2020年5月25日の緊急事態宣言の全面解除を受け、社会は緩やかではあるが、経済活動の再開に向かって動きだすことになる。
異論はあったものの、政府は7月各種のGo Toキャンペーンを開始。7月より感染防御と社会経済活動の両立が図られることにより、特に地方においては葬儀が一定程度の回復に向かうことになる。
※2021年1月の再度の緊急事態宣言発出により、予定されていたお別れ会等の開催が急遽中止が相次ぐことになった。
葬儀の「平常化」といっても、コロナ禍以前とは異なる。あくまで感染防御との両立を図ってのものである。一般の集会同様に、会場の消毒、「3密」を避け、会葬者はマスク着用、入口での検温、アルコール消毒、1~2メートルの距離を取る、会場の収容可能人数の半分以内とする等を要件としている。おおむね実施されていると認められる。
いずれ解消することだろうが、地域住民が会葬することはかなり壁が低くなったが、依然として都市部から人が来ることへの不安感は強い。それが死者の家族であっても来ることを許そうとしない、という強い警戒感が一部で依然見られる。
①式場内の葬儀と一般会葬の分離
葬儀に集客するようになっても、密集状態を回避するために一般的に取られている方策が、式場内は遺族・親族・特別な関係者に限定し、一般会葬者に対しては式場外において受付を行い、2~4時間という幅をもった時間内に、会葬(焼香、献花等)を受ける形態である。
この方式は、「随時焼香(献花)」「自由焼香(献花)」「事前焼香(献花)」ともいわれる。
かつての自宅葬儀、寺葬儀における一般会葬方式の復活、あるいは社葬等の大規模葬儀における葬儀式と一般会葬を受ける告別式との分離方式の援用といえるかもしれない。長野県等一部ではコロナ禍以前からあったものだが、全国的に行われるようになった。
90年代以降、東京を除く地域では斎場葬(葬儀会館葬)が一般化しており、同じ式場内に遺族・関係者等と一般会葬者が一緒になり、葬儀・告別式一体型が主流となっていた。それが「密集を避ける」ということで分離されることになった。
葬儀は関係者のみで行われることから、遺族等からは「葬儀に心が集中できる」と好評を得ていることもあるようだ。
数百人規模の大規模葬儀は、第1波時には完全に姿を消したが、2020年8月以降に少しずつ見られるようになっている。
※2021年1月2回目の緊急事態宣言で大規模葬儀は再び姿を消している。
【参考】大規模葬儀は復活するか?
2019年11月29日に死亡した中曽根康弘第71・72・73代内閣総理大臣(101歳)の内閣・自民党合同葬は、コロナ禍で延期されていたが、約1年後の2020年10月17日、グランドプリンスホテル新高輪国際館パミールで、650人を集めて開催された。
この時期に5百人を超える規模で開催されたことは、葬儀規模の自粛に歯止めをかけるのではないか、という声もある。
社葬等の大規模葬儀は、高度経済成長期以降に隆盛を極めたが、2000年以降減少傾向にあった。近年、コロナ禍以前より企業オーナーの場合を除き社葬自体があまり行われなくなっていた。大規模葬は社会儀礼中心のものであり、個人葬とは本質的に性質を異にする。
中曽根元総理合同葬が一般の個人葬における会葬者増大には即つながらないであろう。
②会食を控える
COVID—19については、家庭、寮等における同居者の感染危険だけではなく、飲食、会食時の感染危険が当初から問題となっていた。
葬儀においても3月の愛媛県におけるクラスターの事例から通夜等での会食が危険であるとの認識が共有されたため、第一波時より「会食は行わない」とする流れが決定的となっていた。
葬儀における会食は、江戸期をはるかにさかのぼる以前からの古い慣習としてあった。
「死者との共食」「食い別れ」という言葉からわかるように、死者を囲んでの食事は重要な意味をもっていた。
それが通夜での会食、中部地方等に残る「出立ち」(かつては葬列出立時に行われたものが朝に変更)である。
だがクラスター発生のリスクから、葬儀での会食は急速に姿を消すことになる。
会食を行う場合でも、他の飲食店でも取られているように、大盛皿は避けての個別への盛り付け、個別の弁当方式となった。あるいは会食自体を取りやめて散会時での弁当持ち帰り形式へと変化した。料理関係者への経済的打撃は甚大である。
③葬儀のオンラインについて
この他、ユーチューブ(YouTube)等を用いた葬儀のオンライン中継の増加を指摘する人がいる。
葬儀のオンライン中継そのものはすでに15年ほど前から実施例がある。
コロナ禍で葬儀に参列できない人向けにオンライン葬儀が非常に増加したことは事実である。
だが、葬祭事業者のITリテラシー(理解力)の不足もあり、実施率は1割未満に留まる。
オンライン中継は評価するとプラスが大きい。
それは非常事態宣言下で死者と極めて近しい関係であっても集まれない状況にある人に、参列に準ずるツールを提供したことによる。
こうしたツールは超高齢化で出席がかなわない高齢者や外国等の遠隔地にいる近親者に対して、コロナ禍が収束した後も有効であろう。
オンライン葬儀は参列してほしい人に案内するものであり、一般公開することを目的としていない。
