公取「葬儀取引実態調査報告書」公表―葬祭業の実態、課題が明らかに(2)葬儀市場

「葬儀取引実態調査報告書(平成29年)」の第2弾。

①葬儀の市場規模は1兆7800億円は正しいか?
報告書の最初に「葬儀業の概況」があり、その1に「葬儀市場の概況」がある。

最新の2015(平成27)年には1兆7800万円(見込み)とある。

直観として大きすぎる!と感じた。

計算根拠は?と調べようとしたら、これは公取が計算したものではなく、矢野経済研究所『フューネラルビジネスの実態と将来展望 2015』をもってきたものだった。
公取の手抜きである。
これを調査結果の最初にもってくる神経を疑う。
矢野経研は大きなところであるが、そのデータには過去「信用できなさ」を感じていたので、これは鵜呑みにはできないぞ、と思い、計算をやり直してみることにしたものだから、これには手を焼いた。
本日は手を焼いたプロセスを紹介する。

公取も2014(平成26)年のデータとして扱っているので2014年のデータとして扱う。

②人口動態統計に見る死亡数の推移
「人口動態統計」によれば年間死亡数が顕著に増加したのが1990(平成2)年で年間死亡数が82万人台に突入、以下、急増。5年後の1995(平成7)年には90万人台に入り、2003(平成平成15)年には100万人台、2007(平成19)年には110万人台、2011(平成23)年に120万人台となった。2014(平成26)年には127万人、2015(平成27)年には129万444人と130万人台目前となっている。
以上は確定数であるが2016(平成28)年の年間推計が3月22日に公表されており、それによれば129万6千人となっている。

矢野経研の推計する2015年1兆7800億円を2015年の死亡数1,290,044人で割ると1件あたりの平均単価は1,379,383円となる。
この妥当性が問題となる。

③日本消費者協会調査(2017)で見る葬儀費用

ちなみに本年(2017年)1月に発表された日本消費者協会「第11回葬儀についてのアンケート調査」。
標本数4,083、有効回答者数1,875、回収率46.4%。
これでは、2014-2016年の3年間の葬儀費用を質問しており、3年間に「身内の葬儀があった」と回答したの811人のうち約353人(質問ごとに回答数が異なるので平均)が回答。
葬儀費用の平均額は1,957千円。

但し、「葬儀費用」には「通夜からの飲食接待費用」「寺院への費用」「葬儀一式費用」を合わせたもので、調査では合計額もそれぞれも別に質問しているので、それぞれの合計値と葬儀費用は一致しない。
葬儀事業者が取り扱うのは「寺院への費用」(平均額473千円)を除外したものである。
「通夜からの飲食接待費用」の平均額は306千円、「葬儀一式費用」の平均額は1,214千円であるから葬儀事業者への支払平均額は1,520千円となる。
(細かく言えば飲食接待費は葬儀事業者を経由しない場合もあるし、一式費用のうちハイヤー代、火葬費用は葬儀事業者は立替るだけであるので全額ではない)
仮にこのまま推計すると
1,520千円×1,273,004件(2014年の死亡数)=1兆9349億66百万円となる。
日本消費者協会調査の金額は少し高めと言われるのはこうしたことからである。

③経産省「特定サービス産業動態統計―葬儀業」
これは月報単位で公表されている。
標本が一定していないので売上高、取扱件数、従業者数のそれぞれの合計数で推移をみるのは適切ではない。
売上高を取扱件数で割ると1件あたりの売上が出る。2014(平成26)年で見る。
売上高の合計596,878百万円÷取扱件数の合計420,872件=1,418,194円
一般に4%程度はその他の売上があるので、この96%は1,361,466円となる。
ちなみにこの調査の取扱件数の合計は年間死亡数1,273,004の33.1%に相当する。
仮にこのまま推計すると
1,361千円×1,273,004件=1兆7325億5844億円

また取扱件数が33.1%であるとして全体を推計すると1兆8033億円となる。
この2つの数字の間に矢野経研の数字があるのは偶然か?

