Q.散骨で遺骨遺棄罪かどうかが問題になりましたが、関西では火葬場で骨上げする際、ほんの一部のみ拾い、残りのほとんどは置いてきます。あれは遺骨遺棄罪にあたらないのでしょうか?(63歳男性)
A 「遺骨遺棄罪」の規定は刑法190条にあります。つまりは「遺骨の遺棄、棄てる」行為は法律的に禁止されています。
お尋ねの骨上げの件ですが、東日本の全骨拾骨、西日本の一部拾骨は地方習慣です。社会的習俗に属するので、これは法律で問題にする範囲を超えています。したがって西日本の一部拾骨は刑法の遺骨遺棄罪に該当しません。
それを合理化するために、「焼骨」は「火葬された骨」の意で、「遺骨」は「遺族関係者によって拾骨された焼骨」「土葬された遺体が骨化したもの」「墓地に埋蔵、納骨堂に収蔵された骨」を意味するよう解釈します。
骨上げされなかった骨を「産業廃棄物」とよぶ人がいますが、そこまで特定されてはいません。いわば「名前のない人骨」となり、「家族も所有権を放棄したもの」として取り扱われ、「刑法でいう遺骨ではない」と解釈されています。したがって一部のみ拾骨し、残りを拾骨せずに火葬場に置いてきても、刑法の遺骨遺棄には該当しません。
墓地以外の海上や山に遺骨を細かく砕き撒くことは遺骨遺棄を禁じた刑法に違反する行為ではないか、という議論がありました。
葬送の自由をすすめる会は次のような見解を公表しています。
〈遺灰を海や山に還す自然葬は、私たちが運動を始めたころは違法のように思われていました。私たちは、葬送のために節度のある方法で行われる限り問題はないと主張し、1991年に相模湾で第1回自然葬を行いました。これについて、法務省、厚生省(当時)も追認する見解を出し、葬送の自由という基本理念が確立しました。〉
ここでは法務省、厚生労働省が追認する見解を出した、とありますが、それは事実誤認です。
相模灘での自然葬(散骨)を報道する朝日新聞の社会部の記者が法務省に取材した際に、法務省刑事局の担当官が見解を出した、として報道しました。後日、筆者が同じ担当官に取材したところでは、「散骨について法務省としての公式見解を発表した事実はないし、法務省刑事局で認定するものではない。法律に抵触するかどうかは裁判所が明らかにするものである」と否定しました。続けて「散骨散骨(自然葬)について法務省は今すぐ遺骨遺棄罪で摘発することは考えていない」として、「法務省の公式見解としてではなく、法曹人個人としての考えを言うならば、刑法190条は『遺骨に対する社会的風俗としての宗教感情を守ること』を法益(法律の立法精神)とするものであるから、散骨は外形的には違反するが、遺骨を棄てる目的ではなく、あくまで葬送を目的として行うものであり、相当の節度をもって行うならば違反とはならないであろう。世論動向と共に目的と方法を注意深く見ていく必要がある」と法務省、検察がすぐ摘発することは考えていないことを明らかにしました。
2002年4月5日実施の内閣府世論調査では「散骨(河川、海、山林等に骨を散布する)という葬法が広く普及していってもよい」いう質問に、「全くそう思う(賛成)」との回答は11.4%、「どちらかといえばそう思う」が16.2%、「どちらともいえない」が35.7%、「どちらかといえばそう思わない」が15.7%、「全くそう思わない(反対)」が20.7%でした。
これは「違反」か否かを問うた質問ではありませんが、「全くそう思わない(反対)」と「どちらかといえばそう思わない」を合わせても36.4%ですから「違反」とまでは思っている人は少数と考えることができます。
小谷みどりさん(第一生命経済研究所主任研究員)が「2009年に実施した調査では、散骨を『葬法としては好ましくない』と考えている人は14.7%で、『自分はしたくないが、他人がするのは構わない』と回答した人が55.1%と過半数を占めた」(「散骨が新しい葬法として定着なるか」)と報告しています。
国民感情ですから、世論の動向が問題となり、国民感情としては法律違反とまで考えていない、ことになります。しかしどういう方法でもよいのではなく、「相当の節度をもって行う」が必要となります。
なお厚生労働省は「墓地埋葬法は散骨を前提としていない」と判断を留保しています。