葬儀は儀礼だけではなく、死者ならびに遺族等の関係者間の人間的交流に意味があるのだから、けっして代替はしない。
しかし、参列困難な遺族等の近い関係者には確実に有効である。これはオンラインで行われることが少なくない寺院の法要やキリスト教会の礼拝がそれなりに機能していることでも実証されているように思う。
葬祭事業者が提供する以外に、遺族自身がLINEのグループ通話等を用いて参列かなわなかった家族に葬儀の模様を伝えるケースも見られる。
④看取り困難状況は依然続く
2020年11月時点においても、クラスター(集団感染)は首都圏、近畿圏という都市部以外の北海道その他の地方においても依然多発。現在は職場クラスターも多く見られ、日常化、多様化している。
当初から多発していたのが病院(特に老人用入院病棟)、老人介護施設でのクラスターである。
このため病院や介護施設では患者家族が外部から持ち込むことを極度に警戒し、面会謝絶、制限をかけていることが多い。
「2018年人口動態統計(確定数)」によれば、「死亡の場所」は病院、診療所、介護病院・介護老人保健施設、老人ホームという「施設内」が84・4%を占める。「自宅」は13・7%である。施設では家族面会がかなわないので自宅に移し看取ったケースも少なからず耳にした。
「緩和ケア病棟のように余命がわずかしか残されていない患者が入院している場合、家族や友人が面会できないというのはとても悲しいことです。患者からすれば、身体がつらくなってきている状況で、できるだけ家族に来てもらいたい…。家族や友人からすれば、今のうちにいろいろ会って話をしておきたい…。実際、終末期に直面する様々なつらさは、薬による治療だけでなく、家族などとのコミュニケーションにより和らぐことも十分あるわけで、面会制限はそういった機会をなくしてしまうのです。」(廣橋 猛医師/日経メディカル3月12日)
通常は患者や家族に手厚い対応をしている緩和ケア病棟においても患者と家族の面会には大きな制限がついた。
5月に実施された⽇本緩和医療学会 COVID—19関連特別ワーキンググループ「新型コロナウイルス感染症に対する対応に関するアンケート」では、大部分の98%が「面会制限あり」と回答。
「予後」とは医学用語で「病気・手術等の経過や終末について医学的に予測すること」の意味で、ここでは「死亡まで予測される時間」として用いられている。
「予後1週間以上1か月未満」のときは「制限なし」は7%と少なく、「面会禁止」は18%と多い(「条件付き」61%)。「予後48時間以内」になっても「面会禁止」は2%あり、「条件付き」は41%あるが、「制限なし」は35%までさすが上昇。
面会以外は「テレビ電話等」55%だが、病室に無線Wi-Fiの設備がないのが85%と劣悪な環境となっている。
終末期のケアに理解のあるホスピス・緩和ケア病棟についてもこの状況である。ほとんどの施設でクラスター発生を回避しようとして面会禁止・制限の処置をとっていることは、感染防御を目的としたものであっても、本人の終末期のクオリティを著しく損ない、家族の心を傷つけている。
「死への対処」の全体を10とすると、推測するに、比重は死亡前の看取りは6~7で、死亡後の葬儀等の死後事務は3~4であろう。コロナ禍で看取りが極めて制限がされているというのは問題が大きい。
【参考】高齢化
2020年9月20日総務省が敬老の日にちなみ発表した「統計から見た我が国の高齢者」によれば、高齢者人口(65歳以上人口)は世界最高で、高齢化率は28.7%(3617万人)と過去最高を示した。うち80歳以上が9,2%(1160万人)、90歳以上は1.9%(244万人)である。
高齢化率は、1955(昭和30)年5・3%、1975(昭和50)年7・9%、1995(平成7)年14・6%、2015(平成27)年26・6%、と戦後一貫して伸び続けている。
厚労省「令和元年(2019年)生命簡易表」によれば、平均余命は男性81・41年、女性87・45年。より実態を反映していると思われる寿命中位数(生命表上、出生者のうちちょうど半数が生存すると期待される年数)は男性84・36年、女性は90歳を超し、90・24年となっている。
厚労省「2018年人口動態統計(確定数)」に基づき計算すると、
65歳未満での死亡は1割を割る9・5%(男性12・2%、女性6・6%)、
65歳~79歳の死亡は26・4%(男性34・2%、女性18・1%)、
80歳以上は6割を超す64・2%(男性54・0%、女性75・3%)
となっている。
80代での死亡が全体としては最多で36・8%(男性19・3%、女性36・0%)となっている。
昭和の初期に80歳超の死亡は全体の5%程度で、80歳を超えての死亡は「長寿を全うした」と言われ、祝われさえしたものだ。しかし現在は80歳以上の死亡が6割超とあたりまえになり、90歳を超えないと「長寿を全う」とは言われない時代となっている。
今「終活」が大流行りであるが、今一つ盛り上がりに欠ける。65歳以上の高齢者の関心は、全体を10とすると、「死への対処」つまり終末期および死後の葬儀等の死後事務が占める割合は2を超えてはいないのではなかろうか。