Q.最近、同年輩の友人と会うと「自分のお葬式」の話になります。でも話していて「密葬」と「家族葬」の違いがよくわからず混乱しています。(72歳女性)
A 「密葬」「家族葬」「親族葬」「直葬」「出棺葬」「火葬式」「荼毘葬」「炉前葬」…やら、いろいろな言葉が使われていて、皆さん混乱しています。葬儀社さんも言うことが違うし、インターネットで見てもいろんな言葉、いろんな説明が行われています。僧侶の方も迷っていますし、学者の方もトンチンカンな理解をされていることが少なくありません。ですから一般の方がわからないというのももっともなことです。
前掲の言葉で「密葬」以外は新しい言葉です。新しいといっても「家族葬」が95年頃でしょうか。その他は2000年以降によく聞かれるようになった言葉です。
では古い順に説明していきましょう。(今回は密葬と家族葬に絞ります)
「密葬」の原義は「密かに行われる葬儀」のことです。ですから近親者(=とても親しい人。血縁だけを言うのではありません)以外には連絡しないで、近親者だけで行われる葬儀のこと。場合によって葬儀前に死亡が他の人に伝わっても「近親者だけでしますので」と断って行われる葬儀のことです。
でも「密葬」は葬儀社や僧侶といったプロも間違えやすいのです。プロが説明するのは「本葬に先立って場合に行われるもの。本葬と対になる言葉」です。この方々は社葬や貫首さんなどの高僧の葬儀をイメージしておられます。
社会的に影響力のある方の場合、大勢の方々が集まりますし、準備もたいへんです。ですから死亡直後はうちうちで葬儀をしておいて、準備や連絡をして1カ月後などに本葬をするというスタイルをよく取ります。
そこで最初の「うちうちの葬儀」を「密葬」と呼びました。なぜ「密葬」なのか? それは皆さんにはご連絡しないで行われるからです。「密」は「秘密」の「密」です。
しかし、社会的に影響力のある人の死は伝わりやすく、「密葬」と言っても200人以上集まることが少なくありませんでした。会葬者がたくさん集まるのであれば、それはもう「密葬」とは言えない。会社や教団が主催していない(場合によっては、すでに関与している場合があるが)ということで、「個人葬」と言ったほうが相応しい事例がたくさん出てきました。
ちなみに「個人葬」とは、企業や団体が主催しない、遺族が出す葬儀のことです。
農家の場合、農繁期に葬儀を行うのは手伝ってくれる人に悪いので、とりあえず近親者だけで密葬をしておき、収穫が終わった頃に本葬をするということもありました。
しかし、本葬を伴わない「密葬」は昔から例がないわけではありません。近親者以外には閉じて行われる葬儀のことで、自死者の場合や心中した人の場合に、遺族が隠れるようにして葬儀を行うことがあります。
90年代になると、大げさな葬儀はいやだと「密葬」を選ぶ人が出てきました。あくまで本人と親しい人だけでやろうという考えの人たちです。でも「密葬」と言うとなんとなく「隠れてする葬儀」という少し暗いイメージがありました。
95(平成7)年頃から「密葬」に代わって「家族葬」という言葉が出てきました。この言葉は温かなイメージだったので、すぐに人々に受け入れられました。「義理でいやいや来る人たち」による「形式ばった葬儀」ではなく、「本人をよく知る人たちだけで温かく、形式ばらずに送ってあげたい」というのがバブル崩壊後の人々の心情にマッチしたようです。でもこの言葉は死者がどういう人であるかによって「本人と親しかった人」の範囲が変わります。当然と言えば当然のことですが。
ですから「家族葬」と言っても、数人だけのものから70人くらいまでのものまでいろいろあります。あっていいのです。親しい人の範囲はそれぞれなのですから。中には「家族だけのが家族葬、親戚が入ると親族葬」などとくだらない定義をする人がいます。葬儀社も遺族が「家族葬にしたい」と言っても、よく話を聴いてみないと、遺族がどういう葬儀をしたいのかわかりません。
また、本人と親しい人がたくさんいるのに、その人たちを排除して行って、後でもめごとになったり、秘密にしたつもりが関係者に知られ、予想を大幅に超える会葬者数となったりもします。
中には、葬儀をするのが面倒で単に簡単にすませたい人が「家族葬」を選ぶ場合もあります。私はそれを「葬儀ではなく死体処理」と言います。
「直葬」その他については次号で説明します。