朝日新聞が12月30日「孤独死」の問題を大きく取り上げていた。
新宿区の「戸山ハイツ」で頻出する「一人暮らしの人の死」のことである。
記者が東京都監察医務院の「一人暮らしの人が自宅で死亡し、死因がはっきりしないケース」という定義を紹介していた。
監察医務院のデータでは東京都23区に限定しての数字だが、2003年(10年前)には、そうした孤独死が男女合わせて3千人未満だったが、12年のデータでは男性3,057人、女性1,415人の計4,472人(この合計数は記事にはなかった)で約1.5倍に増えている、と紹介してあった。
そもそも「死因不明」だから監察医務院の出番となったのであろう。一般に言うならば「死因不明」は単独死(ここで言う「孤独死」)の定義とはならない。
もっとも腐乱遺体の死因がすぐ判明する例は少ないだろうが。
法医学会が決めた「異状死ガイドライン」がある。
【1】外因死
①不慮の事故
交通事故、転倒・転落、溺死、火災・火焔による死、窒息、中毒、異常環境(熱射病・凍死等)、感電・落雷、その他の災害
②自殺(この規定なんとかならないか?)
死亡者自身の意思と行為にもとづく死亡(縊頸、高所からの飛び降り、電車への飛び込み、刃器・鈍器による自傷、入水、服毒など)
③他殺
加害者に殺意があったか否かにかかわらず、他人によって加えられた傷害に起因する死亡すべてを含む。
④不慮の事故、自殺、他殺のいずれであるか死亡に至った原因が不詳の外因死
【2】外因による傷害の続発性、あるいは後遺障害による死亡
【3】上記【1】または【2】の疑いがあるもの
外因と死亡との間に少しでも因果関係の疑いのあるもの
外因と死亡との因果関係が明らかでないもの
【4】診療行為と関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの
(これが近年注目を浴びている医療過誤・過失等)
【5】死因が明らかでない死亡
①死体として発見された場合.
②一見健康に生活していたひとの予期しない急死
③初診患者が,受診後ごく短時間で死因となる傷病が診断できないまま死亡した場合.
④医療機関への受診歴があっても,その疾病により死亡したとは診断できない
場合(最終診療後24時間以内の死亡であっても、診断されている疾病により死亡したとは診断できない場合).
⑤その他、死因が不明な場合
病死か外因死か不明の場合
「異状死」という言葉自体は聞きなれないが、書かれてみるとよくわかる。
また医師法には、
第21条 医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。
とあり、医師が「異状死」と判定するのは法医学会のガイドラインに基づく「異状死」であり、これは警察に届け、警察の検視、警察医(監察医のいるところでは監察医)が検案または解剖しその結果死因の特定をする。
警察の検案で犯罪死のおそれがあるケースについては基幹大学医学部法医学教室で司法(法医)解剖が行われる。
監察医務院が孤独死の定義としている「死因不明」は異状死ガイドラインの中の【5】が「死因不明」にあたる、と考えるのが適当だろう。
ガイドライン中の赤字部分はこういうケースでも医師が死因を特定したり、診療した疾病による死と診断したりすれば「死因不明」となって警察が関係することはない。
最近多いのは医療側の看護師の告発や遺族側の不審による告発によって問題化されるケースである。
また、一般には「犯罪性」がなければあまり問われることは現実には少ない。
医師による死亡診断で終わるケースが多いようだ。
東京都監察医務院のホームページを見ると孤独死についてのデータがあった。
区別に出ているが集計したデータがあると便利だと思う。
過去のデータもあるが、ものすごく使いにくいデータである。何とかならないものか、と思う。
「東京都区部における性・死後経過日数別の孤独死数構成割合」というグラフがあった。
多くは死後数日内であるが、長いのは1年というのもある。
総じて女性のほうが男性より早期発見率が高いようだ。これも実数も併せて発表してくれたらいいのに、と思う。
自分が杉並区住民なので杉並区、中野区を見てみると、これは孤独死のデータではないようだ。
その証拠に発見が0~1日の場合は複数世帯が多い。2日経過後から単身世帯が多くなる。
これは「異状死体」として監察医務院が取り扱ったデータの死後経過日数の検案結果数が書かれているだけで、孤独死そのもののデータではないようだ。
新聞記者には丁寧に説明したのだろうが、検証しようとホームページを見たものにはわかりにくい。
「情報公開」と言うなら、もう少し使いやすいのを提供してくれたらいいのに、と恨み節になる。
ここまで書いていて監察医務院の定義に疑問をもつようになった。違っていたら反論してほしいが、「孤独死統計」と言いながら、「孤独死の実態を調べるための基礎資料」であって、単身世帯における自宅死で死後複数日経過(したと検案、解剖の結果推定された)数は統計的にどのくらいあるかを出した資料ではないのか?
そうであるとすれば監察医務院が扱った異状死案件から、複数世帯を差し引き、単身世帯だけで、死後推定0~1日とする数を引いたのが、しかも自宅死亡という条件で残ったのが「孤独死数」ではないのか?
