グリーフサポート勉強会

番外編 グリーフサポートの観点からみた司会のあり方

鷹見有紀子

グリーフサポート勉強会の番外編として、ご遺族のグリーフワークを妨げない司会のあり方を考えてみたいと思います。

強制的に聞かせてしまう「音」の怖さ

 マイクとスピーカーを通じて行うアナウンスは、ご遺族にとっては強制的に聞かされる音でもあり、ときに、とてつもない苦痛を与えてしまうことがあります。音は、聞き手の意志で遮断することができにくく、その人の状況を無視して心の中に容赦なく入り込んでくるものだからです。そこで今回は、音の話を詳しくお伝えしたいと思います。

 実は私は雑音が苦手で、スーパーなどに買い物に行くときにも、耳栓かノイズキャンセリングヘッドフォンを装着しないと5分とその場にいられないという不便さを抱えながら生活しています。ですから少々神経質すぎるのかもしれませんが、参列者の中にはさまざまな人がいらっしゃいます。そのことを想定していただき、心地悪い暴力的な音をつくり出さず、安心感のあるアナウンスをするための参考にしていただければと思います。

葬儀司会に関する誤解

泣かせる司会がよい司会?→ご遺族を言葉で傷つけて泣かせているだけかも
 ご遺族が涙を流す司会が「よい司会」と言われがちです。しかし、それは、単に無神経な言葉で遺族を傷つけて泣かせているだけではないかと私は思っています。「心に響く司会」と言うと、よいことのように聞こえますが、死別直後のご遺族は、さまざまな感情の荒波の中で、かろうじてその状態を保ちながらその場にそうしていらっしゃるわけです。そのご遺族の心は、司会者の言葉によって、いたずらに乱すことのないようにしたほうがよいのです。つまり、グリーフサポートの観点から言うと、むしろ「心に響かない司会」のほうがよい司会なのかもしれない、とさえ思います。

葬儀だから低い、暗い声がいいの?→自然な声遣いがベスト
「葬儀だから、低く、暗く、悲しげに」などという意図をもって、ことさらに低い声で行われるアナウンスは、悪意にも感じられることがあります。無意識のレベルですが、感情を意図的に操作しようとされることから、不快感が湧いてくるのです。
 自然な声遣いのほうが、聞きやすく、内容も伝わりやすいでしょう。

独特の節回しで話さなければいけないの?→自然なイントネーションで

「葬儀の司会をしている」と言うと、司会業者からは、しばしば揶揄されることがあります。「あの人は葬儀の司会をやっているから、独特の癖がついてしまって、ダメね」「もう他の世界では通用しないわね」と言われがちなのです。

 しかし、私は葬儀の司会こそ、自然な、正確なイントネーションが求められている、と思っています。心身ともに疲れきっているご遺族に、できるだけストレスなく必要な情報を受け取っていただくためには、違和感のない正しいイントネーションのアナウンスでなくてはならないのです。聞き手に違和感が生じると、内容の理解の妨げとなるからです。

葬儀は司会者が進行するの?→司会はあくまでも進行の「補助」
 司会の役割は、進行の補助であり、進行そのものではありません。アナウンスのみによって人を動かそうとするのは、号令を出しているのと同じで、ご遺族に対して失礼きわまりないことです。
 常にスタッフが傍に行って案内をするべきであり、その案内の補助的役割として、アナウンスがあると私は考えています。

安心感のあるアナウンスの例

 安心感のあるアナウンスとはどういうものでしょうか。いくつか例を挙げながら考えてみたいと思います。
●〔例1〕病院のアナウンス
 病院の待ち合いでの会計待ちのときを思い出してみましょう。
「田中さん、田中好子さん、会計窓口までお越しください」
 この病院のアナウンスが、私はあまり好きではありません。聞き逃さないようにと、聴覚を研ぎ澄ませて待っているので、疲れてしまうのです。

 同じようなストレスを、葬儀の参列者には与えないようにしたいと思っています。つまり「アナウンスを聞いていなければならない」と身構えさせてしまうことのないようにしたいのです。
 アナウンスを聞き逃してもきちんと案内してもらえる安心感(かならずスタッフが傍にいる、など)、あるいは、聞き逃さない安心感(アナウンスを2回繰り返して言うことをパターンにする、など)を感じていただけるように工夫するのがよいでしょう。
「田中さん、田中好子さん」と呼び出すやり方も、苗字を繰り返して言うことで、聞き手に対する一定の配慮はあるのでしょうが、いきなり早口でそのアナウンスが入ると、やはり辟易してしまいます。

