コロナ禍の社会と葬儀

最初に紹介する記事(「コロナ禍に想う 自粛と自由」を書いたのが7月25日である。今となってはかなり古い。
この原稿が掲載された新聞が刊行されたのは8月のお盆の頃であった。
この後に現況を考える。

■コロナ禍に想う 自粛と自由

・第一波と第二波
本原稿を書いているのは2020年7月25日。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の7月の感染者数が緊急事態宣言下の4月を上回り、第二波を迎えている。

第一波ではほとんどの経済活動が停止に追い込まれたのに比して、第二波では、多くの異論はあるもののGo Toキャンペーンのように経済活動を促進する動きが強いことが大きく異なる。同じ感染拡大状況にあるのだが。

第一波では、「自粛」、「Stay Home」が合言葉となった。また人々の間では、実態が未解明で見えない感染症への極度の不安から、我が身を防御しようとするあまりに、医療従事者や感染者とその家族等への偏見や差別が横行、閉店しない店舗への脅迫等の、いわゆる私的制裁、「自粛警察」が跋扈した。

・グローバルな感染拡大
COVID-19の猛威は、グローバル化した世界を反映し全世界に及び、中国、欧米、北米、ロシア、中南米、南米、インド等では日本に比して大規模かつ深刻な被害をもたらしている。
中国、欧米等では感染拡大防止のために、ロックダウン(都市封鎖)が実施された。

日本の緊急事態宣言は法的にはそれらとは次元の異なる「自粛要請」なのだが、極度の不安に怯えた人々の「同調圧力」が大きく、結果として経済封鎖状況となった。

・「コロナ禍」
「コロナ禍」とは、COVID-19への感染、重症化を言うのではない。感染防御のための経済活動停止がもたらした失業、雇用不安、雇止め、経済の低迷、企業倒産、店舗継続困難という経済不安、社会不安の増大、家庭内DVや子どもの栄養失調の増加等の社会病理の露出、感染防御とはいえ人間本来の手触りの制限や演劇等の自由な表現の場の喪失といった幅広くかつ深刻な問題を言う。

2008年のリーマン・ショック(世界同時金融危機)、2011年の東日本大震災はもとより、1929(昭和4)年以降の世界恐慌を超えかねない打撃となっている。

・近代における感染爆発と今回のコロナ騒動
近代における感染症の歴史においては、明治期の日本国内で約80万人が死亡というコレラ、大正期の日本国内で約40万人が死亡(全世界では2~5千万人が死亡)というスペイン風邪がパンデミックを招いた。

今回のCOVID-19による死亡は、7月24日現在で日本国内994人(全世界では63万人)である。同じパンデミックでも先のパンデミックとは大きく異なる。

日本政府が4~5月に緊急事態宣言を出した理由は、今から見れば明らかである。病気の深刻さ、拡大脅威以上に、危機対処不備の医療現場が崩壊の危機に直面していたからだ。
7月の第二次感染拡大を受けても政府は実質経済封鎖につながりかねない政策を拒否している。専門家間では11月以降の冬にさらに大規模な感染拡大が危惧されているのだが。

・自粛と自由
緊急事態宣言とは「国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある事態が発生したと判断」、「密閉、密集、密接の3つの密を防ぐ」ために「外出自粛要請等への全面的な御協力」や、「人と人との接触機会を最低7割、極力8割、削減することを要請」するものであった。

他国と異なり「制限」「禁止」ではなく「要請」としたのは、「自由国家」を建前としたものだが、実質はコロナ禍の犠牲となる企業・個人に対する「補償」の回避であった。

第二波下では、政府は専門家会議の提議を受け「新しい生活様式」あるいは「New Normal(新しい日常)」を唱えながらも、経済活動の活発化に動く。日本だけではないが。

日本政府には適切なリスク管理も覚束なく、公衆衛生という国民共有の課題でありながら情報開示も乏しく、国民の生活を守るという責任意識も欠ける。実生活者の感覚から遠いく、政策実行においては迅速性がない。

「自粛要請」とは奇妙な言葉である。「自粛」とは一人ひとりの判断での自らの行動の制限であり、強制されるものではない。他の人間の行動の自由の束縛であってはならない。

問題は「社会的空気」である。別行動する者を監視し、同調させようとする。そして人は疎外されないようにと従順な仮面を被る。COVID-19は日本のみならず世界的に人間社会の脆さを露わにした。