④経産省「平成27年特定サービス産業実態調査報告書 冠婚葬祭編」
上記③の「動態統計」は葬儀業を対象にしたもので、必ずしも日本標準分類(大分類「生活関連サービス業、娯楽業」、中分類「その他の生活関連サービス業」、小分類「冠婚葬祭業」)の細分類「葬儀業」に限定されないものであるのに対し、「実態調査」は日本標準分類の小分類「冠婚葬祭業」を対象としたもので、そこに葬儀業務の該当事業所数、年間葬儀取扱件数、年間売上高が記載されている。
平成27年7月1日現在であるが、調査対象期間は平成26年1月1日~12月31日。
冠婚葬祭業は標本調査(標本数2,277、有効回答数1,849、有効回答率81.2%)であるが、拡大推計して四捨五入している。
葬儀業務取扱事業所 8,550
葬儀業務取扱事業所年間売上高 1兆3739億円
うち「葬儀一式」請負年間売上高  1兆3459億円
年間葬儀取扱件数 1,201,341件 参考 平成26年年間死亡数 1,273,004人
これから1件あたりの葬儀売上高を計算すると1,120,3080円となる。
多い金額帯ではあるが、葬儀費用は低いのもあれば高いのもあり、平均額としてはいささか少し低いように思われる。

仮に取扱件数を死亡数まで上げて試算すると事業所年間売上高は1兆4559億円となる。
この場合の1件当たりの葬儀売上高は1,187,137円となる。

⑤経済センサス
 「経済センサス」は総務省統計局によれば
「経済センサスは、事業所及び企業の経済活動の状態を明らかにし、我が国における包括的な産業構造を明らかにするとともに、事業所・企業を対象とする各種統計調査の実施のための母集団情報 を整備することを目的としています。
経済センサスは、事業所・企業の基本的構造を明らかにする「経済センサス‐基礎調査」と事業所・企業の経済活動の状況を明らかにする「経済センサス‐活動調査」の二つから成り立っています。
経済センサスにより作成される経済構造統計は、国勢統計(国勢調査)、国民経済計算に準ずる重要な統計として、「統計法」(平成19年法律第53号)という法律に基づいた基幹統計に位置付け られています。」

とある基本調査で、現在「平成26年基礎調査」が公表されているが、「平成26年活動調査」は未公表で、公表されているのは前回の「平成24年活動調査」である。
平成26年基礎調査によると葬儀業は以下の通り。
企業等数 4,141
事業所数 6,785
従業者数 71,711人
売上(収入)金額 1兆217億67百万円
1企業等当たり売上(収入)金額 2億4909万円

平成21年の経済センサスの調査票回収率は81.7%であったので、これを85%と想定する。しかし、回収率が低いのは零細企業に多いので従業者数と売上は90%と想定して試算。
企業等数 4,141→4,872
事業所数 6,785→7,982
従業者数 71,711人→84,366人
売上(収入)金額 1兆217億67百万円→1兆1353億円
さらに、平成24(2012)年の活動調査では葬儀業取扱件数が2011(平成23)年の人口動態の死亡数に占める割合が68.4%であったので、70%で試算してみる。(注2)

企業等数 4,141→4,872⇒6,960人
事業所数 6,785→7,982⇒11,402
従業者数 71,711人→84,366人⇒120,523人
売上(収入)金額 1兆217億67百万円→1兆1353億円⇒1兆6218億円
これであれば寺院へのお礼を除く葬儀費用は平均1,294千円程度。

おそらく市場の実勢は上記数字のプラスマイナス5%前後であろう。
平成26年経済調査活動調査結果の公表が待たれる。

(注1)
日本消費者協会の調査は注目されるが、3年間に経験した約353人という少数の回答に基づく点に注意。この地方ごとのデータも出ており、これを紹介する人もいる。だが、最大の回答を得た「葬儀費用の合計」491件の内訳は北海道38件、東北40件、関東A(茨城、栃木、群馬、千葉)38件、関東B(埼玉、東京、神奈川)106件、中部A(新潟、富山、石川、福井)66件、中部B(山梨、長野、岐阜、静岡、愛知)48件、近畿58件、中国16件、四国33件、九州48件となっている。地方別ではサンプル数が少なくデータとしては使えない。
(注2)
平成24年活動調査で、葬儀業には専門葬儀業のほか、冠婚葬祭互助会の葬儀施行子会社、JA等の葬儀施行子会社は含まれるが、冠婚葬祭互助会本体で施行までやる場合、JA,生花、墓石、仏壇、ホテル、レストランその他が副業として葬儀施行をする場合はここの「葬儀業」に含まれていない。
 
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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/