●〔例2〕デパートのアナウンス
「本日はご来店くださいまして、まことにありがとうございます。お車のお呼び出しを申し上げます。名古屋○○○△××××でお越しのお客様……」
 まず聞き手の注意をひきつけておいてから、その情報を必要としている相手に絞り込んで情報を伝えていく、デパートのこのアナウンスはよくできていると思います。
「本日はご来店くださいまして、まことにありがとうございます」
〈「あ、なにかアナウンスが始まったな」〉
「お客様にお車のお呼び出しを申し上げます」
〈「車の呼び出しか、私はバスで来たから関係ないな」と、必要のない人はこの先のアナウンスを聞かなくてもいいことがわかる。逆に、車で来た人は注意して耳を傾ける〉
「名古屋○○○△××××でお越しのお客様……」

●〔例3〕電車の車内アナウンス
「毎度ご乗車ありがとうございます。次は、○○駅、○○駅です」
 独特の、あの渋い車内アナウンスは、次の駅で降りる人にだけ聞こえればよい、それ以外の人は聞き流せる程度の心地よさをもっています。これがもしも「さあ、みんな聞いてくださいね!」というような、アピール度満点の、もともと関心のない人の注意をもひきつける宣伝カーのアナウンスのようであったとしたら、乗客はきっと疲れてしまいます。
 また、先のデパートのアナウンスと同様、独特の口調・節回しも、安定感をかもしだしているのかもしれません。
 では、葬儀の司会はどうでしょうか。

ご遺族の状態に配慮したアナウンスとは

 第1回目の勉強会で、ご遺族はどんな状態なのか、についてお話をしました。ご遺族は、死別後の反応として「人の話が理解できない」「理由がわからないけれど無性に不安を感じる」など、普段とは異なる自分自身の状態の変化を経験されています。
 ですから、ご遺族にそれ以上不安感を感じさせてしまうことのないよう、葬儀のアナウンスでは次のようなことに留意します。

(1)ゆっくり
 結婚式やニュースなど、他の場面でのアナウンスと比べて、葬儀の司会ではスピードをゆっくりめに話すようにします。当たり前のことのようですが、葬儀の司会をゆっくりにするのは、単なる「雰囲気」のためではありません。「理解力が落ちてしまっている状態」の人が大勢いらっしゃることを想定して、理解しやすいスピードのアナウンスを心がけると、ゆっくりになるのだと思います。ですから、意味の切れ目ごとに、聞き手に咀嚼する時間をもってもらえるだけの間をしっかりととるようにします。

(2)耳に入ってくる順番で理解できる組み立て
 紙に書いてある言葉と異なり、声で伝える言葉は、発した先から消えていく情報です。わかりにくかったからといって、さかのぼって読み直したり聞き直したりすることができないのです。
 そこで、耳に入ってくる順番にすんなり理解できる語順を工夫します。また、なるべく一つひとつの文章を短く、シンプルな構造にします。
 次の4つの例のうち、耳で聞いたときにわかりやすいのはどの語順でしょうか。

A「ご遺族ご親族のみなさまは、ただいま開式10分前でございますので、ご着席くださいませ」
 耳に入ってくる順番で理解していくと「ご遺族のご親族のみなさまがただいま開式10分前?それってどういうことだろう?」という疑問符が湧いてきてしまう、わかりづらい構成です。
 語順を入れ替えて、次のようにしたほうがわかりやすくなります。

B「ただいま開式10分前でございますので、ご遺族ご親族のみなさまはご着席くださいませ」
 さらに、文章を2つに分けてもよいと思います。修飾・被修飾の関係がシンプルなほうが、聞く人を疲れさせません。

C「ただいま開式10分前でございます。ご遺族ご親族のみなさまはご着席くださいませ」
 また、「あ、私が言われているんだな」というように、聞き手の注意をひきつけてから情報を伝える、次のような語順にするのもよいと思います。

D「ご遺族ご親族のみなさま、ただいま開式10分前でございます。ご着席くださいませ」
 このとき「ご遺族ご親族のみなさま」の後で、たっぷりと間をとり、注意を向けてもらうようにします。

(3)聞き取りやすい音で
 アナウンスが聞き取れない、アナウンスで言っていることの意味がわからないということは、それだけでご遺族に不安感を与えてしまいます。そこで、聞き取りやすい声の出し方についても、少し詳しくご紹介します。

●声の出し方
 声は、その音が出始めてから消えるまでを、アタック部(起声部)、持続部、減衰部の3つの部分に分けることができます。各部の現れ方にいくつかのパターンがあり、それによってアナウンスの印象は全く変わってきます。