COVID-19との人類の闘いは1~2年は続くだろう。また人間による自然破壊が続く限り、人間社会は25年に1回程度は大小の感染症のリスクに直面せざるを得ないだろう。

歴史を見てわかるように、人間の生存権を脅かす最大の危機とは戦争、自然災害、そして感染症である。今年も豪雨災害が襲った。

適切かつ迅速な危機対処への備え、個々の人権の尊重、冷静で合理的判断能力は、今後の成熟した社会には必須となるだろう。

■現段階での注釈 感染者数、死者数の対比

COVID-19の問題は7月末に記述した内容を大きく変えるものではない。

7月末の段階では「COVID-19による死亡は、7月24日現在で日本国内994人(全世界では63万人)である。」と記載したが、現在(10月23日)は以下のようになっている。

・世界の感染者数と死者数(累計)
       感染者数   死者数
合計     4千170万人  113万7千人
アメリカ   841万人    22万3千人
インド    776万人    11万7千人
ブラジル   532万人    15万6千人
ロシア    145万人    2万5千人
アルゼンチン 105万人    2万8千人
スペイン   103万人    3万5千人
フランス   101万人    3万3千人
コロンビア  99万人      2万9千人
ペルー    89万人      3万4千人
メキシコ   87万人     8万7千人
イギリス   81万人     4万4千人

※欧米中心であったが、これに中南米が加わり、アフリカにも感染は拡大している。
10月になり欧州でも第二波を迎えている。
世界的には依然として死亡者数は多い。

・日本の感染者数と死者数(累計)
感染者数 95,995人 重症者数 151人 死亡数1,710人
※感染者数は増加しているものの重症者数、死亡数は抑制されている。

■日本における社会的空気の変化

4月7日~5月13日までの緊張事態宣言下(5月14日から一部解除)の状態が最も強い自粛同調ムードで緊張の強い時期であった。

プロ野球について見るならば、
3月9日:開幕延期を発表
5月25日:6月19日開幕の決定。無観客試合として。
6月8日:選手の事前PCR検査実施を決定
6月17日:無観客開催ガイドライン
6月22日:7月10日からの有観客開催ガイドライン
7月6日:7月10日から最大5千人の有観客開催決定
9月12日:9月19日からの段階的入場者数規制緩和決定⇒収容人数の50%まで

代表的にプロ野球における動きを例示したが、5月下旬より緊張緩和、経済活動再開の動きが始まった。
7月になると緩和が加速し、9月中旬から更に推進された。

10月18日発表の読売新聞世論調査によれば政府の観光支援策Go Toトラベル事業に対して「適切」48%、「適切でない」44%と二分したように、自粛緩和についても大きく二分する空気になっていると思われる。

大雑把に推測するならば、「自粛緩和容認」に対しては「肯定的」30%、「どちらともいえない」50%、「不安があり否定的」20%あたりではないか。

■コロナ禍の葬儀

・死亡の状況(日本)
 2019(令和元)年 1,381,093人(確定数)
 2020(令和2)年 1~5月(月報概数)582,717人
(2019年 596,268人 △2.3%)

・COVID-19感染者の葬儀割合
新型コロナ(COVID-19)感染の死亡者数は月間約200人、全死亡者数は月間約11万人。全体の0.2%程度であり、ほとんどの葬儀事業者をCOVID-19の感染者の葬儀を扱っていないし、扱っている事業者においても1%未満である。

・COVID-19感染者の遺体の取扱い
COVID-19感染者の遺体の取扱いについては3~5月の段階では医療機関と葬儀関係との間で一部齟齬が見られたことは事実である。
しかし、7月29日に関係業界団体が加わり作成された厚労省・経産省「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等 に関するガイドライン」発表以降はかなり落ち着いた対応に変化してきている模様。
https://www.mhlw.go.jp/content/000653447.pdf

病院においては死亡者に対する死後のケア、非透過性納体袋への遺体の収容・消毒、納棺(棺は葬儀事業者が持ち込むが、ほとんどの場合に納棺まで医療機関が行うようになっている)までの作業を医療機関に行うようになっており、搬送関係・葬儀関係者は特別の場合を除いてマスク・手袋・手指消毒以外の感染防御対策を必要としなくなっている。

