死後、人間の身体はどう変容するのか?―死体現象

遺体について論じる時、死体現象について知らねばならない。

病院における「死後のケア」「死後の処置」について看護職にある者は「遺体のその後」について充分な知識をもって死後の処置にあたっているとはいえない。
それゆえ「死後の処置」をもって遺体は安全になるわけではない。
遺体の変容は主として病院から出て、葬祭業者に引き渡されてから本格的に進行するのだが、一部を除いて遺体の管理に自覚的である葬祭担当者は少ない。

私は死体現象について専門家ではない。
そこで、本稿を核にあたり、以下の書籍等を参照したことを予めお断りしておく。

石山いく夫『法医学への招待』
上野正彦『死体は生きている』『死体は語る』
佐藤喜宣「ヒトの死・医学概論」(『遺体衛生保全概論』所収)

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◎死後、人間の身体はどう変容するか?

―死体現象

遺体の変容とその過程

人間の身体は死亡後、いわゆる「死体現象」という変容過程を経る。
その概容は、以下の通りである。

なお、本稿を記述するにあたり、死亡後の身体については、刑法等の「生体」に対する表現である「死体」ではなく、尊厳あるものとしての表現の一般的呼称「遺体」を用いている。

①死斑

心臓が停止して血液の流れが止まると、血管内の血液は下のほうに集まる。
上になった部分の皮膚は蒼白になり、下になった部分の皮下の静脈には血液が溜まっていく。
この溜まった血液の色が皮膚を通して見えるのが死斑である。

死亡後20〜30分で点状の斑点が出現し、死亡後2〜3時間で斑点が融合。
死後10時間くらいまでは死斑は固定しないが、20時間以上経過すると固定。

②死後硬直

死後2時間くらい経過すると、筋肉内のグリコーゲンの減少と乳酸の増加に伴ってアデノシン三リン酸(ATP)が減少。
この化学反応のため次第に筋肉が硬化し、関節が動かなくなる現象が死後硬直。

死後2時間くらいで顎関節に現れ、順次全身の筋肉におよび、6〜8時間で手足の筋肉に明確に認められるようになる。
8〜10時間くらいまでは、筋肉に力を加えて伸ばすと柔らかくなり、再び硬直を起こす。死後およそ20時間で硬直は最も強くなる。
その後は腐敗が強まるため、死後硬直は次第に解けていく。

③腐敗

遺体の腐敗は消化器系である胃や腸から始まる。

死後1時間内外で腸内細菌の増殖が認められる。
また、死亡すると胃酸や腸の消化液が胃腸そのものを溶かし、酵素による自家融解を起こす。

腸内細菌の繁殖と胃腸の融解によって腐敗が進行し、腐敗ガスが発生。
この腐敗ガス中に含まれる硫化水素が血液中のヘモグロビンと結合して硫化へモグロビンが作られると、腹部が淡青藍色に変色。
この変色が全身に波及し、さらに腐敗ガスが発生すると、全身が膨らんでいく。

腐敗が進行すると、全身は次第に暗赤褐色に変色し、膨らんだ死体は巨人のような外観を呈する。

さらに腐敗が進行すると乾燥し、体表は黒色に変色し、体の組織は腐敗汁を出して融解し始め、遂には骨が露出される。

※遺体は乾燥しやすいので、保湿剤の使用は必須である。

遺体はドライアイスの処置等が適切に行われれば、死後34日の葬儀の期間は一般にそれほどのひどい変化はない。


但し、腐敗には天候や保存の状態のほかに個体差があり、遺族が他人との面会を断わるような変化を来たす遺体が約
1015%ほどある。
(浮腫は全身に及び、
2日目以降には50%を超えるが、遺族が気にする顔に及ぶ事例は1015%程度。)

皮膚の変色がひどくなる、

表皮の下に体液が染み出て水泡が形成される、その水泡が破れる、遺体から出る腐敗臭がひどくなる、腐敗ガスが体内に充満して口や肛門等から漏出してくる、顔やお腹が膨張してくる、という変化が死後2〜4日以内でも発生するケースがある。


遺体はデリケートなものなので、搬送、安置の際に細かく観察して取り扱う必要がある。

死をもって活動を停止するのは脳などであり、器官や細胞は変化し続ける。


古来、葬儀を急いだのは、遺体の腐敗が酷くなり、死者の尊厳が失われる恐怖心からであった。

遺体の状態によってはゆっくりお別れできる環境を用意することができなくなることもある。

(以上、碑文谷創『四訂葬儀概論』。一部補充。なお石山いく夫『法医学への招待』、上野正彦『死体は生きている』『死体は語る』等を参考)

 

いわゆる「死体現象」は早くて死亡後⒛~30分経過後くらいから発生するが、主として2~3時間経過後であり、以後進行していく。


④体温低下
 

物質代謝がなくなり、熱再生も漸次なくなることから、死後2時間程度から体温低下し、5時間後以降は低温となり冷却する。


⑤血液就下
 

心拍停止により血液循環が停止し、重力に伴い、体内血液は身体の下に移動する。→死斑。
身体各所で発生、臓器内でも起こる。


⑥腐敗性水泡
 

腐敗が進むと、遺体表面に腐敗性水泡が生じ、中にヘモグロビンを含む液と腐敗ガスが貯留。

これが破綻すると表皮が剥離して真皮が露出(スキンスリップ)。
腐敗遺体を移動する際に表皮剝離し広範囲に真皮が露出した状態になることが多い。
体液露出を招く。


⑦腐敗ガス
 

死後数時間後から腸管内に腐敗ガスが発生し始め、死後2日前後には腹腔内、全身の皮下組織、諸臓器にも発生。

ガスが大量発生した状態を「ティシューガス」という。
ティシューガスは強い腐敗臭を発し、遺体の静脈が膨れる。

特に外傷がある部分に発生。
生前にガス壊疽や敗血症等を罹患している場合や褥瘡がある場合に発生しやすい。
巨人化の原因となる。

腸内ガス圧で肛門は開き、便を漏出する。

寝たきり生活が長いと体位変換をしばしば行なわないと褥瘡ができる。
褥瘡部分や外傷部分は死亡直後にしっかりとした保護が必要となる。


⑧皮下気腫
 

死亡直前に肺・気管から漏れ出たガスが皮下組織に溜まり皮下気腫をおこす。
心肺蘇生による肋骨骨折、肺・気管・気道の損傷や手術。気管切開からの人工呼吸器による空気漏れ等が原因。

(以上、佐藤喜宣「ヒトの死・医学概論」『遺体衛生保全概論』所収等を参考)

「遺体管理」については、次のものが関連している。補記2018.07.18


死後、人間の身体はどう変容するのか?―死体現象
https://hajime-himonya.com/?p=1542

遺体は公衆衛生上安全か?
https://hajime-himonya.com/?p=1580

死亡の場所の変化と遺体の取り扱いの変化
https://hajime-himonya.com/?p=1583

病院等における「死後のケア」の実態について(1)
https://hajime-himonya.com/?p=1584

病院等における「死後のケア」の実態について(2)
https://hajime-himonya.com/?p=1585

葬祭事業者における遺体管理業務の実態
https://hajime-himonya.com/?p=1586

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/