鷹見有紀子
第4回目の今回は、葬儀を終えたご遺族に対して、情報としてお伝えするとよいことについてお話しします。
葬儀が終わった後で、ご遺族はさまざまな気持ちの変化・状況の変化を経験され、多くの人が戸惑いを覚えます。それらの変化は決して特異なことではなく、大切な人と死別した多くの方が経験することである、ということを、リーフレット等でお伝えできると役に立つと思います。「自分だけではないのだ」と知るだけでも、ご遺族にとっては大きな助けとなるのです。
また、ともするとご遺族が自分自身を追い詰めてしまいかねない、誤った思い込み(例えば「悲しいことは早く忘れたほうがよい」「泣いてはいけない」等)を取り払うために必要な、グリーフワークについての基本的な知識について紹介するのも有用でしょう。
あまり長文で、むずかしい言葉がたくさん使われているようなものは、かえってご遺族を疲れさせてしまいます。平易な言葉で、読みやすいレイアウトにまとめていただくのがよいと思います。
以下、遺族支援リーフレット「大切な涙」(※1)や、グリーフケアラジオ「百万粒の涙を流そう」(※2)の「グリーフケア宅配便」コーナー(語り手:臨床心理士・近藤浩子氏)でお伝えした事柄を、内容を簡潔にしてご紹介します。
※1 遺族支援リーフレット「大切な涙」=制作:近藤浩子(臨床心理士)・鷹見有紀子
※2 グリーフケアラジオ「百万粒の涙を流そう」=名古屋市内のFMラジオ局「名古屋シティエフエム」で2006年9月~2008年6月に放送した番組
内容
■葬儀の後で起こりやすい気持ちの変化
●後からくる悲しみ(「大切な涙」より)
葬儀が終わった後、ひとりぼっちになってから、急に悲しみが押し寄せてくることがあります。また、次のような場合は、かなりの時間が経過してから、突然、激しい悲しみにおそわれることがあります。
○死別の直後には十分に「死の事実」を認めることができなかった場合
○悲しみを表すことが十分にできなかった場合
○思い出すのがつらくて、忘れてしまったほうが楽だと思い、悲しみにフタをして抑え込もうとした場合
○仕事上、ほかの人を励ましたり支えたりしなければならないような、重要な立場にいる場合
○子育てや介護など、他の家族を支える役割を担っている場合
親戚や友人からの支援の手を拒まずに受け入れ、時には「助けてほしい」と自分から助けを求めることも必要です。
●悲しいという気持ちが感じられないこともある
「悲しい」という気持ちが感じられないこともあります。
他の人たちが感じる悲しみなどを自分が感じないことについて、「自分はおかしいんだろうか」「自分は冷たい人間なのだろうか」と自分を責めたり、不安を感じてしまったりすることがあります。
悲しみを感じない、という状態は、亡くなった人との関係や、その人自身の性格や、そのときの状況などに大きく影響されて起こってきます。
仕事が忙しすぎたり、介護や借金など大きな心配ごとがあったりする場合には、「悲しみを感じている場合ではない」と無意識に感情を抑え込んでしまうこともあります。あまりにも突然亡くなって現実感がない場合もあれば、反対に、長い間看病してきて、心のどこかで「“死”によって愛する人の苦しみが解放された」と感じている場合もあります。
「悲しいと感じない」ことで自分の心を守っているのかもしれません。
どれも、自然で、そして必要な状況なのです。
心を守る目的もあるのですから、悲しいという感情が起こらないからといって、自分を責めたり、冷たい人間だと思ったりせずに、自分の自然な気持ちを大切にしてください。
●抑うつ気分(「大切な涙」より)
葬儀のときは何でもテキパキできたのに、急にがっくりと、何もする気が起きなくなってしまうかもしれません。
悲しんでいる人が、落ち込んでしまったり、気分が重くなったり、暗くなってしまったりなどの抑うつ気分になるのは、ごく正常なことです。
ただし、不眠や食欲不振といった症状が長く続いたり、日常生活に大きな支障が生じたりする場合には、専門家の助けを求めることも必要です。
●記念日反応(「大切な涙」より)
一周忌や三回忌などの法要の日や命日、亡くなった方の誕生日や結婚記念日、お正月やクリスマス、子どもが初めて歩いた日など、亡くなった方との思い出深い特別な日が近づくと、それまで過ごしてきた日々以上に、気持ちが落ち込んだり、暗い気分になったり、睡眠が乱れたりなど、亡くなった直後のような症状が再現されることがあります。
また、夏休みや冬休みなどの長期休暇の際にも、このような反応が現れることがあります。
ですから、「どうしたんだろう? 私はまた元に戻ってしまった」とか、「悪化してしまった」などと不安になったり、「せっかくここまで立ち直ってきたのに、自分は情けない」などと自分を責めたりしないでください。
