親友の葬式
彼の葬式が行われる葬儀会館は駅からわかりやすい立地にあった。
冬から春に移行する時期。
コートはなくとも歩いて少し汗を感じるくらいだった。
式場に入る。
遺族席に行って挨拶する。
死者の配偶者が私が来たことに驚き、腰を上げる。
そして私が亡くなった彼の小学校以来の親友であることを周囲に教える。
「わざわざ、申し訳ありません…」
「いや、彼との約束だから。むしろもっと早く来るべきだったのですが」
「ちょっと顔を見てやってください。彼もSさんには会いたいでしょうから」
死後数日経っていたので、顔色は濃く沈み、筋張っていたが、面差しは穏やかだった。
「最後はずいぶん苦しんだのですが、亡くなると、すっと穏やかになって」
「奥さんが献身的に世話されましたからね。対面できてよかった。ありがとうございました」
そのうち式場は人が埋まり始めていた。
彼は高校教員を長くしていたから教え子や同僚とおぼしき人が30代から80代まで来ていた。
あまり長く彼を独占しておくわけにはいかない。
彼のすっかり冷たくなった頭髪の生え際を撫で、別れを告げた。
彼とボランティア仲間だったという僧侶が導師となり式は進行した。
読経の声にも涙が被さっているように聞こえた。
教え子たちの弔辞は、彼のユーモラスな一面も紹介して座が和んだ。
皆彼を愛していたのだ、と強く思った。
彼を少し嫉妬している自分がいた。
私の葬式には彼は来てくれない。
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