Q.父はいま入院中でもう長くないと医師にも言われています。父は「死んでも葬式しなくてよい。火葬だけでよい」と言っています。子どもとして耐えられません。父の意思は守らなくてはいけないのでしょうか。(52歳女性)
A お葬式には2つの面があると思います。一つは亡くなった本人が遺る人へお別れするという面であり、もう一つは遺された者が死者にお別れするという面です。前者を「死者のため」、後者を「遺された者のため」、あるいは前者を「死者の意思により」、後者を「遺された者の意思により」と言うことができるでしょう。そしてこの2つの面が分かち難くあるのがお葬式です。
本人と遺族の意思が合致していれば問題はありません。本人が「葬式無用」と言い、遺族も葬式するよりも家族だけで静かに送ってあげたいと思うならば、周囲がどう言おうと問題ありません。
しかし、本人は「葬式無用」と思っても、遺族が「しのびないからきちんと葬式して丁寧に送ってあげたい」と意思が食い違うこともあります。
法律では、たとえ遺言で葬式のことについて意思表示していても遺族にその意思を尊重する義務はないとしています。どうしても、という場合には、祭祀主宰者に遺族以外の第三者を指定し、その人に死後事務を委任する契約を結んでおけば、本人は意思を貫くことはできます。しかし、通常の家族関係であれば、そこまですることが家族関係を破壊することになりかねません。
最もいいのは、生前に家族でよく話し合って、方法についてお互いに合意しておくことです。それがどのような形であれ、本人の意思と送る者の意思とが合致して行われるのが「いい葬式」であるからです。
不幸にもそういう話し合いの機会を得ず、また充分に意思を統一しておかなかったときは、本人の意思をできるだけ尊重しつつも、遺族の意思で葬式のありようを決定せざるを得ません。
この場合、本人の意思が「葬式無用」なのですから、葬式があまり派手に大げさにならないようには注意すべきでしょう。