「お布施からリベート」

2月11日の朝日新聞の朝刊に東京版であれば社会面の左側にデカデカと「お布施からリベート 僧侶→葬儀業者 不透明な慣行」という記事が出ていた。

今ならその記事がネットで読める。
http://www.asahi.com/national/update/0210/TKY201102100549.html

検索するとけっこうヒットする。

その前書きを紹介する。

葬儀で僧侶に包む「お布施」。その一部を、僧侶が葬儀業者に渡す仕組みがあることが朝日新聞の調べでわかった。読経の「仕事」を紹介してくれた業者に対する一種のリベートとみられる。お葬式の舞台裏で何が起きているのか。

こういう書き出しいやですね。初めて聞く話だと装う、皆がやっているように書く。

昔、毎日新聞が松下幸之助の社葬で葬祭業者がお布施の中抜きした、と大阪版では1面のトップ記事で出したのを思い出した。

大都市圏ではかなり前からあるのは事実。酷いのは7割も取るというのも事実

でも皆がやっているわけではない。どこの地域でもやっているわけではない。
社会面が報じるのであるから有名タレントが薬物中毒で薬の不法売買をしていた、と報じるようなものである。

原則論を言えば
そもそもは宗教者を遺族に紹介・斡旋すべきことではない。
遺族や本人が前に決めておくべきこと。
紹介を依頼する時点で遺族は間違っている。

それでも何か事情があって、困って葬祭業者に紹介を斡旋したとする。
その時に事業者は遺族に言わなければならない。
「紹介だけですから、お願い電話はそちらで直接やってください」
つまり斡旋だけで、依頼は「遺族」と「宗教者」が直接行うということだ。

相談・紹介・斡旋は葬儀で遺族が困った時に行う基本サービスの一部を構成しているもので、紹介を依頼されたかといって、その費用を依頼してきた遺族から取るならば少しは納得できるが、宗教者から取る理由はない。

だが一般には他でも似たようなケースがある。
ビルを建てたいと思っている会社がある。ここの相談にのって建設業者に紹介したとする。そのとき建設業者は一定のリベートを紹介者に渡す、というケース。
問題はリベートであるかどうかは別にして経費として行えばいいことである。裏金として処理するからおかしくなる。

ただ葬式の宗教者の紹介・斡旋は建設会社の紹介・斡旋とは異なる。前に私が書いたことだが「葬宗分離」の原則が貫徹していなくてはならない。それが建設会社の紹介と同じになってしまっている。
これは「宗教サービス」提供業者への紹介・斡旋行為であり、もはや遺族が宗教者への支払いは「布施」ではなく「宗教サービス」利用料である。こんなケースまで「布施」と言うのがおかしい。こんなの布施ではない。

かつて全日本仏教会が「お経料」「戒名(法名)料」とは言わない、全て「お布施」である、と言明したが、ちょっと格好良すぎた、ということだ。
「本来は布施として行われるべきものですが、なかには不心得なのがいて『お経料』『院号料』とかあたかもサービスの対価のように請求する場合がありますが、そういうのは相手にしないでください。また、そういうケースを理解して利用した場合は利用した側にも問題があるので、いちいち仏教会に言ってこないでください」
と言うべきであった。

新聞でも紹介されていたが、僧侶派遣業者がある。最近は堂々と宣伝しているのでネットで見つけるのは容易である。
彼らは「正規の教団で資格をもっている人を紹介する、決して偽僧侶は紹介しない」と言う。昔、にわか仕立ての偽僧侶を斡旋してばれたケースがあったからだ。
そして利用されるのは「自分の寺だけでは生活できない住職たち」である。

東北の農家が農業だけでは生活できなくて冬など農作業ができないときは東京に出稼ぎして一家の生活を支えるケースと同じである。
そうなったのはその僧侶に責任があるわけではない。もう寺を檀家が支えられなくなっているからだ。寺だけで生活できなく、普段は教師、農協職員、自治体職員をしている兼務住職と同じである。
最近は兼務住職への目も厳しい。
「なんであの人だけに早退を許すのか」と葬式に出かけなくてはならない兼務住職に同僚が「待遇が不平等」と言うのだそうだ。

住職を支えきれない檀家に問題があるのか?
これだけ都市化して過疎になり、生活も厳しくなっているので「もう少し檀家に依存しないでほしい」と言うのも自然なことなのだ。そうした檀家の生活事情を知っている住職ほど、他に生活手段を見つけるために努力する。
中には「菩提寺をもたない人たちが家族を亡くして厳しい状況にあるとき少しでもお手伝いできたら」と、それこそ布施精神で係わる人もいる。
問題はそうした僧侶の弱みにつけこんでいる奴等だ。

教団の問題だってある。
そんな派遣プロダクションの罠に囚われる僧侶を見過ごしにしていないか?

