葬儀Q&A

Q109 お葬式で言ってはいけない言葉は…?

 

Q.会社の親しくしていた同僚のお父様が亡くなり、お葬式にうかがうのですが、お葬式で使ってはいけない言葉というのはありますか。(45歳男性)

A実用書、マナー本の類に「使ってはいけない言葉」としてよく書かれているのが「忌み言葉」です。よく例に挙げられるのは、
「かさねがさね」「たびたび」「しばしば」「くれぐれ」「返す返す」「いよいよ」「ますます」「次々」…というように、言葉が繰り返される「重ね言葉」です。
 また、「また」「再び」「再三」「続く」…というように「続く」をイメージされる言葉です。
 要は「不幸が続く」ということになってはいけないので、と忌み言葉とされているのです。

 これらは私としてはまったく根拠のない説で、死や葬式への偏見が生んだ言葉であると思います。
 葬式や火葬に行った人が家に入る前に塩を身体に振る、という習慣もそれに近いでしょう。
「清め(浄め)塩」の問題は、現在のような公衆衛生の知識がない時代に、「死は伝染する」と考えられていた中世の衛生観念のようなものと理解できます。つまり「疫病」と言われた今の「感染症」が流行したことを背景に生まれた習俗でしょう(しかし、今のように葬式の会葬礼状に添えられる「清め塩」は1970年前後に葬祭業者が「サービス品」として考案したものが全国に流行ったものです)。

 おそらく似たものでも忌み言葉はもっと新しく、どうも1960年代前後に、結婚式の忌み言葉と共に生まれたように思います。
 結婚式の忌み言葉としてはある本では次の例が挙げられています。
●言い換え
死ぬ→ご逝去、終わる→お開きにする、帰る→中座する、四→「し」と読まずに「よん」と読む、九→「く」ではなく「ここのつ」と読む、ケーキを切る→「ケーキにナイフを入れる」と言う。

●不吉な言葉
死ぬ、仏、葬式、負ける、病む、敗れる、滅びる、壊れる、憂い、痛ましい、散る、悲しむ、嫌う、疎んじる、破れる、褪せる、流れる、九、四、滅ぶ、倒れる、衰える、しまう、裂く、閉じる、弔う、お釈迦、失う、苦しい、泣く、退く、やばい、弱る、つぶれる、とんだこと、とんでもない、最後、終わり、等

●別離を連想させる言葉
別れる、嫌う、終わる、終える、帰る、帰す、切る、切れる、失う、戻る、逃げる、出る、出す、去る、放す、裂ける、割れる、捨てる、ほころびる、ほどける、消える、冷える、飽きる、薄くなる、薄い、等

 …ここまでくると滑稽を通り越して、「言葉狩り」に近いものです。
 戦後の高度経済成長期に披露宴の全盛時代を迎え、そうした晴れ舞台でのスピーチに失敗しない方法として、どなたか「マナー専門家」なる人が知恵をつけ、流行らせたものではないでしょうか。

「社会的に失敗しないために」と生み出されたものです。ある意味で高度経済成長期のおかしな社会性を象徴している感じがします。これだけの避ける言葉の例を見ていると「使える言葉がない」と読む人を不安がらせます。これはほとんど脅迫です。

 葬式や結婚式での言葉は相手に自分の気持ちを伝えるものです。自ずと相手との親密度により変わります。
 たとえば、お葬式で使わないほうがいい、という言葉は相手の心を傷つけるかもしれないものです。
「元気出してね」「がんばってね」は、言う人は励ますつもりでしょうが、遺族には「私が悲しいなか、せいいっぱいがんばっているのに、それが理解されない」という孤立感や反発を招くおそれがあります。
「泣かないでね」にいたっては、死別の悲嘆を理解してもらえていない、と不信感を招くおそれがあります。

 注意すべきは相手の悲しみが深いことを配慮することです。社会的に使っていい言葉、悪い言葉を勝手に決める権利なぞ誰にもないのです。
 結婚式でも同様だと思います。頭だけで考えたタブーなんて無意味です。お祝いの気持ちが率直に伝わればいいのではないでしょうか。

 忌む言葉はありませんが、相手を傷つけかねない表現は避ける、相手に気持ちを率直に伝える、というのが正解ではないでしょうか。
 私が姉の葬式で言われてうれしかったのは、「お姉さまにはお世話になりました」「よくしてくださって」「もう、悲しくて」…と姉とその方が築いたであろう親愛な関係を率直にお悔やみとして言ってくださったことです。

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