2019年11月に中国武漢で発生した新型コロナウイルスの流行は、全世界に及び現在主としてヨーロッパ、アメリカを主戦場としている。
日本が渦中にあることは言うまでもない。
ヨーロッパでは葬儀についても自粛が促されている地域があるが、これは日本では主として明治時代にあたる19世紀のコレラ流行時にも見られた現象である。
少し誤解もあるようなので記載しておく。
■コロナウイルス感染症によらない場合の葬儀
日本においては葬儀を名指しの自粛要請はない。
2月25日の新型コロナウイルス感染症対策本部「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」に記載されているのは、以下のとおり。
「イベント等の開催について、現時点で全国一律の自粛 要請を行うものではないが、専門家会議からの見解も 踏まえ、地域や企業に対して、イベント等を主催する際 には、感染拡大防止の観点から、感染の広がり、会場の 状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討するよう 要請する。」
3月9日の専門家会議では、以下のとおり。
「これまで集団感染が確認された場に共通するのは、①換気の悪い密閉空間であった、②多くの人が密集していた、③近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われたという 3 つの条件が同時に重なった場です。こうした場ではより多くの人が感染していたと考えられます。そのため、市民のみなさまは、これらの3つの条件ができるだけ同時に揃う場所や場面を予測し、避ける行動をとってください。
ただし、こうした行動によって、どの程度の感染拡大リスクが減少するかについては、今のところ十分な科学的根拠はありませんが、換気のよくない場所や人が密集する場所は、感染を拡大させていることから、明確な基準に関する科学的根拠が得られる前であっても、事前の警戒として対策をとっていただきたいと考えています。」
したがって、葬儀の自粛が要請されているのではなく、感染拡大防止策をとったうえでの葬儀運営が要請されている、と考えるのが妥当ではないか。
■コロナウイルス感染症による死者の葬儀
コロナ感染症による遺体の扱い方については厚労省よりQ&Aの形で明確な指針が出ている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19_qa_kanrenkigyou.html#Q2-2
①コロナウイルス感染症は二類相当の指定感染症に指定されて、24時間以内の火葬が可能となったが、必須ではない。
葬儀にあたっては、
「感染拡大防止対策上の支障等がない場合には、通常の葬儀の実施など、できる限り遺族の意向等を尊重した取扱をする必要があります。」
と、自粛ではなく、きちんとした取扱いの必要性を説いている。
②葬儀従事者、搬送従事者、火葬従事者についてはコロナウイルス感染症による遺体取扱いについて細かい指導がなされている。
「遺体の搬送や火葬場における火葬に際しては、遺体からの感染を防ぐため、遺体について全体を覆う非透過性納体袋に収容・密封することが望ましいです。遺体を非透過性納体袋に収容・密封後に、納体袋の表面を消毒してください。遺族等の意向にも配意しつつ、極力そのままの状態で火葬するよう努めてください。
また、遺体の搬送に際し、遺体が非透過性納体袋に収容、密封されている限りにおいては、特別の感染防止策は不要であり、遺体の搬送を遺族等が行うことも差し支えありません。
他方、継続的に遺体の搬送作業及び火葬作業に従事する者にあっては、必ず手袋を着用し、血液・体液・分泌物(汗を除く。)・排泄物などが顔に飛散するおそれのある場合には、不織布製マスク、眼の防護(フェイスシールド又はゴーグル)を使用してください。衣服への汚染を避けるため、ディスポーザブルの長袖ガウンの着用が望ましいです。また、これらの器具が汚染された場合には、単回使用のものは適切に廃棄し、再利用するものは適切な消毒を行ってください。
火葬に先立ち、遺族等が遺体に直接触れることを希望する場合には、遺族等に手袋等の着用をお願いしてください。
万が一、遺体の体液等で汚染された場合など、消毒を行う必要が生じた場合には、消毒に用いる薬品は、0.05~0.5%(500~5,000 ppm)次亜塩素酸ナトリウムで清拭*、または30分間浸漬、アルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)で清拭、または30分間浸漬とし、消毒法は、消毒薬を十分に浸した布又はペーパータオル等で当該箇所を満遍なく拭く方法が望まれます。消毒剤の噴霧は不完全な消毒やウイルスの舞い上がりを招く可能性があり、推奨しません。また、可燃性のある消毒薬を使用する場合については火気のある場所で行わないようにしてください。
手指衛生は、感染防止策の基本であり、遺体に接触、あるいは消毒措置を講じた際等には、手袋を外した後に流水・石鹸による手洗い又は速乾性擦式消毒用アルコール製剤による手指衛生を実施してください。
*血液などの汚染に対しては0.5%(5,000ppm),また明らかな血液汚染がない場合には0.05%(500 ppm)を用いる。なお,血液などの汚染に対しては,ジクロルイソシアヌール酸ナトリウム顆粒も有効である。」
つまり非透過性納体袋に密封すること。
「遺体が非透過性納体袋に収容、密封されている限りにおいては、特別の感染防止策は不要であり、遺体の搬送を遺族等が行うことも差し支えありません。」
とし、遺体との対面を遺族が希望した場合には
「火葬に先立ち、遺族等が遺体に直接触れることを希望する場合には、遺族等に手袋等の着用をお願いしてください。」
と注意を喚起しているが、対面を否定しているわけではない。
一般的に棺に納体袋に封入したままで遺体を納棺し、この柩の前で葬儀を行うことになる。
血液や体液の漏出がない限りは通常の葬儀とその他は同様に行われる。
現場では納体袋に遺体を封入するのは病院関係者なのか葬祭従事者なのか、という小争いもあると聞く。
いずれにしても、適切な感染防御策に従って取り扱うならば危険ではない。
接触感染の危険なので、使い捨て手袋は1回ごとに取り換え、手指の洗浄・消毒は念入りに行う。
確かに、コロナウイルス感染症流行以降、直葬やより小型の葬儀が著しく増加しており、これが葬儀に対する人々のマインドのあり方の転換点になるのではないか、と危惧する声は強い。
阪神・淡路大震災、リーマン・ショックが葬儀の個人化の契機になったので、今回のコロナ・ショックが個人化をさらに促進する契機になるのでは、という危惧である。
そうなるかもしれないが、終息後また変わるかもしれない。
今はまだなんとも言えない。
北部イタリアでは猛威を振るっているが、臨終の祈りを重視するキリスト教(この場合はカトリック)では、神父が積極的に参加し、この結果、神父で感染する人が相次いでいるという。
こうした宗教者の覚悟は尊いものだと思っている。