葬儀Q&A

Q99 夫婦とも散骨をしたいが?

 

Q.私たち夫婦には子どもがいません。それぞれの実家の墓はきょうだいの子が継いでいるので、自分たちは散骨をしたいと思っています。散骨について注意すべきこと、届出等を教えてください。(68歳男性)

Aまず、「散骨」について説明しましょう。
 散骨とは英語で「スキャタリングscattering」といいます。「スキャタscatter(撒く、ばらまく)」という言葉から生まれ、葬送用語としては「遺骨を粉々にして撒く」ことを意味するようになっています。

 欧米では国や州で法令で定めているところがありますが、日本には直接「散骨」に言及した法律がありません。しかし、どう行ってもよいわけではありません。

 1991(平成3)年に葬送の自由をすすめる会(当時=安田睦彦会長、現在=島田裕巳会長)が神奈川県の相模灘で「自然葬」と名づけて散骨を行い、話題となりました。万葉集にも散骨らしき記述が見られるので、日本でも古代、中世では行われていたと推測されていますが、近代以降では公にされた最初の事例です。

 日本で法律的に公認されている葬法は、「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」に基づく土葬(墓地への遺体の埋葬)、火葬、火葬後の遺骨の墓地への埋蔵、納骨堂への収蔵、そして「船員法」に定められた遺体を公海上で水葬することです。

「土葬」「火葬」「焼骨(火葬後の遺骨)の埋蔵」「焼骨の収蔵」「水葬」については法律に定められていて、実施には条件がついています。また遺体、遺骨については刑法190条に規定があり、「遺骨遺棄」「死体損壊」「死体遺棄」が禁じられており、遺体や遺骨については、遺体や遺骨に抱く社会的習俗としての宗教感情(遺体、遺骨に寄せる大切にすべきだという国民感情)を尊重すべきことが定められています。したがって墓埋法や船員法に定められていなくとも、刑法190条を無視した遺体、遺骨の取り扱いは禁じられている、と解釈されています。

 散骨(自然葬)について厚生労働省は、墓埋法では言及していないとして態度を明らかにしていませんが、以下のような法律的解釈が法曹界でほぼ共有されています。
「散骨(自然葬)については、あくまで葬送を目的として行われ、相当の節度をもって行われるならば違法とはいえない」

 この「相当の節度」とは、①遺骨を細かく砕き、原状をとどめない(外見から遺骨とは推定できない程度まで細かくする。ほぼ2ミリ以下)。②遺骨を撒く近辺の住民感情に配慮する(陸地では、生活用水として使用されている川、生活地域=農地、商店街、住居地とその近辺は避ける。海では、養殖場や海水浴場の近辺は避けて陸地から遠く離れた区域で行う)等をいいます。

 12年4月より墓埋法が改正され、墓地、火葬場等の許可、変更、規制等の運用については従来の都道府県知事から市区長(町村は都道府県知事のまま)に移譲されました。
 すでに北海道長沼町、七飯町、岩見沢市、埼玉県秩父市、長野県諏訪市、静岡県御殿場市では条例を設けて散骨(自然葬)の禁止や規制を打ち出しています。今後は市区レベルで規制が行われる可能性があります。

 また、こうした規制自治体が増加することを懸念し、NPO葬送の自由をすすめる会では議員立法で葬送基本法をつくる運動を行っています。

 なお欧米では散骨(自然葬)について墓地内に散骨用の区域を設ける例が多く、日本でも「墓地として許可を受けた区域内に散骨用スペースを設けて散骨を行うこと」は合法と解釈されています。

 墓地内に散骨する場合には火葬許可証(あるいは分骨証明=火葬証明書)の提出を求められますが、墓地以外に散骨する場合には届出あるいは火葬許可証(火葬証明書)の提出義務はありません(一部の散骨事業者は火葬許可証〔火葬証明書〕の提出を求めています)。

 夫婦2人の世帯で夫婦共に散骨を希望される場合、個々に散骨を行ってもかまいませんが、先に亡くなった方の遺骨を保管しておき、2人が亡くなった段階で、指定しておいた祭祀主宰者(家族以外も可)に、2人の遺骨を一緒に散骨してもらうよう委任しておきます。
 委任する場合、委任する人(NPO等の団体も可)と生前契約を結び、遺言で祭祀主宰者の指定さらには遺産の中から費用を支払う場合には負担付遺贈を指定しておきます。

 散骨(自然葬)は自然回帰希望者の増加、後継者がいない・いても死後を託したくない人の増加で、今後増えることが予測されます。

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