上げるという方法もあるのだということも、しっかりお伝えできるとよいでしょう。来るかどうかわからない遠方の親戚の名前を把握するために開式直前まで汲々としなければならないのは、本当に気の毒なことです。

 読み違いや読み漏れがあれば心が波立つものですし、いっそ、焼香順位の読み上げなどという慣習はなくなればよいのに、と思います。現代の葬儀において、焼香順位を作成しなければならない意味が見当たらないように思うのです。

〔喪主挨拶〕
「喪主挨拶」も、葬儀において必ずしなければならないことのようになってしまっていますが、悲しみの最たる当事者に、今まさに火葬場へ出発しようという絶望的な瞬間に、挨拶を強いるのはどうかと思います。
 喪主が挨拶をしなくても済む方法を、いくとおりかお伝えできるとよいでしょう。

★親戚の誰かに替わってもらってもよいのだ、ということ。(「喪主挨拶」ではなく「親族代表挨拶」)
★アナウンスを入れて挨拶を省略することもできるのだということ。(例:「座礼(あるいは「立礼」「礼状」等、状況に合わせ)をもって御礼のご挨拶に代えさせていただきました」)

 また、挨拶をする人には、挨拶は「そら」でしなくてもよいのだということを早い段階でお伝えしたほうがよいでしょう。葬儀当日に挨拶の例文を一生懸命暗記しようとなさっている喪主様は多くいらっしゃいます。あと数時間で大切な人の体が燃えて無くなってしまうという大事なときに、そのようなことに時間を使わせてしまうことのないようにしたいものです。
 私は、マイクスタンドを用意してあることを示し、「両手で紙をお持ちになって、堂々と見ながら挨拶される方がほとんどです」と伝えることにしています。それでも、喪主様が、暗記しなくてはならない、という思いを強くもっていらっしゃる場合、時には「紙を見ながら挨拶するのが正式です」と言い切ってしまうのも方便かもしれないと思っています。

■時間をゆったり確保する

●火葬までの時間を長くとる
 火葬までの日にちを可能なかぎり長くとること、これがもっとも大切なことのように思います。火葬までの日にちを長くとる、というのには、(1)葬儀の準備期間を多くとる、という意味と、(2)故人の身体的存在を確かめながら、死という現実に向き合う時間を多くとる、という意味との、2つの意味合いがあります。
(1)葬儀の準備期間を多くとる
 充分な時間さえあれば、焼香順位の作成も供花などの順番決めも、省略せずとも、比較的少ない負担感で行うことができます。
 逆に、充分な時間がないと、煩雑な事務作業や親戚の接待などに追われて、その人の死や、自分自身の気持ちと全く向き合うことのできないまま、葬儀が終わってしまいます。

 充分な準備時間の有る無しで、一つひとつの作業の意味も、全く異なってきてしまいます。例えば、遺影写真の選定は、時間にゆとりのある場合は、亡くなった人を偲ぶ大切な時間になりますが、逆に時間がないと、大急ぎでこなさなければならない事務作業の一つになってしまうのです。

(2)故人の身体的存在を確かめながら、死という現実に向き合う時間を多くとる
 遺体が目の前にある状態での別れの時間は、ご遺族にとってつらいものですが、大切で必要な時間です。予期できなかった、突然の死(闘病期間のない病死、事故死、自死、犯罪被害など)の場合は、特に火葬までの日にちを長めにとるよう、勧めていただきたいと思います。
 どんなに思いがけない死であっても、時間さえあれば、多くの場合、それぞれのご遺族なりのやり方で、グリーフワークは自然と進んでいくものです。
 また、葬儀の日取りを決める際、企業などにおける「忌引」の日数を意識してしまうご遺族もいらっしゃいますので、例えば有給休暇をとるなどの方法をお勧めできるとよいでしょう。グリーフサポートの観点から言えば、そもそも、企業等が就業規則で定めている忌引の日数は少なすぎるのです。

