現代葬儀考

樹木葬を考える

 

 岩手県一関市の祥雲寺が99年11月に開始した樹木葬墓地は大きな関心と波紋をよんでいる。11月最初の埋骨時点のことは井上治代さんが詳しくレポートしてくれている(45頁)のでこれをお読みいただきたい。

 樹木葬は「遺骨を自然に還す」という発想においては散骨に近い。違いの一つは、散骨が現状では墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)の枠外のこととして行われているのに対し、都道府県知事の許可を得た墓地で行うという墓埋法の枠内で行われることである。
 第2は、散骨つまり遺骨(遺灰)を撒くのではなく、埋蔵する(埋める)ことである。遺骨を埋められたところは、墓埋法でいう「焼骨を埋蔵する施設」である「墳墓」である。

 通称「墓」と言われる墳墓は、一般的なイメージとしては、焼骨を埋蔵する空間としてカロートが用意され、その上には墓石が置かれ、またその区画は外柵で囲まれる。この墳墓が置かれ墓地経営者より使用者に使用を許可される区画を一般に墓所と言う。
 また、一般的な墓地は、墓所に通じる道路が設けられ、墓地利用者のための休憩所などの施設が設けられ、墓地全体が管理された施設となっている。

 だが、樹木葬墓地は、こうした一般的な墓地のイメージと大きく異なる。
 ここは奥深い山の一角の雑木林。境界線に植栽されたアジサイがなければ他の雑木林と外観上異ならない。
 また、埋骨される地点には外柵も、墓石も、カロートもない。反対にこうした人工的な物の設置は許可されていない。埋骨するときは、地面を深く掘り(約30cm)、骨壺等の容器から空けて、直接土中に遺骨を埋め、文字どおり自然に還す。埋骨場所には目印に山ツツジ等の花木が植えられる。
 自然との共生をうたうこの墓地、冬は雪に閉ざされ、地元の人でも簡単には行けない地。12月24日に現地を訪れたが、既に30cmの雪に覆われ、住職の後ろを付いて歩かないと沼に落ちかねない状況。自然そのものである。

 報道されるやこれが墓地として適切であるか、という議論が起こった。
 墓埋法を管轄する厚生省生活衛生局では、墓埋法に則り岩手県知事が認可したのであろうから、墓埋法違反ならば都道府県知事の責任」と言明。岩手県では「墓埋法および厚生省の定めた施行規則のほか岩手県の定めた『墓地経営許可等に関する事務取扱要領』(以下、岩手県要領)の範囲内で一関市に事務委任している、と話す。

 多くの自治体が模範としているのは事細かく規定している東京都の霊園条例だが、岩手県要領のほうは極めて簡素。この県による許可基準の違いが誤解の原因となった一つである。
 岩手県要領では、1経営主体が公共団体、宗教法人、公益法人等に限る、2設置場所は国県道、鉄道、軌道、河川、学校、病院、公園等からおおむね100m以上離れ、公衆衛生上支障がない地点、3墓地の用地は、経営主体が所有権を有するか永続的に使用できること、4墓地の施設の基準については、隣接地との境界を明らかにする施設を設けることのほか、地域の実情による、の4点があるだけである。

 指導としては、(1)墓地の境界を明らかにする施設を設けること(境界にアジサイを植えることでクリア。現状では作業しやすいようロープを巡らしている)、(2)墳墓の位置を明らかにすること(基準木〔複数〕からの距離を測定し、墳墓の上に花木を植えることでクリア。GPSでの位置測定も採用し記録している)、(3)書類(維持管理方法を記載した書類、檀家総代および宗派代表役員の承認書、隣接土地所有者および使用者の承諾書、工事計画書、地元〔区長〕の同意書)の提出であった。いずれもクリアした。
 墓埋法施行規則の「墳墓の状況」は上記・でクリアしたことになる。

 一関市としては(他の一般の墓地がどうなっているかではなく)墓埋法、施行規則、岩手県要領に則り、しかも地元一関の実情を考慮しても、この墓地を許可しない理由はないとして許可に踏み切った。許可時に「日本初」という認識はなかったものだから、新聞報道の結果、問い合わせが集中し困惑している様子がうかがえた。
 墓地開設許可条件は地方自治体により異なることから樹木葬墓地が全国で即認められるわけではない。しかし、岩手県では少なくとも法的に問題がなく許可されたことは事実である。

 また、当初設定した運営方針に対する批判も聞かれた。
 第1は、自然保護とはいえトイレ、休憩所がないと墓参者に不便ではないか、というもの。早速、墓地の入口付近に建設する計画に着手した。
 第2は、申し込み者は雑木林の整備作業に参加義務があり、不参加の場合には1回あたり7万円の協力金を納めることに対し「高齢者や遠隔地の人には実現不可能な条件」という批判。これは全ての人に使用料10万円、埋蔵料1体あたり10万円のほか、一口10万円の墓地内雑木林の保全目的の管理料を3口程度納めてもらい、整備作業参加は任意・無償とするように改めた。
 第3は、宗教宗派は自由だが、埋骨時に住職のなす宗教儀礼を拒否しないことに対して「実質上信教の自由を保障していない」とする批判。これに対しては、埋骨時に管理上の責任から住職が立ち合うとだけに改めた。
 第4は、墓地の所在地が明確でないこと。立地そのものが奥地にあり、地元の人でもわかりにくい土地であるためではあるが、定例日に寺で案内するほか、タクシー会社に地図配布する等の処置を講ずることとした。
 第5は墓参が制限されることへの批判。冬場は雪深く、熊も出現するところであることから墓参者の安全を守るために一定の処置は必要であること。但し、連絡を受ければ可能な範囲で希望に応じる、とした。

 こうした新しい試みに対しては、芽を潰すのではなく、墓と自然の共生という方針を変えることなく、いいものに改善して作り上げていく努力というのが、これから先もお互いに必要なのだろう。4月には現地説明会を開催すると共に、使用者の権利保護を明確にした使用約款を作る予定である。
 葬送における貴重な新しい選択肢の誕生を温かく見守り、かつ育ててほしいと思っている。 

現代葬儀考55号(2000.1)碑文谷創

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