犠牲者が200人を超えた西日本豪雨災害の件について心を傷める毎日である。
連日の酷暑の中、被災者、支援する人たちの置かれた過酷な状況を思う。
自衛隊員にも熱中症被害が出ている、という。
https://digital.asahi.com/articles/ASL7K533CL7KUTIL03B.html
「頑健」と思われる自衛隊員、各地から派遣された消防、警察、自治体職員の熱意は思うが、健康管理が丁寧に実施されることを切望している。
今回の西日本豪雨災害では200人を超える死者が出た。
東日本大震災以降、広島、熊本、今回の広島、岡山、愛媛等広範囲な西日本の災害。
災害が頻繁な感じがする。
私が幼少期に体験した岩手県一関の洪水被害。
1947,1948年に連続で合わせて500人以上が死亡した。
その例だけではなく、古くから日本列島は地震、洪水、土砂災害の歴史と言っていい。
今回は予告したので、病院等における「死後のケア」の実態について書く。
量が多くなったので、3回に分けて掲載する。
「遺体管理」については
死後、人間の身体はどう変容するのか?―死体現象
https://hajime-himonya.com/?p=1542
遺体は公衆衛生上安全か?
https://hajime-himonya.com/?p=1580
死亡の場所の変化と遺体の取り扱いの変化
https://hajime-himonya.com/?p=1583
に続くものである。
病院等における「死後のケア」の実態について①
(1)死後の処置の歴史
明治時代には自宅死が多かったが、少ないながら病院死はあった。
医療機関での死後の処置については、近代看護婦の先駆と言われる大関和(おおぜき・ちか。1858-1932)等が著した『實地看護法』(1910【明治43】)に遺体消毒の記述が見られるのが最初といわれる。
戦後、病院死が増えることで、危篤となると家族が呼ばれ、医師による最終救命、死亡判定が行われると家族による死水が取られ、看護婦(以前、女性は「看護婦」、男性は「看護士」と称されたが2002【平成14】年に「看護師」に統一)による遺体の清拭・消毒、浴衣への着替えが行われることが一般的になった。これは「清拭」「湯かん」等さまざまに呼称された。
「清拭」とは看護師が入浴できないでいる患者の身体を拭き、必要に応じて、おしめや下着の着替えを行う作業のことであり、死後の身体への処置もその延長で「清拭」と呼ばれることが多かった。
「湯かん」とは地域共同体が死者の身体をたらいで洗い清浄にして死装束に着替えさせた慣習行為で、病院で死後に清拭や着替えがされたことをもって「病院で湯かんしてくれる」という言い方になった。
病院側から言われることはあまりない呼称。
1995(平成7)年~2000(平成12)年前後以降に「死後の処置」が一般的になり、その延長線上に現在主に行われている形式にまとまる傾向となり、看護教本に1または2ページ記載され、1時限教授されることが多くなった。(処置の概容は次項参照)
2001(平成13)年に元看護師の小林光恵等が「エンゼルメイク研究会」を発足させ、死後の処置を家族と一緒の看取り、ケアとしての死化粧である「エンゼルメイク」を提唱。
その影響下で化粧に偏らない「エンゼルケア」という用語が誕生し普及。
死後の処置に看取りの延長戦での「ケア」としての要素を付加する傾向が強まり、看護師等へ死後の処置への関心を高めた。
(2)死後の処置は医療外業で健康保険の対象ではない
「死後の処置」は「死後」のことであるから健康保険の対象にならないし、看護師という資格保有者だけに許された業としてはない。
保健師助産師看護師法第5条によれば、
「看護師」は「厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者」である。
「准看護師」とは、都道府県知事の免許を受けて、医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて、前条に規定することを行うことを業とする者」である。
同31条に「看護師でない者は第5条に規定する業をしてはならない」、「准看護師でない者は第6条に規定する業をしてはならない」とある。
但し、死後の処置は、死亡をもって医療行為は終了したという考えで、保健師、看護師、准看護師の有資格の看護職員にのみ許された業ではない。