●1時間半~2時間葬のすすめ
 儀式は1時間で執り行うことが多いように思いますし、ご遺族もそういうものだと思っていらっしゃいます。しかし、読経の長さ、会葬者の数、弔辞の有無などによっては、1時間ではかなりタイトなスケジュールになってしまうことがしばしばあります。儀式の中で「こうしてあげたい」と思えば思うほど、時間的に苦しくなってしまうというのは残念なことです。
 1時間半、場合によっては2時間かけて葬儀を行うこともできるのだということ、その選択肢をご遺族に示すことは、葬儀社にしかできない重要な役目のように思います。ご遺族の気持ちのスピードに添って葬送の儀式を進めていくためにも、火葬場の予約時刻からの逆算でご遺族が時間に追いまくられることのないようにしたいものです。

■グリーフワークを妨げない

 ご遺族のグリーフワークを妨げるようなことをしないというのは、消極的なようですが、大切なグリーフサポートです。

●式場内で作業をしない
 常に後ろから誰かに見られているかもしれないような状況では、ご遺族は心ゆくまで故人と対話することができません。式場は故人とご遺族との大切な空間なのですから、葬儀社の職員が式場内で作業をすることで、ご遺族のグリーフワークの“邪魔”をすることのないようにしたいものです。

●BGMの選定はとても重要
 葬儀場におけるBGMの目的は何でしょうか。
 店舗等におけるBGMには、買い物客の感情を誘導する効果が期待されているそうです。しかし、葬儀場の場合、音楽で人の気持ちを盛り上げたり落ちこませたりしようとするのは、ご遺族に対してこの上なく失礼で、暴力的な話だと思います。ご遺族は必死でその状態を保っていらっしゃるわけですから、むしろ、お気持ちを揺れ動かすことのないBGM、グリーフワークの邪魔にならないBGMを選定し、ごく低音量で流すべきでしょう。 (人の足音や空調音などの雑音を消せる程度の音量で)

〔BGM選定のポイント〕
★不協和音がないこと
★スローテンポで強弱・緩急の変化が少ないこと
 悲しみを不用意にあおらないためにも、曲調が急に盛り上がったり下がったりしない曲を選定しましょう。
★メジャーでないこと
 映画のサントラやCMで使われている音楽などは、その映画やCMのイメージが曲についているので、グリーフワークの妨げとなってしまいます。無意識に、聴いた人の心の中に、すでにその人がもっているその曲のイメージが浮かんでしまうからです。場合によっては、ご遺族がその曲に嫌なイメージ(思い出)をもっていらっしゃるかもしれません。
 また、葬儀場において有名な曲を使用した場合、葬儀が終わってもその曲を耳にするたびにご遺族に葬儀のことを思い出させてしまうことにもなりかねません。ですから、なるべくマイナーな、誰も知らないような曲が、葬儀の場のBGMにはふさわしいのです。
★原曲に歌詞がついていないもの
 例えば、歌謡曲のオルゴールCDなどは、使用すべきではありません。耳にしたご遺族の頭の中で歌詞が出てきてしまい、気持ちに集中できなくなってしまうのです。

●悲しんでいる人を人目にさらさない
〔親族席は前向きに〕
 遺族・親族の席は故人(祭壇)のほうを向く形で配置しましょう。向かい合わせにして参列者席の前方に配置すると、常に参列者に見られている状態になり、泣きたいときに泣くこともできません。

〔立礼〕
 同様に、会葬者の焼香の際にご遺族が立ってお辞儀をする「立礼」も、ご遺族には人目にさらされている感覚が大変つらく、緊張を強いられるものです。身体的にも苦痛が大きく、腰を痛めてしまうご遺族は大勢いらっしゃいます。あのような慣習は廃止する方向で、葬儀社と宗教者が協力して取り組むことはできないものでしょうか。

