女たちのお葬式

10月25日付で新しい本が出た。
この会の初期にはささやかだが関係したので、出版のお祝いを兼ねての紹介となる。

女たちのお葬式』(太田出版、本体1,000円)

本書は、札幌にあるNPO法人葬送を考える市民の会(以下、市民の会)が著した。

市民の会は1997年に女性8人を創立メンバーとして発足。
当時、全国で市民参加の葬送への取り組みが行われており、
「札幌から新しい葬送文化を作り出そう」
との意気込みでスタート。

「生まれるときに助産婦さんの助けを受けるように、逝くときにも手助けは必要である。死をタブー視することなく、死をタブー視することなく、自分の生を最後まで自分らしく終えることができるよう、サポートを続けたいと考えている」
団体である。

従来の葬儀慣習が男性視点のもので、女性は「妻」という役割に固定され、さまざまな実際上の負担を強いられていることへの批判から、女性のしなやかな視点から葬送を見直し、各人に合った自分らしい、かつ、納得がいき、心のこもった葬送を実現することをサポートする活動を行っている。

全国の葬送関連の市民団体との交流にも積極的。
北海道でも求めがあれば各地に出向いての講座も行っている。

NHKTⅤでは「旅立ちの衣装」として自由なデザインでの手作り死装束の講習の模様が紹介される等、女性の感性を大切にした活動が紹介されて注目を浴びた。
(私の出演した番組で市民の会のⅤが流された、という映像上の共演も3回くらいあった気がする。2回はNHKの全国放送で、1回は北海道地方局だった…)

市民の会は、葬儀の打ち合わせから立ち会う。生前の本人の意思を実現するように、であり、家族は死別の悲嘆で動揺しているので支援が必要だからだ。
この打ち合わせで葬儀社の進める葬儀との衝突を経験する。

女性の目から見て不要なもの、不可解なものを、専門家である葬儀社、互助会はあたりまえの如くに進めようとするからだ。
一つひとつの葬儀現場が学習の場となった。
そのなかで「納得のいく送り方・送られ方」「故人と送る人の思いを大切にした旅立ちの実現」「心のこもった葬送」が鍛え上げられていった。

会員に女性のほうが多いが、男性会員もいる。400人の会員中男性は4割を占める。

2011年10月、市民の会は「一人暮らしの方への支援事業」も発足させた。
死後だけではなく、生前支援のニーズが高かったからである。

今、週に2回行っている一人暮らしの方への「元気コール」は、長く会員だった方が死後時間が経過して腐敗状態で発見され、家族も対面がかなわなかった、という悲しい体験からだ。

今生前意思を明らかにする「エンディングノート」が人気だが、井上治代さんらの活動に刺激を受けて、99年に市民の会が『旅立ちノート』を制作。
また、市民の会が開催する模擬葬儀は「こんな手作りの葬儀があるんだ」と市民に驚きと共感をよんだ。

テレビでも話題になった「旅立ちの衣装」はファッションショーを行うまでになった。

本書は、市民の会の成り立ちから、どういう経緯でさまざまな試みが行われるようになったかを丁寧に語った本。
いわば市民のなかから生まれ、市民視線の葬送への新しい提案活動報告書。
15年間の貴重な記録。
細部の記述にこだわるより、全体から市民の会の思い、感性を学ぶのが本書を読む正しい態度といえよう。

広告

投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/