(3)「死後のケア」が看護職員の研修項目に
死後の処置について厚労省は正式に看護職員の研修に「死後のケア」という言葉で採用することを正式決定するのは2014(平成26)年2月のことである。
それまでは看護師等の研修に義務づけられてはこなかった。
厚労省が2014年2月に作成したのは『新人看護職員研修ガイドライン【改訂版】』で、
「表4 技術的側面:看護技術についての到達目標」に新たに「死亡後のケアに関する技術」が取り上げられ「①死後のケア」が追加された。
但し、項目が加わっただけで、「技術指導の例」にも記載されておらず、その具体内容は提示されていない。
従来、正式名称がなかったが、おそらく今後は「死後のケア」が正式名称とされるであろう。
ガイドライン本体に記載はないが、調べると
「第3回新人看護職員研修ガイドラインの見直しに関する検討会」(2014年1月)記録において「新人看護職員研修ガイドライン到達目標の修正内容」として「死後のケア」が追加され、その理由として「超高齢化社会を迎え、新人看護職員研修においても実施すべき項目である。
各施設の状況を考慮し、『★なしⅢ』 とする」と記されている。
(筆者注::★1年以内に 経験し修得到達を目指す項目。Ⅰ:できる Ⅱ:指導の下でできる Ⅲ:演習でできる Ⅳ:知識としてわかる、と区分されている。)
おそらく終末期ケアが課題となっていることから、医療関係者が患者の死にあたって、最期をきちんとケアしたことを示す重要性が提示されているのであろう。
実際に患者の遺族からは、その死後のケアの処置内容がどうかではなく、「看護職員がきちんとしてくれた」ことへの評価が高い。
逆に言えば、死後のケアをきちんと行わないと医療関係者の評価が下がり、終末期ケアへの信頼が得られない、といえるだろう。
死後のケア(死後の処置)に対する看護職員の関心は一般病棟に比べ、ホスピス等の緩和ケア病棟において高い。
(4)死後のケアの実態
死後のケアは看護職員が行った場合でも約30分程度と短時間を強いられる。
しかも基準が明確でないことから清拭中心に済ませる者、メイクに偏る者等があり、内容は一定しておらず、特に体液・血液漏出保護等に係わる措置では手を抜く傾向が見られ、十全な遺体処置が行われているわけではない。
但し、ガイドラインの項目に「死後のケア」が追加されたからといって、死後のケア(死後の処置)が保健師、看護師、准看護師にのみ許された業ではないということへの変更はない。
実態として死後のケアは看護職員が病院等の施設で一般的に行われてきたが資格が定められた看護師、准看護師以外が行っている事実もある。
看護師等は過重労働で生きた患者の看護に時間を取られる。
また死後のケアの重要性を病院経営者が認識しておらず、死後のケアは看護師の本来業務ではない、という考えの持ち主がいる。
あるいは病院経営上の効率化を考える病院経営者もいる。
病院においては遺体搬送を葬祭事業者と契約しているケースもある。
遺体搬送業務に霊安室の管理を含むだけではなく、葬祭事業者が遺体処置業務もセットに含んで契約して葬祭従事者の派遣、あるいは病院内での遺体処置従事者を葬祭従事者との契約で行っているところもある。
また病院自体がパート契約等で遺体処置従事者を雇用している事例もある。
病院内で看護職員以外が作業を行う場合には病院職員の定めた、供給する作業着を着用して移動、作業するために患者、家族には病院が遺体処置を行っているものと映る。
また、近年では地域によって葬祭事業者の遺体取扱技術が向上しており、斎場(葬儀会館)という施設保有の葬祭事業者が増加していることから、病院内では簡単な処置で済ませ、後は葬祭事業者に委ねるところもある。
病院等以外での死亡の場合には訪問看護師が行う事例はある。
だが、すべてを看護師、准看護師が行っているわけではない。むしろ病院等での死亡以外においては葬祭ディレクター等の葬祭従事者あるいは葬祭事業者の下請としての湯灌業者、納棺業者、死化粧業者等、介護施設職員、または家族、隣人・知人等の非専門の一般人によって死亡後の遺体の処置は行われるのが一般的である。
死後のケアは医療行為外であるために健康保険の対象にはなっていない。
そのため、病院内で看護職員か否にかかわらず死後のケアを行っている場合には、「処置管理料」が無料から約4万円までの差がある。多いのは1万円内外である。