「いらつきやすい社会 差別・偏見・暴言・逸脱」—コロナ禍がもたらすもの

■窓口でのイライラ
「こうなる前からたまっていた不平不満を、新型コロナに合わせて噴出させているだけの人もいるのではないか」。女性(1人一律10万円の特別定額給付金相談窓口で派遣職員として働く50代)は、人の心の闇を感じるようになってしまったことが寂しい。ビニール1枚の「防護壁」がある受付窓口には消毒用のアルコールが置いてあるが、来訪した人に使用をうながすと「俺が汚れているというのか」と激高されることも。相談された内容で必要なことをメモ用紙に書いて渡そうとして、「あんたの菌がついているかもしれないものを受け取れるか」と心ない言葉を投げつけられたことも忘れられない。
(毎日新聞2020年5月23日「板挟みで「心がおかしくなりそう」 給付金窓口で矢面に立つ派遣社員の叫び」)

■感染者を差別
新型コロナウイルスによる肺炎で死亡した男性の遺族は、「お前も感染者か」と聞かれたり、職場で人に避けられたりして、「差別を強く感じた」と訴える。「同じ思いは私たちだけではない」と話し、感染者の家族らへの配慮を求めている。
遺族によると、自身は濃厚接触者ではなかったが、職場などで「お前も感染者じゃないの?」と聞かれた。露骨に避けられることもあり、「差別的な気持ちを強く感じた」という。
差別だけではない。濃厚接触者と認定された男性の身内の一人は、2週間の健康観察後もしばらく出勤が認められず、収入の減少に苦しんだ。幼い子どもを抱え、「自分が感染したら誰が面倒を見るのか」と不安におびえながら生活する人もいた。
 遺族は「傷ついている人がさらに傷つくことがないように、思いやりのある行動で接してほしい」と話した。 (時事通信2020年4月17日)

■医療関係者とその家族への差別・偏見
医師らが感染した兵庫県内の病院では、職員や家族らが差別された。引っ越しする時に業者からキャンセルされたり、タクシーに乗車拒否されたり…。

連合の調査では、病院受付のパートもしている人が別の職場で「ばい菌をまき散らすから来るな」と言われたという。

いわれなき人権侵害であり、断じて許されない。医療関係者は感染のリスクにさらされながら、命や健康を守るため懸命に働いている。感謝や敬意こそ、私たちは示すべきだろう。

病気の被害者である感染者やその家族への偏見も放置できない。三重県では、家に石が投げ込まれたり壁に落書きされたりする被害があったという。

中国地方にとっても人ごとではない。クラスター(感染者集団)が起きた広島市内の障害者施設では、電話が鳴りやまず、業務に支障を来した。「感染した職員をクビにしろ」といった批判も届いたという。
同じくクラスターが発生した三次市内のデイサービスセンターでも、暴言を吐かれたり、離れて暮らす家族が会社から出勤を禁じられたりしたそうだ。(略)

感染者のプライバシーをインターネット上で勝手にさらそうとする動きも目立つ。中傷を恐れて感染者が濃厚接触者の追跡調査に協力しなければ、感染拡大を防ぐ活動の最大の障害になってしまう。感染を広げる結果にもなりかねない。感染を恐れる気持ちは誰にでもあるだろうが、過剰な反応はかえって社会の不安をあおってしまう。

偏見は、無症状か軽症の感染者を広島市内のホテルで受け入れる取り組みにも影を落としている。県は先週から受け入れを始める予定だったが、ホテル周辺の住民向けに開いた説明会で不安の声が上がって頓挫。別のホテルで受け入れざるを得なくなった。医療崩壊を避けるために必要な備えという視点を住民は欠いてはなるまい。

偏見や差別をなくすには、どうすればいいか―。尾身氏の言葉に耳を傾けたい。新型コロナウイルスは誰もが感染し得ることと、誰もが気付かないうちに他人に感染させてしまう可能性を持っていることだ。(略)(中国新聞「≪新型コロナ≫偏見と差別 「誰もがうつる」認識」2020年4月24日)

