高橋繁行さんが創元社から『お葬式の言葉と風習』を刊行された。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784422230412
高橋さんは1954年京都府生まれ、長くルポライターとして科学、人物、笑い、葬式をテーマに活躍されてきた。
葬送関係でも『葬祭の日本史』(講談社現代新書)、『死出の門松』(講談社現代文庫)等の著作がある。
今回の本には「柳田國男『葬送習俗語彙』の絵解き事典」というサブタイトルがつ
いている。
今ではほとんど失われた、しかし地方の生活に事実として息づいていた豊かな人を
弔う世界が、高橋さんの何ともいえない迫力ある、色気さえ感じる切り絵と共によみがえる。
しかも高橋さんが足で歩いて、肉声を集めるように丁寧な取材によって描かれた。
確実に言えることは、本書は日本人の葬送文化を考える際にずっと受け継がれるべき貴重な財産となる、ということだ。
私としても本書に思い入れがある。
雑誌『SOGI』に10年にわたり連載いただき、人気を博した高橋さんの記事が本書の母体の一つとなったからだ。
連載を終始担当したのは、雑誌の創刊から休刊に至る4分の1世紀を副編集長として事実上差配し担ってくれた宗田裕美子さんであった。
本書には今はほとんど失われた土葬についても、その終末期に現地に足を運び、生々しく描かれている。
現代建築の火葬場で営まれる火葬しか知らない現代人にとって葬送の原点を知らしめてくれる。
かつての葬儀の大団円は「野辺の送り」であった。
今の葬儀は斎場(葬儀会館)内で営まれる、小綺麗な1時間内外の「式典」になったが、「野辺の送り」は僧侶、地域住民が参加しての躍動感のある営みであった。
また看取りから始まる死者に寄り添う丁寧な作業が豊かに営まれていた。
人の一生は、かけがえがなく重いものであったゆえに、葬送も、看取りから死後の弔い上げまで一貫して遺族、地域住民、僧侶が総出で「一大事」として営んだ。
今や葬送は「私事」になったし、戻ることはないだろう。だが、この世界の源流にさかのぼって考えることは欠かせない作業としてある。
この世界を知らずして葬送を語るなかれ。
以下に本書に掲載された高橋さんの生々しい切り絵で再現された一部を紹介しておこう。