生死の境界―個から見た死と葬送(26)

そこには痩せこけて、口を開け、固まるように寝ていた人がいた。

思わず引き返し、ドアの横にある名前を確認した。


間違いなかった。
そこに姉の名が書かれており、ベッドにも姉の名が書かれていた。


声をかけても反応しない。


1週間前に、間違って携帯を押し、姉につながった。
すでに5度目の入院をしていた姉だった。
力は弱かったものの受け答えはしっかりしていた。


先に姉を見舞った兄からの電話で、著しく衰弱し変貌していると聞かされてはいた。
だが、ここまで酷い変わりようとは思わなかった。


かろうじて呼吸する様が喉で確認できるが、まるで死後硬直の様に近い。


死ぬということは大変なことだ。


死の世界と生の世界とを行ったり来たりしているようだ。


朝から傍にいても、姉は何の反応も示さない。
夕方、諦めて帰ろうとして声をかけた。
目が開いた。
手が動き、声を発するが、「ア」とか「ン」とか唸るよう…
言葉にならない。
姉の目は確かに私の姿を追っているのだが。


しばらくすると、目は固く閉じられた。
姉は深い昏睡に再び入った。


これが生きている姉に会う最後の時間だろう、と思った。
ベッドの傍に立ったまま、骨と皮だけになった手、脚をさすり続けた。

2日後、姉は息をすることを止めた。

 

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/