葬儀Q&A

Q59 「1日葬儀」とは?

 

Q.新聞で「1日葬儀」というのを見ました。1日で終わるならば、わずらわしくないのでいいかな、と思っています。(70歳女性)

A最近、「1日葬儀」というのを新聞やら葬儀社のホームページで見ることが多くなりました。
 その一つである東京新宿区の葬儀社のホームページを見ると、「1日葬儀」を希望される方には次のような方がいるようです。
①火葬だけの予定だが、親戚の心中を考えると…
② 2日間通夜・葬儀をしても身内だけだし…
③やはり宗教家へご依頼し、故人に対しての気持ちとして1日だけでもお葬式をしたい…
④その他、「仕事の都合…」「接待予算が…」「火葬だけでは…」というのも「多数寄せられている」とのことです。

 先日、世田谷区の葬儀社の方に聞いたら「直葬(葬式をしない葬式)と家族葬の中間の葬儀が増えている。そうしたものを含めると直葬は35%くらいある」ということでした。
「いちにち葬儀プラン」を推奨している葬儀社もあり、「式にとらわれない、小規模な中にも、心がこもった新しい葬儀の形です。一般的には、通夜式(お通夜)、告別式と2日間にわたって行われる葬儀ですが、1日で執り行う葬儀をご用意しています」と記載しています。
 お葬式をしない「直葬」でも火葬炉前で僧侶に読経をしてもらうという「炉前」という形態が多いという報告もあります。「故人に対して何もしない」というのは遺族の心中に何がしかの区切りがつかないことや後ろめたさ、あるいは罪悪感等があるということでしょうか。
 誤解してはほしくないのですが、「1日葬儀」というのは、「葬儀」が1日で終わることではありません。葬儀というのは、臨終の看取りから始まる一連のプロセスです。儀式としての葬式をしなくても葬儀はなくならないのです。

 仮に火葬だけで済ます直葬にしても、遺族の心の中では葬儀が、少なくとも24時間以上は進行しているのです。
「葬儀」というと、通夜、葬儀の2日間だけというイメージがありますが、それは違うのです。
 通夜と葬儀だけを取り上げるならば、ある牧師が言うように「同じことを2度繰り返しているようだ」となるでしょう。また、かつては「葬儀・告別式」と言われ、会葬者は通夜ではなく、葬儀に会葬するものでした。通夜は近親者による死者とのお別れの時間でした。現在では通夜の参列者が多く、葬儀に参列する人は少ないため、実態は「通夜・告別式―葬儀」となってしまっています。

 最近人気の「家族葬」は、近親者数人から故人や遺族と親しい人数十人と幅がありますが、いわば「告別式のないお葬式」です。「告別式」は一般の人に開かれたお別れであるからです。
「1日葬儀」というのは、葬儀を1日で済ますことではなく、通夜を儀礼として行わないでする葬祭業者の提供する葬儀プランなのです。
 言うならば、昔の葬儀の「通夜までは公事ではなく私事として行い、葬儀をもって公事とする」という考え方に近いとも言えます。
 昔は近親者による私的な、しかし手厚い弔いがあったのですが、それが今日では簡単になったということでしょうか。

 直葬にしても1日葬儀にしても、葬儀を簡略に済まそうという考え方が見られます。この点が危惧するところです。  葬儀は遺族の心理を考えるならば3日は必要で、できれば5日ほしいところです。これは何もお金をかけることではなく、死者と向き合う時間の大切さ、ということです
。  儀礼が大切なのは、死の事実にいやがおうでも直面することにあります。一時、高度経済成長期からバブル景気に至る間に、いたずらな社会儀礼化が進んだことが誤解を招いた、その反動がいま起こっているのではないでしょうか。

 私は「1日葬儀」を、たとえ遺族が希望しても、葬儀社が推奨すべきとは思いません。葬儀というのはプロセスであるという理解を妨げ、遺族のグリーフワークの妨げとなるからです。だからといって「通夜式」という、通夜の社会儀礼化も容認できません。

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