Q.60歳も後半になると友人や親戚のお葬式に出る機会も増えました。そしていつも思うのですが、どうしてお葬式は慌ただしいのか、もっとゆっくりできないのか、ということです。何か日を置いてゆっくりやれない理由があるのでしょうか。法律で何か決められたことでもあるのでしょうか。(68歳女性)
A 法律的に言えば、死後いつまでお葬式をしなければいけないのかについては定められていません。
法律で定められているのは、
①死亡届の提出期限
死の事実が判明してから7日以内(国外では3カ月以内)
②24時間以内の火葬、埋葬の禁止
特別に指定された感染症にかかった死者(疑いのある場合を含める)以外は死後24時間以内の火葬や埋葬(=土葬)を禁止
の2点でしょう。
また、「お葬式」というのは多義的な言葉ですから、東北地方等では、死亡後24時間経過後に葬儀式に先立って火葬をする慣習が見られます。これを「骨葬」と言います。
日本列島は長いので、お葬式の慣習はそれぞれ違っています。
関東中部以西は一般にお葬式を行ってから出棺し、火葬をします(静岡、熊本の一部等では骨葬の慣習のある地域もあります)。
関東北部以北は一般に火葬をお葬式の前に行います(例外もあります)。
このように大きく2つの違った慣習があります。
でも、骨葬地域でもお葬式は延ばせますが、火葬はそんなに延ばせません。火葬を先に延ばすにはエンバーミングという遺体に対する処置を行う必要があります。そうではなくドライアイスでは、遺体の状況によってほぼ1週間程度が限界です。それ以上は遺体の腐敗の進行を防ぐことは極めて困難です。
お葬式を死後慌ただしく行う傾向にあるのは、遺体の腐敗が進行して遺体の容貌が変化するのが亡くなった方の尊厳を冒すことになると怖れるからです。
遺体とのお別れは、近親者の心情を考えると、可能なかぎりゆっくりするのが望ましいです。しかし、遺体の腐敗進行もまた近親者に心理的な傷を負わせます。この2つのせめぎあいで葬儀の日程は考えられます。
エンバーミングできればその心配はないのですが、現状では残念ながらエンバーミング施設が全国どこにでも普及しているわけではありません。
そうするとドライアイスか冷蔵庫による処置となります。その場合には、死亡日はそのままにして、翌日あるいは翌々日に通夜をし、その翌日、つまり死後3日目あるいは4日目にお葬式をして(骨葬地域では火葬をして)、火葬をする、というのが一般的です。5、6、7日目に火葬をするケースもありますが、それは遺体の状況によります。
慌ただしく感じるのは、お別れの期間と腐敗進行との見合いがあるからです。
お葬式の日程だけの問題でしたら、先に火葬を済ませておけば、お葬式の日取りは自由に決められます。
以上、火葬を前提に話をしてきましたが、実は火葬が一般的になったのは戦後のことです。
日本は明治末期までは火葬よりも土葬するケースが多数でした。火葬そのものは5世紀くらいにはもう見られる古い葬法ですが、木を集めてやぐらを組んで燃やす火葬は経済的に民衆には困難でした。ですから大阪、江戸等の大都市、北陸地方等の浄土真宗の門徒が多数の地域を除いては、近代の明治に入っても土葬が主でした。記録では最も古いのが1896(明治29)年のものですが、全国で火葬率は26・8%でした。
ところが明治後期にコレラが大流行して死者が多数出たことから、政府も公衆衛生の観点から火葬を進めることになりました。1897(明治30)年に伝染病予防法が制定されたことが契機となりました。
それでも火葬率が5割を超えるのは1940(昭和15)年です。
戦後は公衆衛生の観点から火葬が推進され、火葬率は急上昇、1980(昭和55)年に9割を超えました。現在では99・9%となり、土葬は小児を除くと離島等で全国で100体程度と極めて例外的になりました。
先に「エンバーミングをすれば別」と述べましたが、いつまでも遺体を置いておくというのは国民感覚から違和感があります。そこでエンバーミングを管轄しているIFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)では自主基準を制定して、海外移送を除き、50日以内に火葬または埋葬することを約束した場合に限り処置できる、と定めています。