■自粛警察
・外出の自粛や休業の要請に応じていない商店街や店舗などに対し、嫌がらせのような電話や貼り紙を貼るといった行為。(東京中日スポーツ)
・「バカ、死ね、潰れろ!」。横浜市中区の居酒屋「バンバン番長」は4月29日、店の扉に貼られたチラシに黒色のペンで落書きされた。店は感染拡大が深刻となった4月上旬以降、ランチタイムの営業を続ける一方、夜はテークアウトに切り替えた。チラシは祝日だった29日の休業を伝えるものだったが、「そのまま辞めろ!」とも落書きされていた。(毎日新聞)
・営業中の店や他県ナンバーの車に紙を張ったりするために歩き回る。(Twitter)
・保育園もずっと休んでいわゆるワンオペ中なもんで、買い物頻度減らしながらもさっき行ったスーパーで、子連れで来るなと知らない人に怒られた。(Twitter)
・他県ナンバーの車への張り紙、傷つけ。(Twitter)
・東京 吉祥寺の商店街では先月下旬、「多くの人が訪れている」という報道があり、抗議の電話や手紙が相次ぎました。抗議の内容は「商店街のすべての店を閉めさせろ」、「ほかの店は閉めているのに利益をあげているのは最低だと思う」、「人出が多い商店街は武蔵野市の恥」というものでした。中には、(NHK)
・千葉県八千代市の駄菓子屋は緊急事態宣言が出される前の3月下旬から自主的に休業を続けています。ところが、先月28日、店の入り口に「コドモアツメルナオミセシメロマスクノムダ」と書かれた1枚の紙が貼り付けられているのを見つけたということです。カタカナの文字はすべて赤色で定規をあてて書いたような直線的な形をしていました。(NHK)
・大阪府泉南市議は「感染者は、高齢者にとっては殺人鬼」とSNSに投稿した。(読売新聞)
・ある芸能人はマスクなしでジョギングする人に言及して、「アホランナーええ加減にせえよ!」と書き込んだ。(読売新聞)
・都内のカフェライブハウスは無観客ライブ配信のお知らせを貼り出したところ、次に発見したら警察を呼ぶという内容の貼り紙をされた。(読売新聞)
・徳島県では県外ナンバーの車を運転する県民らがあおり運転をされたほか、暴言も浴びた。(読売新聞)
・スーパーの駐車場に車を停めた途端、30代前後の女性からマスクをしていないことを理由に怒鳴られた。(フジテレビ)

■家庭内DVの増加
「夫がテレワークで自宅にいるようになり、これまで長時間労働ですれ違っていた夫が妻に家事一切を、押し付け、ことごとく文句を言うようになり、モラハラが起こってきた」
「かねてから DV で母子で家を出ようと準備していたが、自営業の夫が仕事がなくずっと在宅し、家族を監視したりするようになったので、避難が難しくなり、絶望している」
「妻が子を残し、DV で避難したが、学校が休みになり子どもたちが父と一緒に過ごすようになって、大声で怒鳴ったり、幼児が泣くと夜も戸外にしめだされたりしたため、子どもたちが父の下から逃げ出した。一部の子ども(女児)は児相に保護されたが、部屋が足りず、男児は児相に保護されないでいる。」
「相談センターの面談が休止になって電話相談のみになっているが、自営業の夫からの DVを相談中の被害者が夫と子どもが在宅しているので電話での相談は困難と思われ、連絡が途絶えている」
「 DV 夫と家庭内での別居中。発達障害の子どもがいて、離婚できない状況。学校が休みになり、学童や子ども食堂も休みになり子どもが家にいることで、夫とから妻、夫から子どもへ暴力が増え、妻も子どもへの暴力をしてしまう状況が起きている」(全国女性シェルターネット「新型コロナウィルス対策状況下における DV・児童虐待防止に関する要望書」2020年3月30日)

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/