Q.近頃「海葬」という言葉を聴きますが、「水葬」と同じですか?「80歳になる父が海がいいな」と言っています。(53歳女性)
A一見「海葬」と「水葬」と同じことを指しているようですが、大きく違っています。
まず「水葬」ですが、これは船員法で定められているもので、公海を航行中の船舶内で死亡した場合であって、死亡後24時間経過して、衛生的に遺体を船内に保存できないとき、死者本人の写真を撮影し、遺髪・遺品を保管し、遺体が海上に浮き上がらない措置を講じて、相当の儀礼をもって遺体を海中に葬ることを言います。
いわば航海中の不可抗力な死と遺体の衛生的保存ができないかぎりに行うもので、自分で進んで「水葬」されることはありません。
「水葬」するには厳密な規定があるので、航海中に死んだからといって海に遺体を投じれば「死体遺棄」になり罰せられます。
「海葬」とは、正確な用語ではなく、海で行う散骨のことを、散骨事業者が「海洋葬」「海への葬送」などとそれぞれ言っている一つです。
散骨とは「遺骨を細かく砕いて、海や山等の自然に撒き葬送すること」です。死亡後に火葬された遺骨(=焼骨)の一部または全部を、あくまで「葬送を目的」として「相当の節度」をもって撒くことを言います。
目的が「遺骨が邪魔」だからという理由で行うならば「遺骨遺棄」で罰せられます。また「相当の節度」とは遺骨に対する住民の感情を考慮して、ということで、具体的には焼骨を原形が残らないまで小さく砕き、生活用水等ではなく、海であれば海水浴場や養殖場の近くではなく、沖合いに出て撒くことです。
「水葬」は船員法に定められていますが、散骨については規定がありませんから、刑法の遺骨遺棄や墓地埋葬法の埋蔵規定に抵触しないという条件で行われる必要があります。
なお、散骨は91年に市民団体である「葬送の自由をすすめる会」が「自然葬」と名づけて行ったことによって話題になりました。
「自然葬」はよく樹木葬等と混同されますが、これも異なります。「自然葬」はNPO法人葬送の自由をすすめる会が商標登録している同会の精神に則って行う散骨のことに限定されます。
また「樹木葬」は、あくまで墓地として許可を得た区域内で行うもので、遺骨を地中に埋蔵するにあたり、埋蔵地に樹木を植えたり、あるいは樹木の近辺に埋蔵することです。99年に岩手県の祥雲寺(現在は別法人の知勝院)が始めました。墓石を用いない点も特徴です。こちらは墓地として許可を得た区域で行うので、遺骨を砕くことは条件になっていません。「里山葬」とか「桜葬」も樹木葬の一形態です。「樹木葬」については開始した祥雲寺が商標登録をしませんでしたが、自然との共生を願って行われている葬法ということでは共通理解を得ています。