・COVID-19感染者の葬儀
医療機関(一部において対面あり)⇒(特定の安置施設or葬儀会館内の特定安置室)⇒火葬場(おおむね時間外)での火葬(一部で事前対面あり)⇒拾骨(一部で少数の遺族によるものも可。火葬場職員あるいは葬儀担当者のみによる場合もあり)⇒遺骨の遺族への引き渡し⇒後日の葬儀(まだ一部においてのみ実施)

・COVID-19感染遺体との対面
医療機関においては、一部死亡前後に室外からの対面が可能となっている。また一部において納棺後に顔部分が見える非透過性納体袋の上から対面可能となっている。
また葬儀事業者へ遺体引き渡し後、一部において葬儀会館内の特定安置室あるいは火葬場で火葬前に顔部分が見える非透過性納体袋の上から対面可能となっているところがある。

・COVID-19感染者遺体への火葬場職員の慎重配慮
火葬場職員等の場合には遺体は非透過性納体袋に収容、消毒され納棺されているので、特別の事態が発生した場合を除き、遺体からの感染リスクは低い。それにもかかわらず火葬場職員が恐れるのは遺族が濃厚接触者である可能性が高いと想定し(多くの場合には事前に濃厚接触者の判定は済んでいるが)、そこからの感染を恐れていることが多い。

■COVID-19感染死者への葬儀

COVID-19感染死者への葬儀については、火葬前には困難なケースが多いとはいえ、火葬後においては何ら通常の場合と変わらない。北関東以北、東北地方では火葬後の骨葬が一般的であり、社葬やお別れの会も事実上骨葬である。遺族心理を考慮した場合、火葬を終えた後の葬儀は充分に検討されるべきである。遺族が不要と言うだけではなく葬儀関係者にもCOVID-19感染者の葬儀は1%以下の特別なケースであるため考慮しない傾向にあるのではないか。

濃厚接触者については待機期間は14日と定められているので、遺族に濃厚接触者がいると想定した場合であってもそれ以降であれば問題ない。また葬儀については死亡後あまり日が経過しないうちが遺族にとっても望ましいので、葬儀の設定日は死亡後15日~30日くらいに行うのが望ましい。四十九日等に併せて行うのもよい。
案内する関係者にもそのことをよく説明して営むのが望ましい。

たとえ集まる人数が少数になったとしても葬儀を営むのが望ましく、またそれまでの期間、葬儀担当者のみならず僧侶等の宗教関係者においても遺族への継続的な配慮は特に必要とされる。

■COVID-19感染者以外の葬儀

・著しい小型化、しかし変化も
一般の葬儀も著しく小型化傾向にある。特に3~5月においては集まることが感染リスクを高めるという極度の不安から5名以内、10名以内の葬儀がほとんどであった。
これは葬儀のみにいえることではなく世間の空気がそうであったことによる。
したがって5月下旬、7月、9月となり次第に不安環境が改善している。特に5月下旬以降へ地方において大きく改善している。

葬儀が集客するようになっても密状態を回避するために一般的に取られている方策が、式場内は遺族・親族・特別な関係者に限定し、一般会葬者においては式場外において受付を行い、2~3時間という幅をもった時間内に密集を避けて会葬(焼香、献花等)を受けることである。
これを「随時焼香」「自由焼香」「事前焼香」ともいう。
かつての自宅葬儀、寺葬儀の一般会葬方式の復活といえるかもしれない。

・コロナ禍の葬儀形態は定着するか?
コロナ禍の葬儀として「一日葬」、「直葬」が増加傾向にあるのは事実である。これが即今後の葬儀傾向と見なすのは適当ではない。これは葬儀独特のものではなくコロナ禍におけるイベントに共通することであり、これと何ら変わりがない。

5月下旬、7月、9月と次第に状況が変化したように、これからコロナ禍が一掃される1~2年後までの間、仕事見直しが進むように、葬儀および葬儀サービスのあり方について検討・研究していく必要があると思われる。

・式典以外の葬儀の時間への配慮
高度経済成長期以降の葬儀は社会儀礼に偏し、その結果、遺族心理を考慮した葬儀プロセス全体への配慮を欠き、「式典偏重」ともいうべき悪しき変容を重ねてきた。これは葬儀事業者のみならず宗教関係者においてもそうである。また「会葬マナー」に偏した会葬者においてもそうであった。

死者を弔い、遺族の心情を配慮するという葬儀の本質を考えたとき、看取り以降のプロセスへの丁寧な対応が求められていると思われる。
葬儀サービスにおいても「量」から「質」への根本的転換を図る必要があるのではなかろうか?

 

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/

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