仏教界の対応―新型コロナ 新型コロナウイルス感染症と葬儀⑦

新型コロナウイルス感染症流行という事態を受けて仏教界もそれぞれが対応を明らかにしている。

■全日本仏教会
全日本仏教会(全仏)とは「現在、日本には約75,000の伝統仏教の寺院、教会、布教所等があり、それらの多くはいずれかの宗派や教団に所属しています。全日本仏教会は、その中の主要な59の宗派、37の都道府県仏教会、10の仏教団体、合計106団体(平成30年11月現在)が加盟している、日本の伝統仏教界における唯一の連合組織」である。
既存仏教の頂点にあるのではなく、あくまで連合体である点に注意。

4月7日「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する葬儀・法要等についてのお願い」
http://www.jbf.ne.jp/activity/3474/3483/3809.html
これは「加盟団体へのお願い」としている。

一つは「新型コロナウイルス感染症で亡くなった方の葬儀等について」
この度の新型コロナウイルス感染症で亡くなられた方の通夜・葬儀・告別式等を執り行うにあたっては、国の方針を踏まえ、医療機関や葬祭場の取り決めに従い、感染防止のための衛生対策に尽力してください。その上で、出来る限りご遺族の意向を尊重し、お気持ちに寄り添った対応をするよう配慮いただきたいと思います。
と感染防止策と共に遺族の意向等の尊重をうたっている。

二つめは、「感染危険中の法要」について
感染の危険性がある期間に寺院で法要等を執り行う際にも、感染防止に最大限の注意を払うことが寺院の社会的責任です。檀家・門徒・信者の皆様にその取り組みへの理解をうながし、協力をいただくことが、数多のいのちを守ることに繋がります。

最後に「また、僧侶や寺族をはじめとした寺院関係者は、日常的な自己管理を徹底し、媒介者とならないように行動してください。ウイルスへの対処法を正しく理解、実行することで、差別や風評被害が広がらないようにも努めてください。」
と差別や風評被害について警告をしている。

■真言宗豊山派の指針
全仏が4月7日のお願いで例をあげている真言宗豊山派の指針。
http://www.buzan.or.jp/pdf/20200402_important_news.pdf

これは4月2日に出されたもので、極めてスタンダードなものとなっている。
豊山派宗務総長と並んで日大医学部教授で大聖寺住職の石井敬基氏、自性院副住職である大澤意宏氏の3名連記で出された。
①法要時の(僧侶)マスク着用 
②寺院職員の手洗い・手指消毒 
③入口に手指消毒液の設置 
④参加者に手洗い・手指消毒の促し 
⑤同日内に複数の法要あるとき、共同使用部位・物品の複数回消毒 
⑥法要後の会食を避ける 
⑦3つの「密」を避ける 換気、収容会場の50%を上限に参加者間隔を1メートル以上確保、対面の会話を可能な限り避ける。法話は2メートル以上開けて行い、参加者はマスク着用 
⑧以上を説明したうえで不安を抱える檀信徒には法要・通夜・葬儀の延期提案してもよい。
参加者に発熱(37.5℃以上)、37.0℃以上の発熱と症状(咳、痰、息切れ、倦怠感、嘔吐・下痢)、3週間以上の渡航歴・濃厚接触者、味覚・臭覚異常のある場合は参加を控えてもらうよう依頼。

⑧で「葬儀の延期提案」についても可能性として触れている。

■各宗派の対応
全仏の「新型コロナウイルス感染症への加盟団体の対応」にリンクされている。
http://www.jbf.ne.jp/activity/3474/3483/3813.html

■浄土宗のガイドライン
4月9日浄土宗総合研究所は
・今は感染防止対策を徹底させ、うつらない、うつさない、うつさせないようにしましょう。
・感染者の葬送については、お骨になった後でも枕経・通夜・葬儀をつとめ極楽浄土へとお見送りいたしましょう。
・正しい知識・現状認識のもと、感染者遺族や故人に対する差別事象が発生しないよう、遺族に寄り添いましょう。
として、「新型コロナウイルス感染症でお亡くなりになられた方の葬儀式等について法要等の執行にあたってのガイドライン」を公表。
https://jodoshu.net/wp/wp-content/uploads/2020/04/7f17aee62c20cbacabadf1671074d295.pdf

ここで注目するのは
「お骨になった後でも枕経・通夜・葬儀をつとめ極楽浄土へとお見送りいたしましょう」
と火葬後の葬送儀礼(骨葬)を積極的に提唱している点である。

力点はご遺族への寄り添いで
ご遺族の皆様には家族の一員を失った悲しみばかりではなく、新型コロナウイルスに感染していたということによって社会から疎外されるという二重の苦しみを受ける可能性があります。そればかりではなく、新型コロナウイルスに感染したというだけで世間から白い目で見られることがあるかもしれません
と嫌悪、偏見、差別への配慮である点は重要。

■浄土真宗本願寺派の念仏者としての声明

浄土真宗本願寺派(お西)は4月14日「新型コロナウイルス感染症に関する『念仏者』としての声明」を公表した。
www.hongwanji.or.jp/project/news/n002981.html
世界的な感染大流行という危機に直面する今だからこそ、私たちは仏教が説く「つながり」の本来的な意味とその大切さに気づいていく必要があります。

