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「日本の葬送の歴史」に関する本

■芳賀登『葬儀の歴史』 雄山閣、1987
 
 本書はタイトルから見ると通史の印象を受けるがそうではない。古代から現代にわたるいくつかのテーマについての論考をまとめたもの。示唆に富んでいる。

■圭室諦成『葬式仏教』 大法輪閣、1976★
 
 古代から明治維新にいたる日本の葬儀を仏教を中心に展開した、今や古典的名著である。
 仏教史、民俗学、歴史学の成果を総合し、しかもわかりやすく展開してある。日本の葬儀の歴史を知るためには欠くことのできないのが本書である。
 日本仏教各宗派が葬儀とどう具体的にかかわってきたか、あるいは檀家制度の成立ということに関して総合的な理解を得ることができる。
長らく品切であったが再版されたので入手可能。
 
政治と宗教/葬式の展開/追善と墓地の発想/葬式仏教の課題

■新谷尚紀『日本人の葬儀』 紀伊國屋書店、1992★
 
 本来はこの本は民俗学に分類すべきものである。だが、第二部「葬儀の歴史」は葬儀の歴史について出色のものであるのでここで紹介する。内容は、
 
 古代天皇の葬送と殯宮/平安貴族の葬送儀礼/中世の葬儀/近世の葬送習俗
 第一部「葬儀の深層」、第三部「他界への憧憬」も興味深い。
 著者は現代的関心も強くあり、日本の葬儀について考えるときにはぜひ手にしたい本の一冊である。

■五来重『先祖供養と墓』 角川書店、1992★
 
 著者は仏教民俗学の巨匠。葬儀の歴史に分類するのはためらわれるが、葬儀の歴史を知るためには欠くことができない。
すごい博識に裏づけられた論理展開は独特であるが読むものを引き寄せる。
 
古代の殯/殯の種類/葬墓と仏教/中世の葬墓/近世から現代の葬墓

■竹田聴洲『祖先崇拝─民俗と歴史─』 平楽寺書店、1957
 
 これは宗教社会学に分類すべきものであるが、日本仏教の葬儀との歴史的、社会的かかわりを見る上で欠くことのできないものという意味でここに分類した。
「日本の仏教は祖先崇拝と深く結びついて、東亜仏教圏の中でも他では見られない甚だユニークな形のものとなっている。…日本の仏教をこういう姿に変えた祖先崇拝プロパーの性質は一体どういうものだろうか」という問題意識で書かれた日本人の祖先崇拝について論じた古典的名著と言ってよいだろう。

■斎藤忠『日本史小百科・墳墓』 近藤書店、1978
 
 古代から近世までの墓を中心にした歴史。考古学上の成果を踏まえたもので極めて役立つ。「小百科」と名づけているように項目ごとに独立して読めるのが便利である。

■森謙二『墓と葬送の社会史』 講談社、1993★
 
 著者は日本の墓地の歴史には四つの転換期があったと述べる。古墳時代から大化の改新を経て律令国家が形成される時期、浄土思想の影響に基づいて死者を供養するという観念が形成される時期、明治維新以降、そして現在である。
「墓はその社会の歴史と文化に規定されている」
 と見る著者の視点と分析は的確である。
 
 序─問題の視覚/市民社会と墓地/墓地空間/さまざまな墓制─墓と墓地の民俗/国家による「死」の管理─明治政府の墓地政策/祖先祭祀と墳墓/家族の変動と現代の墓制

■大桑斉『寺檀の思想』 教育社、1979
 
 日本仏教が制度的に葬儀とかかわりをもつことになった寺檀制度の成立については記述が優れており、参考になる。

■井上章一『霊柩車の誕生』 朝日新聞社、1990
 
 歴史として紹介するのは大いに問題があるが、特に大正以降の葬列から告別式への葬儀の変遷を知るためには有効な本である。
 祭壇と共に現代日本の葬儀様式を象徴する宮型霊柩車の誕生を著者が独自の視点から社会文化史的に論じた本書は読み物としてもおもしろい。

〔注〕日本史と仏教史の参考図書
 日本の葬儀の歴史は、一方で日本の歴史について、一方で日本仏教史について併せて見ていく必要がある。
 研究書は多い。例えば岩波講座『日本通史』は全21巻、別巻が4巻の全25冊で構成される。だが、こうした大部で専門的なものではないものでも良質で学問的にもしっかりしたものがある。以下、それを示す。

◆木村茂光他編『教養の日本史』(東京大学出版会、1987)

◆末木文美士『日本仏教史』(新潮社、1992)

◆奈良康明編『日本の仏教を知る事典』(東京書籍、1994)

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