「墓(墳墓)」の使用権、祭祀財産、無縁墳墓の改葬―「改葬」問題のコンテキスト(1)

これから書くのは、12月24日に書いた「遺骨の定義、散骨ー「改葬」を論じる前に」
https://hajime-himonya.com/?p=1464
の続きである。

「改葬」問題のコンテキスト①

「墓(墳墓)」の使用権

「墓」を購入する時に支払うのが「永代使用料」と言われる。
近年は誤解を避けるために「使用料」とされることもある。
「永代」という言葉が「未来永劫」と誤解されることが多いからである。
「永代使用権」とは「期限を定めず、使用者がいる限り使用できる権利」ということ。

また「使用料」というのは墓所の所有権が移転するのではなく、あくまで墓地経営者のもので、「墓所として使用する権利を入手する」ものであるからだ。

墓所の使用は借地に家を建てるのになぞらえられる。

墓所の土地はあくまで墓地経営者のもので、その上に建てる墓石の所有権は使用者のもの、という関係である。
(無縁墳墓の改葬の後、墓石が集められ、積み上げられている光景を見るが、墓石処分に費用がかかることもあるが、墓石の元来の所有権は使用者にある、という理由もある。)

墓所の使用で誤解があるのは、使用しているのは埋蔵された死者たちではなく、生きて墓所を管理している人間である点だ。

借地に建てられた家が居住者が死亡し、その後に使用者がいない場合には借地契約が取り消されるのと同じく、墓所を管理している使用者が死亡し、承継する者が不在になると、その墓所の使用権が取り消される。
これが「無縁墳墓」である。
どうも言葉は感じが悪いが。

祭祀財産

また、墓所等は民法上は「祭祀財産」となる。

第八百九十七条  系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。 
 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

この規定は「相続」に含まれている。「前条にかかわらず」というのはその他の財産とは異なる、という意味で、遺産相続の対象にはならないし、相続税も課せられない。

墳墓の所有権、つまり墳墓を使用する権利の相続は分割できない。
使用者は一人である。

これがときどき問題になる。

きょうだい3人で両親の墓を建てた。
とりあえず長男が使用者になった。
その長男が死亡し、墳墓の使用人が長男の子になった。
その長男の子は一緒に建墓した叔父、叔母に向かってこう言った。
「叔父さん、叔母さんの面倒は見られません。この墓には入れません」

これは実話である。
独身を貫き、学校の教員をしていた女性は、結婚している兄たちよりも建墓費用を負担したにもかかわらず、甥によって両親と一緒の墓に入ることを拒まれ、新たに自分用に永代供養墓を入手した。

祭祀財産について書かれた897条を整理すると、墓所の承継は、本人が指定した者がいればその人(血縁関係は書かれていない!)、いなければ慣習によるが決まらない場合は家裁が決定する、という順序になる。

無縁墳墓の改葬

墓の承継者不在という問題は80年代から行政でも問題になっていた。
「無縁墳墓等」の問題である。

「無縁墳墓等」とは、(墓地埋葬法施行規則第3条によるならば「死亡者の縁故者がない墳墓又は納骨堂(以下『無縁墳墓等』という。)」)、を言う。
つまりは「承継者が不在となった墳墓や納骨堂」のことを言う。
「縁故者」となっているのは、正式な承継者がいなくなった場合には縁故者がいれば誰でもよいから承継してほしい、という無縁にならないようにという行政の希望がうかがえる。

90年代の末、行政は墓地埋葬法施行規則を改正し、「無縁墳墓の改葬手続きの簡略化」に踏み切る。
それ以前は、無縁墳墓の使用者本人あるいは縁故者によるのではなく墓地管理者の手で改葬を行う場合には、全国紙2紙以上への公告、縁故者調査という費用も手間もかかり、しかし実効性のない手順を義務づけていた。

そこで公示は官報(ほとんど読む人がいない!)だけでよく、縁故者調査も不要とし、1年間立札を立てればよいとした。

墓地埋葬法施行規則
第三条   死亡者の縁故者がない墳墓又は納骨堂(以下「無縁墳墓等」という。)に埋葬し、又は埋蔵し、若しくは収蔵された死体(妊娠四月以上の死胎を含む。以下同じ。)又は焼骨の改葬の許可に係る前条第一項の申請書には、同条第二項の規定にかかわらず、同項第一号に掲げる書類のほか、次に掲げる書類を添付しなければならない。

 無縁墳墓等の写真及び位置図
 死亡者の本籍及び氏名並びに墓地使用者等、死亡者の縁故者及び無縁墳墓等に関する権利を有する者に対し一年以内に申し出るべき旨を、官報に掲載し、かつ、無縁墳墓等の見やすい場所に設置された立札に一年間掲示して、公告し、その期間中にその申出がなかつた旨を記載した書面
 前号に規定する官報の写し及び立札の写真
 その他市町村長が特に必要と認める書類

但し、無縁墳墓の改葬が必要なのは新たな需要者が望める都市部の墓地。
地方ではそもそも新たな墓地需要がない。

結果、地方墓地は無縁墳墓が残されたままになっている。

結論を先取りするならば、無縁墳墓の改葬はそれほどではない。

改葬全体としても、
少しずつ増えているものの、極端な伸びではない。

平成27(2015)年度衛生行政報告例
第4章生活衛生6埋葬及び火葬の死体・死胎数並びに改葬数,都道府県-指定都市-中核市(再掲)別

埋葬・火葬の総数 1,346,276(死体+死胎)
・死体の総数    1,323,473
・・埋葬の総数       185(土葬された数)
・・火葬の総数   1,323,288 (火葬率99.986%) 
・死胎総数       22,803

改葬            91,567
 (14年度83,574、13年度88,397、12年度79,749、11年度76,662)
・無縁墳墓等の改葬 3,625
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001031469  

※これで火葬率を都道府県別にみることができる。大体2年前が最新となる。
土葬が2桁となるのは東京都(島嶼部が多い)、石川、奈良、和歌山、島根、鹿児島。

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/