公取「葬儀サービス取引実態調査」を読む

■違法性を指摘された点

(1)病院指定業者の葬儀サービス請負の不法な強制行為―独占禁止法(抱き合わせ販売等)

 一時「病院戦争」と言われ、葬儀業者が病院の指定業者となるために熾烈な競争が行われたことがあった。病院指定業者になると、死亡直後でまだ葬儀を依頼する先が未定の遺族に対して葬儀の請負を説得するのに有利な立場に立てる、という理由からであった。
 だが一時に比べると「病院戦争」もだいぶ穏やかになってきている。遺族が予め葬儀委託先を決めていたり、葬儀を行う遺族の住所が病院から遠く、病院指定業者の営業エリアと異なる等して、病院指定業者の葬儀請負比率が2割を下回り、病院指定獲得料や指定維持のための余剰人員の確保等の投資金額を下回るケースが増えたことによる。

 今回の調査で判明したことは、依然として病院に年間1千万円を超え、かつ1遺体あたり数万円の金銭を提供している指定業者が存在する事実である。
「病院戦争」は下火になっているが依然として存在する事実である。
 今回「不法行為」と認定されたのは、病院指定業者が、病院から自宅までの遺体搬送業務(これは病院指定を受ける条件であるから不当行為ではない)と併せて、「その後の葬儀サービスについても、当該遺族を霊安室に引き留め、説得するなどして、自己との取引を強制的に促すといった事例」である。
 これは「不当に自己との取引を強制させるような行為」であり「独占禁止法上の問題(抱き合わせ販売等)」となる。
 調査では指摘されていないが、これまで耳にした例では、搬送が友引にあたる日に指定業者が車の中で「友引は一般の葬儀業者は休日であるが、当社は営業している」等の虚偽の情報を提供し葬儀サービスを請け負ったり、他の葬儀業者より自己の「料金が断然安い」と根拠のない情報を提供して葬儀サービスを請け負ったケースもある。(反面、「指定業者の葬儀サービスの料金は高い」と根拠もなく宣伝する葬儀業者もいる。)

 病院帰りの遺族は、家族の死の直後で精神的には極めて動揺している時期にある。この心理を悪用して、病院指定業者が遺体搬送という有利な立場を利用して「不当に自己との取引を強制的に促す」行為はあってはならない。
 別な言い方をするならば、強制するのではなく、また、虚偽の情報を提供して結果的に強制するのではなく、正当に自己の情報を提供するのは問題とはならない。

 しかし、病院指定業者の場合、ふだん親しくしている事務員や看護師を通しての説得や、また搬送途中の運転手と遺族という、いわば密室での打合せとなることから、「自己に有利な立場を利用しての、結果としての取引の強制」になりかねないのもまた事実である。
 病院指定業者の中には、遺体の病室から霊安室への移動、霊安室の管理を、病院から自宅への遺体の搬送以外に病院から義務づけられているケースがある。
 遺体搬送を除けば、本来は病院の行う業務であり、病院が葬儀業者に外注するのであるならば、その業務の対価を病院が葬儀業者に支払うべき性質のものである。
 自宅への遺体搬送についても、入院患者の場合は無料とするケースがあるが、霊柩運送費用は遺族の負担とすべきであり、それを病院側が無料としたいならば、病院が正当な霊柩運送料金を霊柩運送事業者へ支払って行うべきものである。

 いずれにしても病院が負担すべきコストを指定業者へ転嫁して、それだけではなく指定業者からお金を病院が受け取っているというのが歪みの本質である。
 病院では「入札」という方法で指定業者の選択を行っているケースもあるが、「1円入札」が横行し、正当な対価が支払われていない。さらには「1遺体あたり数万円の金銭」を要求している病院まである。
 こうした逆転した状況がある以上、指定業者はコストを回収すべく営業に力を注ぎ、その結果として「消費者への不当な強制」となりかねない事態も発生する。また、営業の結果によっては葬儀サービスを請け負うことが可能となり、指定業者となることによって利益を生むのであるならば、場合によっては1千万円を超える金額を支払っても指定業者となるということになる。

