個のレベルから見た死と葬送(8)
基本としてここに描いたものはフィクションである。
私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。
悔い
出棺時に、彼はボロボロ泣いていた。
肩を大きく震わせながら。
「ごめんな、ごめんな、ごめんな…」
彼は棺の中の妻に囁きながら謝り続けた。
彼の妻が倒れた時、彼は不在だった。
その日彼は、予定されていた会合とその二次会にも行くと言って出かけた。
その朝、普通に、彼の妻も毎朝やっているように、外に出て彼を見送った。
彼女が倒れたのは、推定だが、夜の8時を回っていた頃のようだ。
彼女は一人での夕食を終えたのだろう。
その一人前の食器は洗いかごにあった。
彼はその夜二次会を終え、電車に乗る時、いつものように妻に電話をした。
だがその電話に妻は出なかった。
地元駅に着いて再度電話した。
呼び出し音が空しく鳴り続けるだけだった。
妻は居間の床にうつ伏せで倒れていた。
すでに身体は冷たかった。
自分が死ぬことを予想することはあった。
ベッドに横たわった自分が、妻の手を取り、感謝を口にして死んでいくものだ、とばかり思っていた。
現実は全く異なっていた。
妻は別れも告げず、自分の不在時に突然逝ってしまった。
友人の医師は「奥さんも何があったかわからなかっただろうよ」と言った。
しかし
「もし、自分がその時にいたら」
という悔いから、いつか脱する日がくるのだろうか。
四十九日を終えたが、ただ悔いだけが彼の胸を絞め続けている。
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