布施の基本的理解―戒名、布施問題の多角的アプローチ(5)

戒名、布施問題について間が空いた。
前回は「布施問題の現況」について書いた。
https://hajime-himonya.com/?p=1498

今回は「布施」について基本に立ち返るところから書いてみる。

手元にある『岩波仏教辞典』(膨大な辞典類は事務所閉鎖に伴い譲渡したが、手元に残した数少ない辞典の一つ)には以下のようにある。

出家修行者、仏教教団、貧窮者などに財物その他を施し与えること。

とある。
「貧窮者などに」という言葉が入っているが、僧や寺院への財政的施しという面が強いことがうかがえる。

辞典でも、布施については「財施(ざいせ)」以外に、僧側からの「法施(ほっせ)」、そして「無畏施(むいせ)」について触れている。
今日専ら用いられている「僧や寺院への財政的施し」ということだけに布施は限定されないことを説明している。

これを私なりに再整理すると次のようになる。


「布施」
は、仏教では、布施は菩薩(悟りを求めて修行する人)が行うべきつの実践徳目の1つとされている。

施す人も、施される人も、施す物品も本来的に空であり、執着心を離れてなされるべきものとされている。


布施はさまざまに分類されるが、一般的には次の3つに分けられる。


財施(ざいせ)

出家修行者、仏教教団、貧窮者などに財物、衣食などの物品を与えること。
仏教の教えへの感謝を表し、施すこと。


法施(ほっせ)

正しい仏法の教えを説き、精神的な施しを行うこと。僧侶の務めとされている。


無畏施(むいせ)

「施無畏(せむい)」とも言い、不安やおそれを抱いている人に対し安心の施しをすること。
困った人に対し親切を施すこと、など。


無畏施
は、近年特に注目されている。
といっても「無畏施」という言葉で語られることはあまりない。

無畏施は、対象に檀信徒(そもそも戦国末期以降、特に江戸中期以降確立した、寺をさまざまな形で支える人。戦前は家制度を背景として「檀家(だんか)」と言ったが、戦後は家制度でなくなったこと―慣習的には残っているが―、信教の自由を背景に「檀信徒(だんしんと)」と正式には言われる。「檀徒(だんと)」と言うこともある)や信者も含むが、それだけではない。
寺の壁を越え、地域社会、社会の精神的、経済的、その他に困難にある人へさまざまな支援をすることを言う。
葬式、法事といった範囲を超えた僧侶、寺の社会的活動(だけではないが)は「無畏施」に相当するであろう。
その意味では「布施」を論ずる際に、もっと注目されていいいことであるように思う。

近くでは、
阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震等の災害時に若い僧侶を中心にさまざまな支援が積極的に行われた。
また「臨床宗教師」等の終末期患者等への支援(「日本的チャプレン」とも言われるように、北米のキリスト教のチャプレン活動に刺激され、日本にも日本人の宗教に合った宗教者の病院や施設等での活動が必要、と開始された。宗教間協力として行われている。中には仏教者に特定した活動も)もある。
http://www.sal.tohoku.ac.jp/p-religion/diarypro/diary.cgi?field=8
アジアの子どもの支援活動をするシャンティ等の活動もある。
http://sva.or.jp/about/

これらは「無畏施」に相当する「布施」である。
もっとも僧や寺が行う活動のみが「無畏施」ではなく、仏教徒が行うこうした活動がすべて「無畏施」に相当する。

この解釈には一部の仏教者から異論があるかもしれない。

「無畏施」を
「衆生を危険から救い、安全な状態にすること」(『岩波仏教辞典』)
をそのまま理解すれば、これは人々に仏法を説くことによって施すもの、という解釈も充分にあるからである。
しかし、説く内容がなければ施しにはならない。

「布施」について『岩波仏教辞典』は後段で以下のように書く。

転じて、僧侶に対して施し与えられる金品をいう。

現実的解釈と言えよう。

だが布施が成り立つのは「出す者」と「受け取る者」の間に関係が必要である。
関係があって成り立つのが布施である。
しかし、「出す者」が何かを得ることを目的とするのは布施ではない。

施す人も、施される人も、施す物品も本来的に空であり、執着心を離れてなされるべきものとされている。

のが布施の本質であるからだ。

だから、布施には定額はない。あったらおかしいのだ。それはもはや布施ではない。

しかし、「布施」も歴史的文脈を離れては語れない。
建前だけでは今日の布施問題は解決しない。

(以下、続く)

※後ろを長々と書いたのだが、途中保存せず長々と書いたため、保存できず後半のデータが紛失(泣)
今回は中途半端だが、ここまで。

広告

投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/