これは「記念日反応」あるいは「命日反応」といって、ご遺族の方々にとって珍しい反応ではなく、よく起こりうるごく自然なことなのです。
ですから、どうぞ安心なさってください。
■自然な思いを大切に
●涙を流すことの大切さ
「愛する人の死」という事実を、現実として一挙に受け入れるのはとても難しいことです。
このつらい現実を受け入れる一番の近道は、「精一杯、きちんと悲しむ」ということ。
あなたは十分に悲しんで、涙を流してよいのです。
涙を流すのは、心が弱いからではありません。
むしろ、自分の悲しみや苦しみを素直に、きちんと表現できるということは、とても勇気を必要とすることです。
感情的に涙を流すことで、精神的なストレスが解消されることは、医学的にも証明されています。
自然の気持ちのままに涙を流し、つらさを表現することは、とても大切なことなのです。
●立ち直ることを急がないで(「大切な涙」より)
早く立ち直ろうとがんばったり、早く元気になろうと思わないようにしましょう。
悲しみへの反応行動や悲しみの表現は一人ひとり異なりますし、ご家族の方々でも個人差があります。
男性と女性、おとなと子どもでも異なりますから、他の人があなたと同じような悲しみの表現方法ではないかもしれませんし、また悲嘆の過程の内容やスピードも一人ひとり違っているかもしれません。
あなたはあなたのペースを大事にして、あなたの自然な気持ちを大事にしてください。
また、大切な人を亡くした後は、感情が混乱しがちで、通常どおりの冷静な判断をくだすことが難しいものです。
人生の転機となるような重大な決断は先送りしたほうが無難です。
とくに、「立ち直る」ことを目的に引っ越しや転職をすると、あとで「なぜあんなことをしてしまったんだろう」と後悔するかもしれません。
どうしても重大な決定を下さなければならないときは、ひとりで決めずに信頼できる人に相談されることをおすすめします。
遺品の整理も、慌ててなさることはありません。
ゆっくり、時間をかけて、近しい方とともに、亡き人を偲びながら行うとよいでしょう。
●怒りや恨みを感じたら(「大切な涙」より)
悲しみから立ち直っていく過程のさまざまな感情の一つとして、「怒り」や「恨み」の感情が現れることがありますが、これはとても自然で正常なことです。
大切な方の死に関連のあった対象者(例えば、医療関係者など)や周囲の人たち、あるいは、現実の存在ではなく目に見えない対象、例えば、あなたを遺して逝ってしまった亡くなった方に向かうこともあります。
神仏や運命というものに対しても怒りや恨みが向けられます。
また、周囲の人たちがねたましく思えることもあるでしょう。
これらのさまざまな怒りや恨みは複雑に入り組んで混乱していて、自分でもなぜ怒っているのか、何に対して怒っているのか、わからないことすらあります。
しかし、このような感情は適切に発散される必要があり、無理やりあなたの心の中に閉じ込めておくと、悲嘆の悲しみから立ち直っていくことが難しくなります。
このような感情をいだいてしまうあなた自身を責めたり、とまどったりなさらないでください。
これも悲しみから癒されていくためには必要な過程なのです。
●罪悪感や自責感を感じたら(「大切な涙」より)
悲嘆の過程で体験する感情の中に、「自責感」や「罪悪感」があります。
亡くなった方と、自分のとってきた態度や行動とを関連させて、「もっと早く病院へ連れて行けばよかった」とか、「十分なことをしてやれなかった」、「死を防ぐことができなかった」、「自分と出会わなければ今頃は…」などと、自分を責めたりします。
また、あなたの大切な方はまだ生きたかったのに亡くなってしまい、自分だけが生きているということへの後ろめたさなども感じることがあります。
このような気持ちになるのも、悲しみから立ち直っていくなかで起こりうることで、けっして異常なことではありません。
今は無理でも、もう少し時間が経ってから、あなたの自責感の原因となっている状況について、一つひとつ思い出して現実吟味をしてみてください。
きっとあなたは「あの状況の中で、私はできるだけのことをした」ということを思い出されると思います。
●「納骨したくない」と感じたら
納骨は、四十九日や百か日法要などのタイミングで行うことが多いのかもしれません。
しかし、もしかするとあなたは、「まだ納骨はしたくない」と思っていて、けれども、周囲から早く納骨することを強く迫られたり、納骨していないことについて責められたりして、とても苦しい思いをされ、「納骨したくない自分」を強く責めているかもしれません。
愛する人のご遺骨をずっと手放したくない、自分の身近な場所に置いておきたいと思うのは、とても自然な気持ちです。