 病院側の歪んだ利益追求が、指定業者制度を生み、死亡直後の遺族の不安な心理に便乗しての営業を生み出している。
 病院指定業者の遺族への良識ある対応が望まれるのはもちろんであるが、この問題の根絶には、葬儀業者がコストを負担するという形の病院指定業者制度そのものの見直しが必要となるだろう。

 今回の公正取引委員会の指摘は、行き過ぎた病院指定業者の営業への違法性の警告であるが、その根は深いものであり、葬儀業界の近代化のためには解決すべき課題として改めて浮かび上がったと言えよう。

(2)根拠のない「安い」との表示―景品表示法

 最近の葬儀の「こぢんまり化」を反映し、市価より、他の葬儀業者よりも自己が「安い」とする宣伝が目につくようになってきている。
 それが正当に比較したうえで、証明可能な形で「安い」ことを表示するならばいいが、正当な比較抜きで、「安い」という表示を行うならば、それは「提供される情報が不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害すると認められる表示」となり、「景品表示法」上問題となる。

 葬儀サービスの料金というのは多岐にわたっている。公取の分類によるならば、[1]祭壇、棺等の「基本的な葬具の利用料金」、[2]納棺、通夜葬儀進行等の「人的サービス費用」、[3]ドライアイス、式場使用料、返礼品、料理、生花等の「その他の葬儀サービス費用」、からなる。
 このうち[1]の「基本的な葬具の利用料金」と[2]の「人的サービス費用」は一般的に「基本プラン」、「基本葬儀料」または「祭壇料」と言われることが多い。但し、そこに含まれるものの範囲は業者間で一定していない。含まれる範囲が異なるものを「基本プラン(基本葬儀料、祭壇料)」という名目だけで比較するのが不当なことは言うまでもない。
 また葬具にしても人的なサービスにしても「品質」「グレード」という問題がある。この品質やグレードについての比較なしに一方を「高い」と言い、他方を「安い」と言うことはできない。

 商品やサービスに「価格競争」があるのは当然のことである。そして今「価格競争」が発生しているのは葬儀業界にとって健全なことであり、消費者の利益になることである。
 しかし、正当な比較を欠いて自己を他よりも「安い」と宣伝することは違法である。現在の「安売り競争」の中には、こうした不当な「安さ」の宣伝がまかり通っている。

 例を他業界に向けてみよう。温泉旅館とホテルとでは、温泉旅館には宿泊費だけではなく、夕食費や朝食費が含まれる。ホテルには宿泊費だけ。温泉旅館が2万円、ホテルが1万円だとしてもそれだけではホテルの安さが証明できない。この場合には消費者は食事料金の有無について認識しているので問題は生じない。トータル費用を安くしようとすればホテルに宿泊し、食事はコンビニのおにぎりで済ませる選択もあるからである。また、ビジネスホテルと一流ホテルの比較ではビジネスホテルが安い。しかし施設、設備、サービスの品質やグレードもビジネスホテルは低いということを消費者は理解している。

 残念なことに葬儀業界には旅館・ホテル業界のような料金についての消費者のコンセンサスがないところが問題である。
 中には「基本葬儀料」は安いが、その他必要なサービスを加えて計算したらトータル料金は高くなるケースもある。あるいは不要なサービスを勧められて結果的に高い料金となることもある。
 要は消費者が納得して選択していれば問題ないのだが、この「納得」が難しい。
 消費者の多くは「葬儀料金はできるだけ安く」と言う。それはホテルで言えば、「ではカプセルホテルでいいのか」というとそういう人ばかりではない。

 葬儀サービスにはもう一つ「安心」というキーワードがある。多くの遺族は「遺族」となる経験を多くもっていない。それゆえに葬儀については不案内である。また、家族を喪ったことによる不安や動揺を抱えている。
「安心」の欠けた葬儀サービスは葬儀サービスとしての基本的な要件を欠いている。極端な言い方をすれば「祭壇」のない葬儀サービスよりも「安心」のない葬儀サービスのほうが劣る。
 葬儀サービスの安売り合戦に欠けているものは「消費者の利益」に対する認識であろう。あるいは「安心」や「品質」に対する認識の欠如であろう。その結果が「正当な比較」を無視した「安さ」の誇大宣伝となっているのではなかろうか。

