「葬祭業」か「葬儀業」か?

葬研「碑文谷創の葬送基礎講座⑮」が本日(11/11)更新された。
今回のテーマは
「葬祭業」か「葬儀業」か?
https://souken.info/himonya15

■Wikipediaの解説の間違い

Wikipediaでは
葬祭業(そうさいぎょう)は、葬儀や祭事の執行を請け負う事業である。葬儀のみを行う場合は葬儀業ともいうが、石材店生花店・造花店など葬儀にかかわる業種が兼業することも多く、近年では他業種から参入するケースもある。
と書かれているが、結論からいえば「葬祭業」と「葬儀業」に実体としての違いはない。

「葬祭業」は主として葬祭事業者が言っており、「葬儀業」は経産省等の行政が言っている、と誰が言っているかの違いでしかない。
同義語である。

Wikipediaでこの項を書いた人のように、「いかにも」と違いを解説している人がいるから困りものである。
他の項でもそうであるが、Wikipediaは便利であるが、結構間違った記述も少なくないので読み方に注意を要する。

葬祭業(葬儀業)の定義もしておこう。
「人が死亡した後に発生する火葬または納骨に至る一連の作業に関与し、あるいはその後の追悼の祭事、死後の事務等に関与し、それを巡って起こる諸問題も含み、それらに関係するサービスを提供する業をいう」

この定義では「式の運営」という狭い範囲ではなく、「一連の作業」とした点、「それを巡って起こる諸問題も含み」としていることに注目していただけるとありがたい。
もとよりこれらを全て「葬儀業者」のみが行っているわけではない。

■日本標準産業分類

今回の試みは、葬儀業(葬祭業)、火葬業、墓地管理業、霊柩自動車業、冠婚葬祭互助会業等の葬送関連事業が「日本標準産業分類」でどう取り扱われてきたか、その変遷を紹介することにある。
各事業がいつ頃どういう名で分類されるようになったかで、葬送関連の各事業が社会的にどう認知されてきたかがわかる、と考えてのことだ。

「日本標準産業分類」とは、
「日本標準産業分類は,統計の正確性と客観性を保持し,統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として設定された統計基準であり,全ての経済活動を産業別に分類している。…戦後,国際連合が提唱した1950年世界センサスに呼応して,我が国でも大規模な各種センサスを実施することとなった。これを機会に,統計の総合調整を所管する行政委員会として設けられた統計委員会の下に1950年センサス中央計画委員会及び各種の専門部会が設置され,センサス実施とともに,基礎事業である各種分類の研究が進められることとなった。…日本標準産業分類が政府として統一的に使用されるようにするための方策については,昭和24年12月23日の第12回統計委員会及び昭和25年4月28日の第17回統計委員会において審議され,その結果,統計法(昭和22年法律第18号)に基づく政令を制定し,その使用を義務付けることとなった。」(「日本標準産業分類の作成要旨とその変遷」平成25年改訂より)

経済活動の統計において用いられる分類で、その前史はあるものの1949(昭和24)年から2~8年間隔で改訂を重ね、最新は2013(平成25)年の第13回改訂である。

■分類の変遷で見えるもの

この分類は総務省の管轄である。
ここで分類されることは行政による承認を意味するものではないが、行政がどう見ているかが反映されている。

例えば「葬儀業」は、戦後すぐは厚生省管轄をうかがわせるものであったが、1993(平成5)年改訂で小分類が「葬儀・火葬業」であったものが、火葬業や墓地管理業と分離し、新たに「冠婚葬祭業」となった。
これは火葬業、墓地管理業が厚生省(現・厚労省)で、葬儀業、冠婚葬祭互助会、結婚式場業が通産省(現・経産省)の管轄となっていたものに合わせて再編されたものである。

分類を見ているとおもしろい発見がある。

最初は火葬業、葬儀業、葬儀用自動車賃貸業だけであったのが、墓地管理業が加わり、「霊園」という言葉が登場、冠婚葬祭互助会が加わり、「葬儀会館」という言葉が登場、葬儀用自動車が「霊きゅう自動車」と名を変更する等、その時期を照合すると興味深いものがある。

これは産業の定義ではなく、あくまで統計の便宜上の分類にすぎない。
そのことを承知のうえであるならば、葬送関連事業の変遷を見るうえでも参考となる。
詳細は葬研のページを参照いただきたい。
https://souken.info/himonya15

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/