個のレベルから見た死と葬送(11)
基本としてここに描いたものはフィクションである。
私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。
突然父は逝った
ドーンという音が身体に響いた。
時計を見たらまだ明け方の4時過ぎ。
うめき声のする玄関に急いだ。
父が倒れていた。
頭から血を流しながら。
それからのことはちゃんと記憶していない。
父を抱き起こして声をかけたこと、
救急車を呼んで病院に搬送したこと、
父がストレッチャーで救急病棟に入って行ったこと…
気がついたら手術室の前の廊下のベンチに座っていた。
息子が隣りにいて、私の手を握ってくれていた。
「おじいちゃん、どうした?」
息子は黙って首を横に振った。
父はこのところ病気がちではあった。
でも階下のトイレに一人で行けないということはなかった。
口は少し重く、どもり、不自由ではあったが、家族とのコミュニケーションには何の問題もなかった。
母が5年前に先立ってからは、いっそう寡黙になり、食事以外は自室で過ごすことが多かった。
まったく手がかからない老人だった。
来月16日で父は80歳になるはずであった。
たまには妹一家も呼んで、賑やかに食事をしようと計画していた。
病院からは寝台車に乗せられ、家に帰り、父を居間に安置した。
朝の8時を少し過ぎた頃、朝陽が頭に包帯をまいた父の顔を射していた。
まだ温もりのある父の頬に私は頬を寄せてみた。
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