 他方一般の葬儀業者に欠けているのは、自分たちは消費者にどのような葬儀サービスを提供しようとしているのか、という情報の開示である。わかりやすく言えば、自分たちはビジネスホテルなのか、シティホテルなのか、あるいは日本旅館なのかということをわかりやすく伝えているかという問題である。中にはビジネスホテル並みの品質で一流ホテル並みの料金をとっているかもしれない。それも不当である。このわかりにくさが不当な「安さ」の誇大広告を生んでいる要因でもある。  消費者は旅館やホテルのように葬儀サービスについて知っているわけではない。それゆえにいかに消費者にわかりやすく、かつ適正に料金を提示するかということに心を砕く必要があるが、それはまた困難な課題でもある。

(3)関連事業者へ不当な不利益を与える―独占禁止法(優越的地位の濫用)

 葬儀業者は葬儀サービスを消費者に提供するにあたり、その一切を自社で賄うわけではない。棺は棺メーカー、生花は生花業者、料理は仕出し業者、返礼品はギフト業者等多くの関連事業者の協力を得ている。
 ところが葬儀関連事業者の中には、葬儀業者から「取引とは直接関係ない要請を受けて苦慮」する例があり、葬儀業者が「葬儀関連事業者や委託先葬儀業者に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当な不利益を相手方に与える場合」は「不公正な取引方法(優越的地位の濫用)として独占禁止法上問題」と指摘された。

 その例は
[1]協賛金
[2]会員システムの会員集めの手伝い
[3]葬儀施行の補助要員の拠出
[4]イベントのチケット販売
 等である。
 
 こうした行為は、従来は「取引を進めるうえである程度は仕方のないこと」と関連事業者に許容されてきたことである。そういう意味では根が深い問題である。しかし、商取引というのは一方が他方に従属するものではない。取引と直接関係ないことについて関連事業者に強要することはあってはならないことである。
 [1]の協賛金については団体、組合あるいは自社のイベント等について関連事業者に協賛金の要請が行われることは慣例化していると言っても過言ではない。
 [2]の会員集めについては互助会や生前予約システムの会員集めに関連事業者にノルマが課せられたという例を耳にすることは少なくない。
 [3]の施行補助要員については、葬儀業者の人件費を圧縮するために出入りの業者の人手をあてにしている例も数多く見られる。
 [4]のチケット販売についても、互助会等のイベントやディナーショーのチケット販売を関連事業者にノルマとして押し付けている例もある。
 これも互助会の例であるが、宝飾品やおせち料理の販売で関連業者にノルマが課せられた例もある(自社の社員にノルマ化した例も)。
 こうした例はけっして特殊ではない。「下請け業者の当然の義務」とばかりに慣習化しているところがある。中には会社自身は要請していないのだが、社員自らの判断で、あるいは社員がノルマをはたすために関連事業者に「協力」という名の強要をしている例も見られる。
 商取引とは同等の立場で契約することによって成立する、という近代商取引の原則を、今一度確認する必要があるだろう。ある意味では封建的とも言うべき慣行がまかり通っているのが葬儀業界の現状であり、それが今回「不公正な取引(優越的地位の濫用)」と指摘されたと考えるべきであろう。

(4)事業者団体の競争制限の要請―独占禁止法(事業者団体の禁止行為)

 例として指摘されたのが、ある地域の霊柩運送事業者団体が新規進出の霊柩運送事業者に対して一般的な運賃・料金を維持するよう要請した事例であった。
 霊柩運賃は自由化され、現在は届出制になっている。価格破壊がされると他の事業者は価格維持ができなくなり、事業の採算が合わなくなる、という理由で地域の団体に動くよう要請する。しかし事業者団体がこうした行為に及ぶとそれは「一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合」にあたり「独占禁止法上問題(事業者団体の禁止行為)」に該当する。

 今の時代は低価格化の流れにある。価格破壊が進むと採算割れする事業者が出てくる。そこで業界秩序の維持ということで事業者団体に問題が持ち込まれる。しかし、今回の公取の見解は、今の時代のルールは、業界秩序の維持よりも自由競争にあるという事実を突きつける。
 これからの団体や組合は、価格破壊をする一部事業者を問題にするのではなく、一時的ではなく長期的に見た消費者に利益になる枠組みつくり、価格破壊に負けない体質強化、差別化戦略の開発にこそ向けられるべきことを方向づけたと言えよう。

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