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「死の哲学」に関する本

■V・ジャンケレヴィッチ『死』 仲沢紀雄訳、みすず書房、1978
 
 フランスの哲学者。この本は難解である。哲学者の森有正氏は「人間の永遠のテーマである〈死〉を主題として奏でるポリフォニックな思索世界、三つのモチーフ〈死のこちら側の死〉〈死の瞬間における死〉〈死のむこう側の死〉の展開によって、完璧に、精妙に演じられる一大交響曲といえよう」と絶賛している。
 この本が現代でも強い影響力をもつのは、死を一人称、二人称、三人称に分けて論じたことである。人称によって死がまったく異なるという、死を論じるときの基準を最初に整理して唱えたのがジャンケレヴィッチである。

■小浜逸郎『癒しとしての死の哲学』 王国社、1996
 
 著者は後書きで「この本では、医療という枠組みのなかに発生する死の問題を哲学的な死の考察に結びつけるという、これまであまりなされなかった方法を用いている」「私たちひとりひとりが、近代の申し子のような『医療』というパラダイムからどれくらい自由に『私たちの死』のイメージを構成できるかというのが、私の死の言説に手を染める主たるモチーフのひとつだったからである」と述べている。
 脳死、癌告知、安楽死などきわめて現代的な課題を取り扱っており、身近でかつ読みやすい。
 著者が、「死についての説得力のある物語」が共有されなくなった時代に「新しい生と死の物語を展望する」という課題の提出は新鮮なものがある。

■細川亮一他著『死』 シリーズ「現代哲学の冒険」 1、岩波書店、1991
 
 現代哲学において死がどう論じられているかを示すためにあげた。哲学的にはあまり有効な議論が行われていないことを示しているようにも思える。

■吉本隆明『死の位相学』 潮出版社、1985★
 
 これは平易ではないが極めてスリリングな本である。現代日本の代表的思想家の一人である吉本に対するインタヴュー構成。
文学が中心であるが、哲学、社会学、文化人類学、精神医学の問題など幅広く、かつ深く考察されている。
「だが死を論ずる特異さは、いつも後ろめたさを伴うこと、それが何のことかわからないのに、怖れの予感がつきまとうことだ。何度じぶんにじぶんを説得させても、この思いはまた蘇生してくる」
 と述べる著者の言説は死に対して極めて感性がナイーブであるがゆえに本書を豊かなものとしている。
序「触られた死」/『死』体験の意味/戦中派の生き方/東洋と西洋の生死観/『銀河鉄道の夜』にみる死後の世界/再生もしくは救済物語について─大江健三郎著『新しい人よ眼ざめよ』を読む/〈死〉が恐怖でなくなるとき─『イワン・イリイチの死』と『マルテの手記』を読む/心霊現象とホログラフィ─『霊界日記』から『空像としての世界』まで

■堀秀彦『死への彷徨─思索と人生─』 人間と歴史社、1987
 
 最後に少し読みやすい本。人生論を多くものにした哲学者・堀秀彦の死について書いた論考をまとめたものを紹介しておこう。死に逡巡しながら折々に書いたもの。氏の最後の著作となった。

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