葬儀Q&A

Q92 お葬式はいる?

 

Q.母は82歳ですが、今は元気で実家で一人暮らしをしています。でも高齢でもあり娘としては心配です。実家に母は「私が死んでもお葬式はいらないからね。と言います。何でも15年前に先だった父の葬式で会葬者に頭を下げ続けで、「こんなお葬式はいらない」と思ったそうで、娘に自分と同じことをさせて迷惑をかけるのがいやだというのですが、私は納得できません。(55歳女性)

A 最近の消費者アンケート結果を見ると、「お葬式は簡素に」「お葬式で迷惑かけたくない」「お葬式はいらない」というような意見は、若い人よりも高齢者に多く見られます。
 その理由を考えると、一つは、子どもに迷惑をかけたくない、というのがあります。
 もう一つは、以前にした家族のお葬式でいやな思いがした、というのがあります。

 お母様の場合、特に15年前に経験したお父様のお葬式に悪いイメージをもっておられるようですね。
 バブル期の頃のお葬式に反発を感じた方は少なくありません。
 喪主を務める方には、親戚が「あなたは喪主なのだからしっかりしてね。皆さん忙しい時間をぬって来られるのだから失礼のないように」と言われた人も少なくないでしょう。

 しかし「それっておかしくないか」という疑問をもつ人たちが出るようになりました。遺族が死者を弔うことが充分にできないなどというのはおかしい」、また「こんなお葬式をすると子どもに迷惑をかけるから私の場合はやらなくていいから」と言う人が増えています。

 そもそもお葬式は、お葬式に参列、会葬される方々をもてなすためにあるわけではありません。主役はあくまで亡くなった方ですし、弔う中心は遺族です。遺族が死者と充分な別れの時間をもち、自分たちが弔っている、と思われないようなお葬式はお葬式ではないのです。

 参列する人、会葬者の方々にしても、自分たちは接待されるために来ているわけではありません。皆さんは亡くなった方を弔い、自分たちが弔意をもってきたことを遺族に示し、哀悼の言葉をちょっとでもかけられたら、と思ってくるのです。失礼にあたらないように、などということは考える必要がないのです。もし心配なら、葬儀社の人に「自分たち遺族はお弔いに専念するから、後はよろしくね」と言っておけば、「どうぞご遺族はお亡くなりになった方のことだけ考えていてください。その他は私どもがきちんとやりますからご心配なく」と応えてくれるでしょう。

 お葬式では思いがけない人が声をかけてくれたり、故人にお世話になった、とお礼の言葉を言われ、とてもよかった、という人がいます。遺族の方が死者を想う気持ちが強いとそれは参列者の人たちにも伝播して、死者を想う気持ちがいっぱいのお葬式ができます。

 亡くなった方とのお別れ、お見送りは、遺族にとっては二度とないたいへん重要な機会です。
 大切にお葬式を行うというのは、祭壇を大きくすることでも、会葬者の数を集めることでもありません。心の問題です。だから親だから、自分のお葬式だから、と子どもが弔う気持ちを否定したり、子どもや孫から弔う権利を奪えないのです。お金がときどきお葬式を狂わせます。でもお葬式でほんとうに大切なのは心のもちようなのではないでしょうか。

 よく雑誌などで「お葬式のマナー」などが特集されます。でも突き詰めればマナーなどはどうでもいいのです。死者のことを想うこと、弔うことが欠けることほど失礼なことはありません。
 お葬式に出席する機会があまり多くないから「恥をかきたくない」と心配されるのでしょう。宗派や宗教も違えば習慣は違います。全部知っている必要はありません。ある人はどんなお葬式でも白封筒に「弔」と一言書いて香典を持参していました。誰からも文句も注意も受けませんでした。

 親しくしていた方の通夜に行ったら、ポロシャツにジーパンという人が最前列に座っていました。お経が終わると、喪主と一緒に立ち、ポロシャツ姿の人が、目を真っ赤にして「旅先で兄の死を知り、飛んできました」と言うと、参列者に感動が広がり、誰も故人の弟さんの服装を責めませんでした。

 お葬式は故人のために行われるのですが、故人を想って集まる人たちにも大切な機会です。死者は、社会に出て生活したのであれば、家族だけの存在ではありません。故人と親しかった人にも弔う権利はあるのです。しかし、お客様に失礼がないように、と遺族が死者を放っておいてお世話するのはおかしなことです。

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