「単純に0~1日を差し引いたのではない」とするとそれは4日以上なのか1週間以上なのか、よくわからない。
朝日でも「孤独死」に「明確な定義はないが」と監察医務院の定義を紹介する前に断わってはいる。監察医務院が孤独死データを出しているなら、その根拠を知りたいものである。
『東京都23区における孤独死統計(平成20~23年):世帯分類別異状死統計調査』というのがある。これはブック状態になっているものの一部がHPに掲載されている。
その「はじめに」で次のように書かれている。
「近年、単身独居者の死亡で、死後数日から数週も経過して発見される、いわゆる「孤独死」の事例が社会問題となっています。しかし、「孤独死」、その定義が明確でないなど、調査を進める上での困難がありました。
東京都監察医務院では、東京都23区内で発生した全ての孤独死の実態を把握し孤独死問題への対策に資する統計資料を作成することを目的として、共同研究「東京都23区内における孤独死実態調査」に取り組んでいます。
この研究成果の一つとして、平成23年9月に、「東京都23区における孤独死統計(平成15~19年)」として取りまとめ公表させていただきました。
その後、孤独死統計について、以降のデータ提供の希望が多く寄せられたため、今般、続編として、平成20~22年分及び23年分として取りまとめました。
今後、平成24年以降のデータは、監察医務院のホームページに掲載していく予定です。
本孤独死統計が孤独死問題を考える一助としてご活用いただければ幸いです。
東京都監察医務院長 福 永 龍 繁」
ここに書かれている「単身独居者の死亡で、死後数日から数週も経過して発見される」はどうも「世間の定義」で、「その定義は明確でない」とするのが監察医務院の立場なら、「全ての孤独死の実態」というのは何なのか。
朝日の報道した定義が正しいとするならば、それがどこに書かれているのだろうか。
監察医務院の出した統計に「一人暮らしの者の死因」というのがある。
2008年 総数5,237人(男性3,558人、女性1,679人)
2010年 総数5,346人(男性3,698人、女性1,648人)
2011年 総数6,097人(男性4,176人、女性1,921人)
となっている。
これが朝日の記事の数字に近いが、これではない。ここから何らかの数字が除外されていることになる。
もし「死因不明」を統計にある2012年で病死の「その他・不詳」総数116人(男性49人、女性67人)、「その他及び不詳の外因死」総数1,129人(男性841人、女性288人)であるなら、合計は1,245人となる。
こちらは朝日のデータを大きく下回っている。
これでもない。
孤独死の推移を朝日の記者に言うならば、発表しているデータのこれにあたります、と最初に言ってくれればいいのに、と思う。そこまで決めるなら、その数の10年分の推移も掲載しておいてくれたら親切だと思う。
朝日の記者に説明したのだから、そうした集計数を扱ったデータがあるようだ。もったいぶらずに出してくれたらいいのに、と思う。
でも批判されたらたまらないので、その基礎となる数字だけを公開しているように思うのだ。
それなら「孤独死統計」なんて言葉を使わなければいいのに、と思う。
監察医制度はあまり一般的ではない。
「死因不明の死体を検案又は解剖して死因を明らかにすることにより、公衆衛生の向上等に資することを目的とする制度」であり、
「東京23区内、横浜市、名古屋市、大阪市及び神戸市」に置かれている。
最初は「飢餓、栄養失調、伝染病等により死亡が続出していた終戦直後において、これらの死因が適切に把握されず対策にも科学性が欠けてため、公衆衛生の向上を目的として、連合軍総司令部(GHQ)が、国内の主要都市に監察医を置くことを日本政府に命令したことにより、昭和22年に創設された。
注:制度発足当初は、福岡市及び京都市にも置かれていた」
と厚労省は説明している。
監察医制度によって、当初は犯罪死ではないと思われていたのが、行政解剖中に犯罪死の可能性が出てきて、裁判所に司法解剖への切り替えを認めてもらい、結果、犯罪死であることがわかるケースがあるらしい。
もともと犯罪による死亡のおそれがあれば司法解剖になる。
だから監察医制度のない地域では犯罪が見逃されているケースが多いのではないか、と言われている。
もっともそれに対応できるだけの法医学者の数が足りないらしい。法医学者は儲からないから志望する医学生が少ないのだ、という。
2012年の「国民生活基礎調査」によれば、1986(昭和61)年は、全世帯で「夫婦と未婚の子のみの世帯」が41.4%であったが、2012(平成24)年には30.5%に減少、「夫婦のみの世帯」は14.4%→22.8%と増加、「単独世帯」は18.2%→25.2%と大きく増加している。
ちなみに俗に言う「さざえさん一家」の「三世代世帯」は15.3%→7.6%とほぼ半減している。
こういう家族関係の変化がもたらす問題は今後は増加こそすれ、減少しないだろう。
(ほんとうは国民生活基礎調査概況を細かく分析したのだが、前日の記事で書いたように、量が多すぎて飛んでしまったので以下は省略。いずれまた。)
朝日新聞であれだけ「都心の孤独死」と大きく扱ったのだから、と監察医務院の統計に期待した私が間違っていたようだ。
それとも朝日の記者さんは、あの数字を丁寧に集計してあのデータを出したのだろうか?
知りたい。
大阪で監察医をやっている者です。
孤独死の定義は確かにあいまいであり、誰もきちんと定義していません。
今の時点では「独居世帯における在宅死」の程度でしょう。公的書類からピックアップできるのはそれだけだからです。
独居世帯の在宅死は、独居世帯の増加で増えるのは当然です。
なので、対策は?となると「独居世帯を減らす」しかないことになります。
私はその点に注意しながら、孤独死を評価し、問題点を抽出するよう取り組んでいます。
もしご興味があればご連絡下さい。