 今重要なことは、仏智(ぶっち)に教え導かれ、仏さまの大きな慈悲(じひ)のはたらきの中、共に協力し合って生きる大切さをあらためて認識し、感染拡大をくい止めることです。緊急事態宣言がコロナ危機を克服してくれるのではありません。この困難を打開できるか否かは、多くの関係者のご尽力とともに、私たち一人ひとりの徹底した適切な行動にかかっています。

 私という存在は、世界の人びととの「つながり」の中で生きているからこそ、やがて、共にこの苦難を乗り越えた時、世界中の人びとと喜びを分かち合えることでしょう。それぞれの立場において、この難局で法灯(ほうとう)や伝統を絶やさないために何ができるかを考え、「そのまま救いとる」とはたらいてくださるお念仏の心をいよいよいただき、共々に支え合い、力を合わせるのです。誰もが安心して生活できる社会を取りもどすことができるよう、精いっぱいのつとめを果たしてまいりましょう。

緊急事態宣言を受けて、一人ひとりの適切な行動の大切さを強調している。

■真宗大谷派の宗派指針
真宗大谷派(お東)は「法要(葬儀・法事等)における新型コロナウイルス感染症の感染防止に向けての宗派指針」を公表した。
http://www.higashihonganji.or.jp/news/info/35854/

内容は真言宗豊山派の指針にほぼ準じている。

■曹洞宗 東京有道会
曹洞宗全体の考えではなく、あくまで東京有道会議員事務局のものであるが、4月20日「感染症拡散時等における葬儀の対応について」を公表。
https://www.sotozen-net.or.jp/wp2/wp-content/uploads/2020/04/20200422guideline-1.pdf

これは
葬儀における感染防止の措置について喫緊に対策しなければならない使命があるだろう。現在、葬儀関係諸団体や一部の宗派からガイドラインが示されているが、厚生労働省が示したガイドラインが指導ではなく推奨であるためか、不十分であるようにも思われる。
という強い危機感から「葬儀延期」に踏み込んだ「案」を提起している。

感染症が流行している期間での通夜葬儀は家族葬レベルでもウイルス感染する可能性が あり、ましてや故人が新型コロナの場合は近親者が感染している確率が高くなる。この場合は究極的な選択になるが、火葬後の焼骨をしばらく自宅で保管し、葬儀を 49 日法要、100 カ日法要等に合わせて延期し、後日に正式な葬儀式を改めて寺院で行うという選択肢も考慮し、この旨を喪主側に積極的に推奨すべきだろう。
これは葬儀拒否とは異なり、非常時に おける感染防止対策として説明すべき事項である。

感染拡大を防ぐ意味では、葬儀延期が最も望ましい。
しかし喪主側の強い要望があった場合はこれを承諾する義務もあり、小規模葬儀などのいくつかの衛生上の措置を条件に行うことになる。葬儀規模は家族葬の形とし、故人と濃厚接触者がいる場合は出席を禁じることも重要。

親族に濃厚接触者がいないという環境下で葬儀を行う場合でも、弔問客等からの感染を防ぐため、咳や微熱の症状がある参列を断る必要があるが、これは宗教界だけで運用できることではないので葬儀関係諸団体等などで協調し考えていく事柄である。現状においては、大きな組織での話し合いは時間がかかるので、頻繁に利用する葬儀社などと各々の寺院が 対応することが望まれる。

「人権侵害」という問題については配慮しつつ、「有事」にあってまず宗教界がコンセンサスをとり、主体性をもって葬儀団体と共通認識ももつ必要性を説いている。

最後に同事務局の提言として4点あげている。
1.葬儀関係団体と協議し感染症流行時における葬儀に対する共通認識の形成
2.葬儀による感染症防止のための葬儀式ガイドライン策定 3.感染防止対策における寺院間のコンセンサスの形成(心構え及び手法)
4.中長期的展望に立脚した対策の検討(震災パンデミック時等における対応)

これはもはや宗派に対する提言ではない。

■日蓮宗 ガイドライン
日蓮宗は、4月14日「感染によりお亡くなりになった方へのご葬儀、また通常のご法事などを執行するにあたり、本宗有識者からのご意見等も踏まえ添付の通りガイドラインを設けました」としてガイドラインを公表。
https://www.nichiren.or.jp/information/files/2020/04/about_covid19_nichirenshu.pdf

国の方針を踏まえ、感染防止の為の衛生管理にご協力下さい。その上で出来る限りご遺族の意向を尊重しお気持ちに寄り添った柔軟な対応で、枕経・通夜・葬儀等の執行をお願い致します。感染による差別や風評被害が拡がらないように、特別のご配慮をお願い致します。

内容的には曹洞宗豊山派の指針に準拠しているが、日蓮宗らしい表現としては、
施主(喪主)とよくお話合いをし、感染防止に努めながらも、お亡くなりになられた方を霊山に導き、ご遺族の悲しみに寄り添う儀式になるよう、納得がいく形での執行をお願い致します。
とある。

仏教寺院は宗派庁の支配下にある、というより各寺の住職の考えによって異なることを付言しておく。

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/