こういう酷い状態は今始まったのではない。
東京では大手業者のネットワークに入って、大手業者は「炉前なら3万円」「信士・信女なら30万円、院号居士・大姉なら50万円」と謳うのを容認している僧侶の数が少なくない。
イオンが初めて「布施の料金表」を作ったのではない。

葬祭業者の中でも錯覚するのがいて「お布施の明朗化」を謳い、葬儀料に組み込んでいるのがいる。

言っておくが、こんなの「布施」ではない!

記事の中には「宗教法人を買った業者」の話も出ている。

記事では

横浜市に住む僧侶(69)は、遺族からお布施を受け取ると、けさ姿のまま近くの銀行に行き、4割を現金自動出入機(ATM)から振り込んでいた。葬儀業者に指定された振込先は、聞いたこともない宗教法人名義の口座だったという。

とある。私も宗教法人を実質的に所有している業者を数例知っている。しかし、肯定するのではなく、苦々しく思っている。
しかし、葬祭業者の7割は中小零細企業なので、普通の業者が宗教法人を買ったり、あるいは実質的に支配できるような資金がそもそもない。
だから「たくさん」知っているわけではなく「数例」にすぎない。
宗教法人は報告を求められているのだから、少なくとも報告書の出てこない不活動宗教法人のチェックはできる。
また、これは宗教行為ではなく事業なのであるから税務当局のお得意の仕事ではないか。

こんな不当行為は葬祭業者の倫理の問題としてやるべきではない。

宗教法人なら課税されない、という特典を悪く利用しているならば税務署は「脱税摘発」をすればいいと思う。

こういう行為は他の宗教法人への迷惑である。また「宗教法人の公益性」などという、おかしなことでの追及が始まるのを懸念している。

ここいらの問題はそろそろ真面目に考えるべきところに来ている。
世間から信頼してもらいたいなら「手を退く」と宣言すべき時だろう。

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/

「「お布施からリベート」」への3件のフィードバック

  1. 早速記事にしていただき恐縮です。
    前の記事にも僭越ながらコメントさせていただきました。
    痩せ我慢・・・頑張ります!!

  2. お布施マージン問題報道

      碑文谷創 師が昨日のブログ記事で、朝日新聞に掲載された「葬儀社と宗教者の間でやりとりされるリベート」の記事に憤慨なさっています。一部で今でもリベートがやりとりされている事実にもですが、まるでそれが全体のことのように誘導的に報道する朝日新聞にもです。
     この記事、師のブログによると2月11日付の朝日新聞「東京版」朝刊社会面に載っているということですが、実は関西版ではこの前後数日(少なくとも9日〜13日)を見ても載っていません。私もネットで見ました。つまり朝日新聞もこれを重大な社会問題だと…..

  3. 改めて読み直しました。全くもって同感です!
    >こういう行為は他の宗教法人への迷惑である。また「宗教法人の公益性」などという、おかしなことでの追及が始まるのを懸念している。
    ここいらの問題はそろそろ真面目に考えるべきところに来ている。
    世間から信頼してもらいたいなら「手を退く」と宣言すべき時だろう。
    なぜそれが我々の世界で宣言実行できないのか?また、なぜ紹介料を要求する業者が存在するのか?お互いの世界に課題があると思います。
    こういう行為は他の宗教法人に対して迷惑極まりないものです。また、それは同時に他の業者さんに対しても失礼極まりない行為でもあります。本当に法制化して厳罰に処して欲しい。
    人々の宗教心を愚弄し、貶める蛮行に他なりません。絶対に絶対に悲しむ遺族が食いものになる事態や、言われなき批判に心痛める業者さんを生み出す行為は根絶されるべきです。怒りを通り越して悲しくさえなります。

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