葬儀Q&A

Q84 「葬式」とは何?

 

Q.最近『葬式は、要らない』という本が売れたり、火葬だけの「直葬」などが紹介されています。「葬式」とはいったい何なのでしょうか。(38歳女性)

A どうも世の中には「(お)葬式」という言葉の中身が説明されないために、それぞれ異なった「葬式」観が出て、それがまた議論の混乱に拍車をかけている情況です。

 葬式は「人の死」があって行われるものだ、ということは共通認識としてあると思います。そこからまず話を始めることとしましょう。
 次のような状景を思い描いてみてください。
 病院のベッドに85歳のおばあさんが横たわっています。周囲にはおばあさんの娘とその息子がいて見守っています。医師と看護師がいて、医師がおばあさんの脈を診ています。

 おばあさんは娘一家と同居していたのですが、病気になり入院をしていました。
 入院の時に医師は「お歳ですから完全な回復は難しいでしょうが、急に悪化するということもありません。入院して、しばらく安静にしておきましょう」と言ってくれ、入院後は1日おきに家族が見舞っていました。きょうも娘が見舞ったときには、特に変わった様子がありませんでした。

 夜7時、病院から「危篤」という電話があり、二人は入院中の病室に駆け込んだところです。
 医師が脈を診たり、目の瞳孔を観察していましたが、ゆっくり家族に向き直り「ご臨終です」と言い、黙って頭を下げました。
 娘にはおばあさんが入院して以来、いずれ来る死について覚悟はあったと思いますが、医師に「急にということはない」と言われたので、死はやはり「急」だと思ったでしょう。
「老い」があり、「闘病と見舞い」があり、そして「危篤」の知らせがあり、医師からの「死亡判定・通告」があり、そこで「家族」は「遺族」になるのです。

 家族はまず事態がどうなっているのかを理解するのに混乱した頭で考えるでしょう。考える間もなく死者に飛びつくかもしれません。
 看護師はしばらく家族の様子を見守り、点滴器具があればそれを取り外し、茶碗に水を入れ綿棒と共に家族に差し出し、「お別れを」と言うでしょう(末期の水、死水)。

 これからどうしたらいいか、家族は考えます。
 でも、事態は進みます。
 看護師により死後の処置をされ、新しい浴衣に着替えられ、霊安室にストレッチャーで運ばれ、葬儀社は決まっているかと訊かれ、決まっていなければ病院付きの葬儀社を紹介され、自宅まで寝台車で運ばれ、自宅の一室に安置されます(枕直し)。

 それから葬儀社を決め、葬儀の日程や仕方を打ち合わせます。日程や葬儀の場所が決まれば関係者に連絡します。檀那寺があれば来ていただき、枕経を上げてもらいます。その日は縁が深い親族や友人と一緒に過ごし、翌朝に納棺。親しい関係者が弔問に来ます。夕方、斎場(葬儀会館)に移動し、夜に通夜。

 翌朝は葬儀を行い、出棺。火葬場でお別れし、控室で待機。火葬が終わったとの連絡で拾骨し、骨壺に入った遺骨を抱き、斎場(葬儀会館)に戻ります。還骨法要、繰り上げ初七日法要を終えて、関係者と一緒に会食。来ていただいた方々を送り出し、自宅に戻り、後飾り壇に遺骨を安置。これで葬式が一応終わります。

 上の例はよくある例ですが、若くて交通事故に遭っての死などは看取りの機会がありません。いろいろな死があります。
 また、誰に連絡したらいいか、宗教や葬儀社はどう決める。どんなお葬式にするか。返礼品や料理…と決めることはたくさんあります。

 面倒だから通夜、葬儀はしないでおこう、とすれば直葬。ほんとうに親しい人にだけ来てもらうならば家族葬。どんな人がどのように亡くなったかで、連絡する範囲も違ってきますし、「親しい範囲で」と思っても口伝えでたくさんの方が会葬するケースもあります。また、死者と家族が不和で看取りがいない、いても友人というケースもあります。また、自宅で亡くなり、自宅で葬儀というケースもあります。単身者で家族は遠距離というケースもあります。亡くなる人、周囲にいる人、亡くなり方、と葬式の変動要因はさまざまです。

 でも、どんな形態であろうと、死者を弔い、葬るということは、たとえ立ち会いが葬儀社の担当者1人だけであっても行われるのです。
 また、誰にも共通する葬式の型があるわけでもありません。葬式は要、不要ではなく、人の死の受けとめ方のありようが問題なのです。

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