◎アタック部
 アタック部(起声部)は、声帯が振動し始める部分、つまり、声が出始める部分をさして言います。アタック部には、大きく分けて、ソフトアタック(軟気声)とハードアタック(硬気声)があります。
 ソフトアタックは、柔らかい声の立ち上がりのことで、基本的な発声です。息を吸い、そのまま止めないで息を吐きながら声を出します。聞き手に不快な思いをさせないためには、こちらの発声を使います。それに対して、ハードアタックは、息をある程度せき止めておいてから声を出すやり方です。

 柔らかい声のほうが聞きやすいので、基本としてはソフトアタックを使います。ただし、アナウンスは聞き取れなければ意味がありませんから、会場がざわついているとき、鳴らしものとアナウンスが重なってしまうときは、ハードアタックを使います。このように、周りの音に合わせて、ソフトアタックとハードアタックを適宜、使い分けます。

◎持続部
 持続部は声の核となる部分ですが、不自然な声をつくらないようにします。
 どのような音がもっともふさわしいかは、その人の声質や体格など、いろいろな要素が関わってきますので、一概に言うことはできないのですが、おそらく、その人の発声器官に無理がない自然な発声が、聞きやすい音に近いのではないかと思います。

◎減衰部
 声の消え際のことです。どのように声が消えていくか、によって、アナウンスの印象がかなり変わってきます。
 葬儀の司会では、文末は必ず下がりきるようにします。文末の音がその直前の音よりも高くなると、楽しげな印象となり、葬送の場にそぐわないからです。
 ここで注意しておきたいのは、低い声をわざとつくる必要はない、ということです。持続部の音は自然な高さでよいのです。不自然な声は、かえって聞き手に不快感を与えることにつながります。減衰部だけしっかり音が下がるようにすればよいのです。自然に音が下がるようにする、ということは、けっして、暗い声をつくることではありません。

●息のコントロールがとても重要
 鳴らしものの出始めの音とアナウンスの出始めの音が重なると聞き取れなくなりますので、式場内の様子を見ながら息を保ち、声を発するタイミングを待ちます。息をたっぷり吸った状態で、ときには息を止めたまま数秒間待たなければならないこともあると思いますが、息を止めて音を発するのであっても、静けさの中で声を立ち上げる場合は、インパクトの強すぎる音にならないようにします。つまり、息を止めてから出す場合でも、ソフトアタックのときのように柔らかい音を出せるよう、息をコントロールするトレーニングを、日頃からしておくようにします。

(4)違和感のない正しいイントネーションで
 日本語は音の高低の組み立てが意味の決め手になります。「一つのセンテンスにおける、文意と、個々の言葉を連ねた音の高低の組み立ての関係」をイントネーションと言います。イントネーションは理由なく勝手に変えてはいけません(注:理由があればいくらでも変えていいのです)。イントネーションが意味どおりでないと、聞き手に違和感を与えたり、強調する必要のない所が際立ってしまったりします。文章の意味が変わってしまうこともあります。しかし、葬儀の司会は、ゆっくりした口調で行いますので、イントネーションが乱れて、独特の節回しになりやすい傾向があるようです。ゆっくり読みつつ、イントネーションも正しく、というのは、実はとても難しいのです。

 日本語は、音に、緩急・高低・強弱の変化をつけて意味を表します。違和感のない読みとは、意味のとおりに音の高低・緩急・強弱が組み立てて表現されている読みのことです。このうち、強弱の変化は、葬儀の司会ではあまり使わないほうが安定感があると思いますので、ここでは音の高低と緩急の組み立て方について、お話ししたいと思います。

●日本語のイントネーションは原則、上から下へ
 日本語は、前の言葉が後ろの言葉にかかるとき、特別に強調する必要がないかぎりは前の言葉のほうを高く、後ろのほうの言葉を低く発声します。つまり、原則として、文の出だしが高く、文末が低くなります。
 具体的な音の高低の組み立て方と、細かい技術について、電報の文例を用いて解説します。

●電報の文例を使った練習方法
「ミウラタロベエ様のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げますとともに、心からご冥福をお祈りいたします」
 よく使用されるこの電文は、音の組み立てを考えるには若干複雑なので、まずは文章を3つに分けて考えることにします。

 1.ミウラタロベエ様のご逝去を悼み、
 2.謹んでお悔やみ申し上げますとともに、
 3.心からご冥福をお祈りいたします。
 この文章の修飾・被修飾の関係を図で表すと、下図のようになります。