いつ納骨するのか、いつまで遺骨を身近な所に置いておくのかは、自分の思いに沿って、自分で決めてよいのです。
ご遺骨の一部を指輪やペンダントなどにして、常に身につけるという方法もあります。
■葬儀後の過ごし方
●心・からだメンテナンス
葬儀が終わると「どうやって過ごしたらよいのかわからない」と思われるご遺族は大勢おられます。中には、極端なほど忙しくしたり、本当は誰とも話したくないのに「気を紛らわそう」と無理に外出を増やしたりして、ますます疲れきってしまうご遺族もいらっしゃいます。
一般的な気分転換やリラックス法、体調管理のうえで気をつけるとよいことを季節ごとにお伝えすると役に立つと思います。
●愛する人の偲び方
亡くなった大切な人を偲ぶための方法について、具体的な方法をご紹介するのもよいでしょう。
○思い出につながる音楽を聴く
○アルバムを作る
○亡くなった大切な方の絵を描く
○亡くなった大切な方への手紙を書く
○追悼集を出す
○大切な方への思いを俳句や和歌で表現する
○形見の洋服をリフォームする
○遺骨をペンダント・指輪などにして身につける
○遺族の集いで話す
■相談機関や遺族会についての情報
●「グリーフケア」「グリーフワーク」というキーワード
大切な人がいなくなってしまった状態にどうやって適応して生きていくか、その手がかりとなる情報の多くは、「グリーフケア」「グリーフワーク」という用語を通じてしか、なかなかたどり着けない現状があります。このため、あまり難しい解説は好ましくないのですが、「グリーフケア」「グリーフワーク」という言葉そのものについてお伝えすることも有用なのではないかと思います。
●相談機関・遺族会についての情報提供
地域の相談機関や遺族グループの連絡先は、各地の精神保健福祉センター・保健所で把握していることも多いので、問い合わせてみるとよいと思います。お近くの精神保健福祉センターや保健所の電話番号を紹介するだけでも、遺族の役に立つと思います。
名古屋市では今年度、「様々な生活上の問題についての相談窓口一覧」のリーフレットを制作し、葬儀場のロビーや市営の火葬場に配置しています。
●本や音楽
死別をテーマにした書籍や音楽CDが多く出ています。ただし、探そうと思っても見つけにくいものなので、タイトルや出版社名の一覧が役に立つと思います。書籍そのものを葬儀場のロビーなどに配置してもよいでしょう。
比較的文字数の少ないものの中から、一部をご紹介します。
〔詩・メッセージブック〕
○『最後だとわかっていたなら』ノーマコーネットマレック/著、佐川睦/訳(サンクチュアリ出版)=亡くなった10歳の我が子を偲んで書いた詩
○『泣こう』パット・パルマー/著、仁科幸子/絵、Disk Potato House/訳=ハワイ在住の心理学者が書いたメッセージブック
○『ウォーキング・ツアー』sapara/絵・文、黒石ひとみ/音楽(学習研究社)=感動系FLASHの名作。動画DVDつき
○『君を失って、言葉が生まれた』藤川幸之助/著、田雜芳一/絵(ポプラ社)=配偶者の病死
〔絵 本〕
○『ジェニー・エンジェル』マーガレット・ワイルド/作、アン・スパッドヴィラス/絵、もりうちすみこ/訳(岩崎書店)=海外秀作絵本。きょうだいの死
○『おじいちゃん わすれないよ』ベッテ・ウェステラ/著、ハルメン・ファン・ストラーテン/絵(金の星社)=祖父の死
○『ほろづき―月になった大きいおばあちゃん』沢田としき/著(岩崎書店)=祖母の死
○『岸辺のふたり―Father and Daughter』マイケル・デュドク ドゥ・ヴィット/著、うちだややこ訳(くもん出版)=父親の死
○『かあさんのこころ』内田麟太郎/著(佼成出版社)=母親の死
○『あなたはそこに』谷川俊太郎/著、田中渉/絵(マガジンハウス)=恋人の死
○『うみをわたったこぶた』木崎さと子/著、黒井健/絵(岩崎書店)=親を亡くした小さな子ども向け
○『ひかりの世界』葉祥明/著(佼成出版社)=子どもの死
〔音 楽〕
最近の歌謡曲の中にも、死別に関する歌があります。「グリーフソング」としてご紹介してはいかがでしょうか。
○平井堅「Missin’ You ~It will break my heart~」=ベイビーフェイスが手がけたバラード
○平井堅「写真」=父親への思い
○高野健一「さくら」=大切な存在「さくら」との出会いと別れを歌った歌
○CHEMISTRY「最期の川」=死にゆく側が、遺してゆく大切な人にむけて語りかけている歌
○長渕剛「鶴になった父ちゃん」=父親への思い
○遊佐美森「クロ」=黒猫のクロとの出会いから別れまでを歌った歌
次回は、ご遺族の周囲の方々にお伝えしたいことについてお話しいたします。
葬祭事業者のための「グリーフサポート」勉強会 『SOGI』106号
鷹見有紀子