●トイレに行ける式次第に
 トイレに行きたいのを我慢している状態ではグリーフワークどころではありません。
 休憩のないまま儀式を終え、出棺してそのまま火葬場に行くのだとしたら、その間、トイレを我慢しているお年寄りや子どもは大勢いらっしゃるでしょう。トイレ休憩が無理なくとれる式次第を工夫したいものです。

●焼香・合掌中にアナウンスを入れない
 葬儀には、煩わしいことがあまりにも多く、ご遺族は故人とお別れする、ということに、なかなか気持ちを集中できずにいらっしゃいます。せめてこのときばかりは、と思うのが、焼香の時ではないでしょうか。
 ところが、焼香順位の読み上げ等のアナウンスが、そのわずかな静寂の時間をも破ってしまいます。ご遺族が焼香をしている最中、とくに、気持ちを込めて合掌をしていらっしゃる間は、耳障りなアナウンスは控えたいものです。

●子どもを苦しめる「お孫様の言葉」
 弔辞の代わりに「お孫様の言葉」を行う場面を目にするようになりましたが、この「お孫様の言葉」は、安易に外野が勧めるものではないように思います。お孫様が本当に「やりたい」と思っていらっしゃるなら別ですが、たいていの場合、その子のグリーフワークにならないからです。

 子どもにとって葬儀の場は、「非日常の空間」を通り越えて「異常空間」です。子どもは大人ほど、葬儀の場面に慣れていないのです。それなのに、その子の親は慌しく動き回ってその子の傍に居ることができず、いつもと違う黒い服を着て難しい顔をして泣いているのです。
 そんな異常事態のなかで、発表会や結婚式などと違い、拍手も、司会者からの労いの言葉もない、しんとしたなかで、大勢の怖い顔をした大人たちの目線を感じながら読み上げて帰ってこなければならないのです。それは、子どもにとってどれほどのストレスでしょうか。
 大人たちの涙を誘う演出に、利用される子どもはあまりにもかわいそうです。

●会食のスタイルを見直す
 遺族「明日、初七日法要までいていただけますか」
 親戚「私たちは葬儀が終わったら失礼します」
 遺族「そんなことおっしゃらず」
 親戚「そうですか?じゃあ…」
 料理の注文数を確定するために、通夜の夜から葬儀の日にかけて、ご遺族が、親戚じゅう一人ひとりに確認している光景をよく目にします。このやりとりを親戚全員に対して延々繰り返さねばならないのは、ご遺族にとってどれほどの苦痛でしょうか。ご遺族にとっては、心の中では、本当ならそれどころではないはずなのです。

 何カ月も前から準備をする結婚披露宴でさえ、席次や料理の数の決定は結構大変で、神経を使うものです。それを、気が動転している1、2日の間に把握しなければならないのです。
 およその人数で注文できる、テーブルごとの大皿料理(着席ブッフエ)で、簡単に席数を増減できる形にできないものでしょうか。

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 きちんと悲しめる施行として、基本的な環境づくりについてお話ししました。
 慣習にとらわれず、時間をかけて、余計なことに煩わされることなく、ご遺族が思い思いに、それぞれのやり方で送ってあげられるように環境を整えること。それが、葬儀社にできるグリーフサポートです。
 ただし、ご遺族が、慣習的な葬儀の段取りを体験的に知っている場合には、その慣習どおりに粛々と進めていくのが最大の安心につながっている場合もあります。思い思いにそれぞれのやり方で、ということの中には「慣習どおりに」ということも含まれているのです。

 一見、「そんなことしなくてもよいのに」と思うことでも、「そうしなくては」と思ってご遺族が一生懸命やっておられ、それがうまくいっている場合には、そのままサポートするのがよいでしょう。(省略したほうがよいですよ、と言うべきではないということです)
 次回は、葬儀後のご遺族に対してできることについてお話しいたします。

葬祭事業者のための「グリーフサポート」勉強会 『SOGI』105号
鷹見有紀子

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