◎〈ステップ1〉
 1~3それぞれを、自然なイントネーション(抑揚をつけず、上から下へ)で言えるようにします。
 1.「ミウラタロベエ様のご逝去を悼み」を、高い音から始まって自然に下がっていき、低い音で終わるように注意します。「ミウラタロベエ様」よりも「ご逝去を」を低く、「ご逝去を」よりも「悼み」のほうを低く発音します。
 2、3も同様に、途中で節がつかないように練習します。
 2.「謹んでお悔やみ申し上げます」
 3.「心からご冥福をお祈りいたします」

◎〈ステップ2〉
 次に、1と2、1と3をそれぞれつなげ、一つの文章として言う練習をします。
「ミウラタロベエ様のご逝去を悼み謹んでお悔やみ申し上げます」(1、2)
*「謹んで」の前で一度音を立て直します(「謹んで」から音を高く上げ直します。新しい意味のまとまりが始まるときには、通常、音が立て直されるのです)。そのほかの箇所では抑揚がつかないように、原則どおり、高い音から始まって低い音で終わるようにします。
*「ミウラタロベエ様」よりも「謹んで」のほうが、ごくわずかに低い音から始まるようにします。
「ミウラタロベエ様のご逝去を悼み心からご冥福をお祈りいたします」(1、3)
*「心から」の前で一度音を立てなおしますが、そのほかの箇所では抑揚がつかないように、高い音から始まって低い音で終わるようにします。
*「ミウラタロベエ様」よりも「心から」のほうがごくわずかに低い音から始まるようにします。

◎〈ステップ3〉
 1、2、3を通して言ってみます。長い文章ですが、二つ折れにならない1つのイントネーションで言えるように練習をしてみましょう。
 なお、「~とともに」は文または文に相当する語句に付いて「と同時に」の意を表す連語で、文例では「謹んでお悔やみを申し上げると同時に心から冥福を祈っています」という意味になります。つまり、2と3は同格と考えます。同格の関係の語句は、同じ高さで読むようにします。この場合は、「謹んで」と「心から」と同じ高さで言えるように練習します。

 実際のアナウンスでは、「謹んで」よりも「心から」のほうを若干低くしてもよいですし、「心からご冥福を」のほうを際立たせて言う方法もあります。(文意を考えてみると「心からご冥福を」の部分は、この文章の中で強調すべきキーワードと思われるので、わずかに音を高くする、あるいは逆に低くする、強く言う、ゆっくり言う、直前に間をとる、などさまざまなやり方で際立たせたほうが、聞き手に意味が伝わるのです。)
 ですが、音の高低の組み立てを自在に使いこなす練習として、まずは、〈ステップ1〉~〈ステップ3〉が正確にできるよう練習をしてみてください。

●苗字よりも名前が高くならないように
 人名を読み上げる場合、苗字よりも名前のほうが高くなりがちです。名前よりも苗字のほうを高くするか、名前と苗字を同じ高さにするよう心がけます。具体的には、苗字の中で一番高い音(「ミウラ」の「ウ」「ラ」)と名前の中で一番高い音(「タロベエ」の「タ」)は、同じ高さか、「ウ」「ラ」よりも「タ」のほうをごくわずかだけ低めに言います。

 ただし、「ミウラタロベエ」様のあとに「ミウラジロベエ」様「ミウラコロベエ」様など、同じ苗字のよく似た名前の読み上げが続く場合など、名前のほうを高くしてわかりやすく表現したい場合もあるかもしれません。しかし、高低のみで変化をつけるとどうしても不自然になりやすいため、私はその場合高低の変化は使わず、名前のほうを「若干テヌート気味に」することでわかりやすくなるようにしています。〔編集部注・テヌートとは演奏記号の一つで、音符の表す長さ(音価)を十分保って奏するという意味〕

●意味のまとまりごとに一息で言う
 一つの意味のつながりは、一つの息で音声化します。途中で切ってしまうと、意味がわかりにくくなるからです。
 では、この例文を、一息で言えるでしょうか。相当量の息の長さが必要だと思います。でも、できれば言えるように、息を長く使うトレーニングをしてみましょう。
 ただし、文の最後のほうでは息も絶え絶え……ということになってしまってはかえって聴きづらいでしょうから、音を立て直すと同時にさっと息を吸う、つまり、この文章の場合は、3の前ですばやくブレスするように練習するのもよいと思います。

