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「死の歴史学」に関する本

■フィリップ・アリエス『死を前にした人間』 成瀬駒男訳、みすず書房、1990★

 フランスの歴史学者である著者が1977年に著した。死の文化を論ずる際には欠くことができないのが本書である。
 著者は古代、中世、近代、現代にいたる死を前にしての態度の変化を墓地、葬礼、文学、絵画、遺言書などの分析を駆使して浮かび上がらせる。15年以上のまさに「総合的」な研究成果は、人間の生と死の文化変容を示し、われわれに課題を突きつけるものとなっている。
欧米のキリスト教文化圏に限定したものが素材となっているが、内容は極めて普遍的と言ってよい。日本の死の文化が欧米とは異なるとは言え、このアリエスによって記述された中に、極めて類似の状況を散見することが可能である。したがって、日本の死の文化を考えるためにも避けることのできないのが本書であると言えよう。

第一部・われらは皆死にゆく/第二部・己れの死/第三部・遠くて近い死/第四部・汝の死/第五部・倒立した死/結論・四つの主題による五つの変奏

■フィリップ・アリエス『死と歴史─西欧中世から現代へ─』 成瀬駒男訳、みすず書房、1983

 本書は1975年に発表されたエッセイ集。代表作『死を前にした人間』の完成に先立って、その内容を語ったジョンズ・ホプキンズ大学での連続講演などが収めてある。
 連続講演「死を前にしての態度」は著者による代表作の簡明な要約として読むことができる。

■フィリップ・アリエス『図説・死の文化史─ひとは死をどのように生きたか─』 福井憲彦訳、日本エディタースクール出版部、1990

 アリエスの最後の著作。死ぬ1年前の1983年に原著は刊行された。
 絵画、彫刻、墓、そして映画までも用いてイメージの変遷から死の文化の変遷をとらえたもので、図版が多用されており、親しみやすいものとなっている。

■ジョン・マクマナーズ『死と啓蒙─十八世紀フランスにおける死生観の変遷─』 小西嘉幸・中原章雄・鈴木田研二訳、平凡社、1989

 600頁を超える大著である。しかも本格的な証拠を積み重ねた研究結果であり、読むには覚悟がいる。だが、読み始めるとおもしろい。
 第九章「葬儀」の書き出しはこうだ。
「死が迫ると、親戚たちは使いを出して教区の鐘つきに知らせる─よほど貧しく、友人もなく、鐘つきの手数料も払えぬほどでないかぎり。鐘が鳴ると、村のなかや野良に出ている誰もが、都市では教会近辺の街々の群衆が、同胞のキリスト教徒が死に瀕していることを知る」
 このように極めて描写的に葬儀の様子を知ることができる。そしてそれがどう変化したかも。「経帷子」などという訳語が出るのはご愛嬌だが。
 一世紀の間に起こった公的で宗教的な死から私的で内面的な死への変化が実証されるが、日本の葬儀の変化を知る意味においても興味深い内容となっている。

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