葬儀Q&A

Q74 「直葬」が流行っている理由は?

 

Q.新聞によると、東京ではお葬式をしない「直葬」が流行っているとか。70年、80年、90年と生きてきた方のことを考えると何か淋しい気がします。(72歳女性)

A 最新の『現代用語の基礎知識2008』(自由国民社刊)で、私は「直葬」について、次のように記述しました。
◆直葬(ちょくそう)
葬式をしない葬儀の形態を直葬と言う。死亡後、斎場や遺体保管施設に24時間保管した後、いわゆる葬式をしないで直接火葬に処するもの。火葬炉の前で僧侶等により簡単に読経をあげてもらう等の宗教儀礼を行うことはある。2000年以降に都市部で急激に増加した形態で、東京では20~30%、全国平均でも10%程度あると推定される。

「直葬」は今始まったものではなく、身寄りのない方が亡くなった場合や生活保護を受けている方の場合に、「お葬式抜きの火葬だけの葬儀」が行われていました。  これが増えたのには92年のバブル景気崩壊後の長く続く不況が影響して、経済格差を生み、お葬式代すら出せない層の人々が増えたから、との指摘もあります。

 近親者だけで行う「家族葬」、葬式を行わない「直葬」の流行の背景には、経済不況、経済格差の拡がりは確かに影響があるでしょう。
 しかし、経済不況のみで直葬が増えているわけではありません。
 ある人は「お葬式不信」の感情に「直葬」を葬式の一選択肢とマスコミが報道したことで火がついた、と言っています。そうであると、「直葬現象」を最初にマスコミに紹介し、社会化した筆者が悪い、ということになります。

「直葬」は従来からあったものの、あくまで例外的なケースで、それを消費者にあえて知らせることはない。変に教えるから増加したのだ、という理屈です。
 言い訳するなら、「直葬」を情報として提供する前に「直葬の増加」という現象が起きたので、情報を提供したのです。順番が逆です。

「直葬の増加」という現象の背後には「家族の変容」がまずあります。
 80歳以上の死が死亡者数全体の47%を占め、まもなく確実に5割を超すことが想定されます。高齢者の半数は子どもと同居しない、高齢者のみの世帯です。単身者世帯、夫婦のみの世帯です。子ども世帯が同居していないケースが半数いるのです。

 葬儀には生前の本人との関係が大きく左右します。生前に家族とはいえ本人との直接の関係を絶っていたならば、死者を弔う、という葬式を行う必然性を感じない家族も残念ながら出てくるでしょう。
 かつてであれば、葬式についてのタブーがあったので、お葬式をしないならば地域から総スカンをくう可能性があり、実行に移す人は少なかったはずです。人前では悲しんでいる振る舞いをし、人並みの葬式を行ったのです。

 95年以降、多様な葬式の選択肢が提示され、葬式のコンセンサスが急激に崩れ、「人並みの葬式」というものがなくなったのが第一。第二に、家で葬式をしなくなったので近所の人に観られる心配がなくなったことです。80年代後半以降、拡がっていった葬式の自宅離れ。民間斎場(葬儀会館)の増加が親戚や地域の人の目による監視から解放しました。

 第三に、斎場に加えて火葬場等での遺体保管施設の充実です。遺体は特別の感染症以外では24時間経過しないと火葬できませんが、遺体をその間預かる施設があれば解決します。直葬を可能とする条件が整えられたのです。

 この直葬を「火葬式」「荼毘式」「炉前葬」と呼ぶことがあるのは、業者は「何もしないとダメかな」という遺族の揺れる感情に配慮して「3~5万円で読経してくれる僧侶がいますよ」と僧侶を斡旋、火葬炉前での読経を勧めたことによります。
 その葬儀社斡旋の僧侶の読経が出棺時であれば「出棺式」と呼ばれます。というより葬祭業者は「何もしない」よりも、どこかで儀式化することにより形を作りたいのでしょう。

 もう一つ直葬を選ぶ家族に弔う気持ちがないのではなく、通夜や葬儀式・告別式という儀礼、儀式に意味を感じないため、近親者だけでお別れすることを選ぶ人々が出現したことです。家族を喪失する辛さはあるが、それは儀礼で解消されないとする考えも増加しています。
 葬式が斎場(葬儀会館)で行われ、葬儀が消費対象になると、簡単で安いものを求める人も増加します。

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