●文末は下がりきる
「お祈りいたします」の「ます」が、その直前の「いたし」よりも高くなると、楽しげな印象になってしまい、場にそぐわないアナウンスになってしまいます。文末は一番低い音で終わるようにします。なお、最後の「す」は無声化します(口構えだけを残して声帯を振動させない)。「いたします」の語末は母音まで出さないで、無声音をしっかり出して音が下がりきるようにします。

●緩急の組み立ても重要
「心からご冥福を」「お祈りいたします」は、「お祈りいたします」よりも「心からご冥福を」のほうをごくわずかだけゆっくりめに言います。「心からご冥福を」が聞こえていれば、「お祈りいたします」ははっきり聞こえていなくても意味が通じるからです。緩急の組み立てが逆になると、それだけで不自然な印象を与えてしまい、安心感がなくなります。

(5)合掌中のアナウンスは控える
 第3回目の勉強会のときにもお話ししましたが、焼香中のアナウンスは耳障りなものです。ご遺族が手を合わせ、静かに気持ちを集中させている瞬間、耳障りなアナウンスでご遺族の心の作業を妨害することのないようにしましょう。

 どうしてもアナウンスをする必要がある場合でも、ハードアタックではなくソフトアタックで発声するなど、可能なかぎり耳に心地よい音になるよう心がけます。同じ理由から、状況をよく見、例えばご遺族が故人と対面し対話しているときなども、アナウンスをスタートするのは待つようにしたいものです。

(6)悲しみをあおらない
 グリーフサポートの観点から言えば、葬儀の場でご遺族がしっかり悲しみを表出できたほうがよいのですが、誰かに「泣かされる」のと主体的に「泣く」のとは違います。第三者である司会者が、ご遺族の感情を誘導したり、悲しみを不用意にあおったりしてはならないと思うのです。
 ご遺族を傷つけて泣かせる「涙を誘うナレーション」は、グリーフサポートの観点からは不必要なものであり、私自身が家族の葬儀を行う場合は、進行の補助としての最低限のアナウンスだけをお願いしようと思っています。

(7)なじみのある言葉で
「ライハイ(礼拝)」「ドウシ(導師)」と言われても、意味がわからない、という方が増えています。意味不明の言葉をアナウンスで流されたら、不安感を与えるだけでしょう。葬儀という非日常の異空間で、ご遺族をとまどわせないようなアナウンスにするためには、もしかすると、今後は、日常の平易な言葉で言い換えていくことも必要なのかもしれません。
 例えば、「ライハイ」ではなく「頭を深くお下げください」と言えば、参列経験のない子どもにも意味がわかると思うのです。

(8)聞きたくない人の耳・心には残らないアナウンスを
 聞きたくない人の耳には残りにくい、ストレスを感じさせないアナウンスが、葬儀の司会においてもふさわしいものだと考えています。

 ストレスを感じさせないアナウンス、とは、どういうアナウンスなのか、「真っ白な食パン」にたとえることができます。聞いた人がそれぞれの好みのジャムで食べられるようにするためには、司会者が勝手に自分の好きなジャムを塗ってはなりません。「イチゴジャムで食べたかったのに、ブルーベリージャムが塗ってあった」という不快感を与えてはいけません。ご遺族が、それぞれの心の中で、思い思いのジャムを塗って食べられるよう、真っ白な状態のパン=「まっさらな言葉」で情報を適切に届けるのが、よりよい情報の送り手=司会者だと思います。
 反対に、言葉に司会者が勝手な感情をこめるのは、ご遺族の心に不快感・不安感を生じさせ、グリーフワークの妨げになってしまうのです。

グリーフワークを妨げない司会

 以上、番外編として、葬儀の司会のあり方について、グリーフサポートの観点からお話しさせていただきました。
 アナウンスによってご遺族に何かを「言ってあげる」「してあげる」ことがグリーフサポートではないのです。何かを「してあげる」のではなく、ご遺族のグリーフワークを妨げないように心がけることが肝要なのです。

 そのためには、癖のない、文章の意味に添った正しい音で、伝えるべき内容をシンプルに伝える必要があります。文意に添った正しい音の組み立ては、文章をきちんと分解しないとわからないので、技術的なことにも踏み込んでお話をさせていただきました。少々マニアックな内容になってしまいましたが、おわかりいただけましたでしょうか。

 今回述べたことは、単なるアナウンス技術の話ではありません。ご遺族に余計な負担をかけないという意味で、全てグリーフサポートにつながっています。参考にしていただき、ご遺族のグリーフワークを邪魔することのないアナウンスを心がけていただければ幸いです。

葬祭事業者のための「グリーフサポート」勉強会 『SOGI』109号
鷹見有紀子

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