Q.先日、「弟の骨をうちの墓に入れたいのだが」と言ったら、住職に「弟さんは分家だから別だ」と言われました。腹が立ったので、いっそのこと寺を変えようと思うのですが。(74歳男性)
A いやいやひどい僧侶ですね。まだそんなことを言っている寺の住職がいるのですか。
といっても、このお坊さん、古い考えではなく、戦後の新しい考えの人ですね。戦前の「家(イエ)」は大きな単位でしたから、長男であるあなたが了解していれば、弟であろうが同じ墓に入ることができました。
実は戦後の民法でも、祭祀主宰者である長男のあなたが了解すれば、同じ墓に入れるはずなのです。
「イエ」を核家族単位に見るのは戦後の民法の考え方です。子どもが結婚すれば別の単位の戸籍をもつのです。おそらく住職はその戦後の考え方から、長男であるあなたの家族と弟さんの家族を別物として見たので、別だと言われたのでしょう。
しかし、寺の墓地にも使用規則というものがあります。いわば契約約款だと考えてくだされればいいと思います。
現在、使用を許されているのは、そもそもその墓所を借りている人、つまり長男として跡を継いだあなたになります。
その墓所に入れることのできる遺骨を決定する権限があるのは使用者であるあなたです。
使用規則には、寺院境内墓地であれば「檀信徒に限る」とし、場合によっては「葬儀法要などの仏事一切を当寺に委嘱してください。ただし、入檀以前の宗派は問いません」という細かい条件がつくことがあります。つまり無宗教葬やキリスト教の葬儀をした人の遺骨の埋蔵を寺院が拒否することもあるわけです。
そのほか「墓地は使用を許可された者及びその親族のほかは埋骨できない。ただし使用者の申し出により管理者が許可した場合はこの限りでない」などと書かれています。つまり使用者の「親族」であれば問題ないのですが、「親族」の範囲が問題になります。
民法725条によれば、「親族の範囲」とは「6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族」です。
ですから、「親族」は、かなり広い範囲に及びます。使用規則で特に指定していないかぎり、親族は民法の規定するところによりますから、弟さんは2親等の血族ですから、使用者であるあなたが認めれば問題ないのです。
仮に「妻の妹の娘」であっても3親等の姻族になりますから、民法上の親族の範囲に入ります。
ちなみに「血族」とは本人の血のつながる人たち(自然血族)と養子縁組をした人(法定血族)を言い、姻族とは配偶者の血につながる人たちです。本人と配偶者の関係は0親等、上に行くと親が1親等、親の親(祖父母)、親の子(きょうだい)が2親等、親の親の親(曽祖父母)、親の親の子(おじ、おば)、きょうだいの子(甥姪)が3親等です。これが6親等まで続くのですから、その範囲は広い範囲になり、昔の大一族を含むものとなっています。曾祖父のきょうだいの子までが6親等です。
さらに「使用者の申し出により管理者が許可した場合はこの限りでない」とあるのですから、これは親族ではない、たとえば友人の遺骨でも、「墓地の管理者が許すならば埋蔵できる」と読めます。
また、遺骨の埋蔵にあたっては、火葬済みの証印のある火葬許可証または分骨証明(火葬証明書)、改葬のときには改葬許可証の提出が義務づけられています。
だいたいが寺院境内墓地の使用規則において共通していますので、その寺で葬儀法要を行い、証明書が付帯しているかぎり、弟さんの遺骨の埋蔵を寺は拒否できない、と解釈することができます。弟さんが2親等、弟さんの子は3親等で、まだ同じ墓に入れる権利があることになります。
理屈では以上のようになりますが、最近のお坊さんで、弟や妹たち、きょうだいの家族は分家とか別家と解釈する人がけっして少なくないのは残念ながら事実です。そのため寺との紛争が起きる例が少なくありません。
その結果、檀家であることを辞める場合には、今までの墓を改葬する必要があります。
改葬するためには墓にある遺骨を取り出し、原状復帰する必要があります。この工事には1平方メートルあたり約10万円かかるというのが墓石関係者の解説です。また、新しいお墓を求めることになると、その費用がかかります。