密葬と無宗教葬

「密葬」考(1)

■言葉としての「密葬」

「ひそかに葬ること。内々で行う葬式」──広辞苑
 密葬の定義はこれに付け加えるものはない。「密」は「秘密」「ひそか」の意味である。
 だが、戦後、密葬はこの本来の意味に加えて次のように使用されてきた。

1〈本葬〉に対する〈密葬〉

「本葬に対する密葬」は、社葬などの大型葬をイメージして使用されてきた言葉である。つまり、後日に行われる社葬を「本葬(本式の葬式)」とし、それに先行する死亡直後の(通常は個人葬として営まれる)葬儀を「密葬」と言うものである。

 この「密葬」の実態を見てみると、大々的に会葬者を集めて営まれるものもあり、「ひそかに」「内々に」行われるはずの密葬という言葉と矛盾するものも少なくない。
 おそらくこの起源は「後に正式に告知して社葬を行うので、とりあえず遺体処置を済ませないといけないので、内々に葬式を行おう」という本来の密葬の意味で用いられたことにあったのだろう。
 だが、社会的な立場をもつ人が亡くなった場合、特別の告知を伴わなくても弔問に訪れる人が自然に多くなる。特別に他者に閉じて葬式を営むという姿勢や自覚がなければ、いくら「密葬」と言っても一般会葬者に開かれた葬式になってしまう。そうなると密葬には存在しないはずの告別式も営むようになり、結果として密葬の本来の意味は消えて、本葬との対語として「密葬」という言葉が機能するようになった。
 この場合、意味が変質したのであるから、引き続き「密葬」という言葉を用いるべきではなく、「個人葬」と言い直すべきであった。

 これと類似した関係のものとして一般的に行われる「密葬」がある。
 多く見られるのは年末に死者が出たときである。正月に葬式をするのを避け、とりあえず近親者だけで内々に葬式をしておいて、幕の内が過ぎてから告知して葬式(本葬)を営む。
 こうした例は他にもある。亡くなったのが商売上繁忙期にあたったり、あるいは家族が外国などにいてすぐには帰国できない場合など、とりあえず火葬という遺体処置を中心に内々の葬式を済ませておいて、後日に告知して葬式を営むという方式である。
 こうした例はあくまで内々に営まれるものであるから「密葬」という言葉に矛盾がない。

2火葬と同義語に

 もう一つは、「密葬」が「火葬」と同義語的に用いられるケースである。
 これは地域的には関東北部から北で言われることが多い。骨葬つまり火葬を葬儀式に先行して行う習慣が多い地域で一般化している。
 この地域の基本形は、通夜を営み、朝に自宅を出棺して火葬場に行き、火葬を施し、午後から寺に行って葬儀を営み、墓に納骨する──となっている。
 火葬を済ませれば遺体の腐敗という問題はなくなるので、火葬から葬儀式まで日をおくこともヴァリエーションとして存在するが、基本形は午前に火葬して午後から葬儀式・納骨である。

 火葬を「密葬」と言いならわすようになったのは、火葬が遺族・近親者という閉じられた人間関係を中心とした営みであったからであろう。遺体処理は葬の基本である。したがって「火葬を内々に営む」ことを「密葬」と称し、これから派生して火葬そのものを「密葬」と言うようになったのであろう。

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