遺族外来

ミクシイで教えられたのですが
「遺族外来」
というのがあります。待望の、というべきか、こうしたことに精神科の先生が積極的に取り組んでくださるようになったのは朗報です。

埼玉医科大学精神腫瘍科
教授 大西 秀樹先生

ホームページ
http://mric.tanaka.md/2006/06/20/vol_12.html

この中で、大西先生は
「がん患者の家族は患者さんにがんの疑いが生じた時点から患者さんと同様の不安・抑うつなどを呈することが知られており、患者さんと同様ストレス度が高いことから、精神腫瘍学的見地からは“第2の患者”と言われています[1]。したがって、ご家族も患者さんと同様に精神的治療およびケアの対象となります。1.Lederberg MS: The family of the cancer patient. Holland JC (ed).Psycho-Oncology, Oxford University Press, New York, pp981-993, 1998」
と遺族外来の必要性を述べています。

また、
「死別が身体に及ぼす影響ですが、配偶者を亡くした54歳以上の男性の調査では、死別後6ヶ月以内の死亡率が配偶者のいない場合に比較して約40%上昇すること、死因の4分の3は心疾患である事を指摘しています[4]。女性も死別後3ヶ月は死亡率の高いことが指摘されています[5]。死別が精神に及ぼす影響ですが死別後1年以内に抑うつの兆候を呈する未亡人が47%にのぼり、対象群の8%と比較すると有意に高いことからが知られており、死別後1年以内の自殺リスク、女性で10倍、男性では66倍に上昇します[6]。
4.Parkes CM, Benjamin B, Fitzgerald RG. Broken heart: a statistical study of increased mortality among widowers.Br Med J. 1:740-743, 1969.
5.Mellstrom D, Nilsson A, Oden A, et al. Mortality among the widowed in Sweden.Scand J Soc Med. 10: 33-41, 1982.
6.Clayton PJ, Halikas JA, Maurice WL. The depression of widowhood. Br J Psychiatry. 120: 71-77, 1972.」
と述べています。
昨日(2/29)の朝日新聞朝刊「老後に夫と同居→妻死亡リスク2倍」
http://www.asahi.com/life/update/0129/001.html
日経(2/25)「押し黙る妻は死亡リスク高い」
http://health.nikkei.co.jp/hsn/news.cfm?i=20050225hj001hj
といった興味深い報道もあります。

大西先生は遺族外来の利点と限界について次のように述べています。
「ご遺族の中には介護、死を通してうつ病などを呈する場合があります。元来、これらの疾患の有病率が低くない事、重大なストレスの後に発症しやすいこと、また精神療法と薬物療法が奏効する疾患なので早期にこれらの疾患を見出し、治療に持ちこめるという利点があります。

 限界点としては、個人精神療法と薬物療法が中心なので診察できる人数に物理的な限界があり、一定数以上の診察はできない事です。これからは、遺族会、看護師、臨床心理士、カウンセラーの方々との連携を深める必要があります。また、遺族間トラブルが生じたが起こりやすいので法律家も必要とされてくるでしょう。」

詳しくは原文をお読みください。

死別の悲嘆の問題に関しては大西先生も紹介されている
C.M.パークス『死別―遺された人たちを支えるために―」(メディカ出版)
に私は最も教わりました。
パークスの本は『死別からの恢復』(図書出版社)もあります。

シュナイドンの本『死にゆく時 そして残されるもの』(誠信書房)も名著です。
シュナイドンも言及していますがキューブラー・ロス『死ぬ瞬間―死とその過程について―』(読売新聞社)はその前に読んでおいたほうがいいでしょう。

サナトロジーのいまや古典というべき本には
G・ゴーラー『悲しみの社会学』(ヨルダン社)があります。
この本に有名な「死のポルノグラフィー」が収められています。この論文の語っていることは、残念なことに、いまでも古くなっていません。

そして医学的に「死」を考えるのであればヌーランド『人間らしい死に方』がいい本です。(この本が新刊されたとき「週刊文春」に書評を書きました)

私がパークスに触発されて書いた文章は「グリーフとは何か」と題して
http://www.sogi.co.jp/sub/kenkyu/grief.htm
に昔書きました。これは『死に方を忘れた日本人』(大東出版社)の一部を構成しています。
http://www.sogi.co.jp/sub/publish/aboutthis.htm#sinikata

死の人称、1人称の死、2人称の死、3人称の死
死は見方によって大きく位相を異にすること、これは柳田邦男さんら多数の方が言い、認知されてきましたが、これを最初に明らかにしたのはフランスの哲学者ジャンケレヴィッチ『死』(みすず書房)です。
但し、この本を読むのは忍耐力が必要です。
ジャンケレヴィッチの思想を簡単に知るには対談集があります。
『死とは何か』(青弓社)

大西先生のホームページの紹介から、基本図書の紹介となりましたが、日本にもいい本がありますので、いずれ紹介したいと思います。

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/