Q.私は自分の死に顔を家族にも、ましてやお葬式に来た方にお見せしたくありません。皆とは私の元気なときのイメージでお別れしてもらいたいのですが可能でしょうか(75歳女性)
A まず「家族にも見せたくない」というのはできませんし、しないほうがいいでしょう。
あなたは「看取られる」側ですが、同時にご家族は死を看取る立場にあります。あなたの死を事実として確認しないことには家族は次のステップに踏み出すことが難しくなります。
「死に顔を見る」というのは家族の特権なのです。死ぬ側の意思の如何にかかわらず、遺された者の権利としてあります。
但し、死に顔を家族以外には見せないという選択は可能です。簡単な方法は、死に顔に接してのお別れは家族だけで、とすることです。葬儀社に伝えることによって配慮してくれます。
厳密にやろうとするならば、まず家族だけで密葬をし、火葬にして遺骨にした状態で本葬、告別式あるいはお別れの会をします。遺骨にしてから葬式をするのは東北地方等で見られる方式で「骨葬」と言われます。
「やつれた顔を見られたくない」ということでしたら、技術的に解決する方法もあります。
それは遺体にエンバーミングを施すという方法です。エンバーミングをすることにより、やつれ、目の窪み、頬の落ち込みだけでなく、血色もよく元気だった頃のお顔を復元することが可能です。
但し、エンバーミングをする場合、ご家族の同意が必要ですので、いまのうちにご家族に相談し、同意を受けておきましょう。また、日本ではエンバーミングの施設が限られていて、地域によってはできないところがあるという残念な事情があります。
もう一つ深く考える必要のある問題があります。
人間はいつまでも若くいられることはできません。いくらアンチエイジングの治療が進んでも、やがて老いて死ぬということは人間の現実です。老いるということは足腰が自由にならない、痛い、頭の回転も悪くなる、病気が多くなる…と悪い方向に考えれば都合が悪いことがたくさんあります。
しかし、いのちというのは現在だけではなく、この世に生を享けてから死に至る暮らしの総体なのです。家族や知り合い、友人とのこれまでの暮らしの全体そのものが尊いのです。ですから死に顔だって、尊いのだと思いますし、遺される人は、死後も、その人の人生を大切な思い出としていくでしょう。