COVID-19で死亡者の葬儀等のガイドラインと過去の主な感染症

COVID-19で死亡者の葬儀等のガイドライン

2020年7月29日、厚労省、経産省は「新型コロナウイルス感染症によって亡くなられた方及びその疑いのある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン」を作成した。
https://www.mhlw.go.jp/content/000653472.pdf

これは2020年3月にすでに厚労省のホームページでQ&Aの形で示していた内容を再構成したものである。
作成には、国立感染症研究所だけではなく、行政では東京都、医療関係では日本医師会、日本看護協会、葬儀関係では全葬連、全互協、火葬関係では日本環境斎苑協会、東京都瑞江葬儀所を管轄する東京都公園協会が協力している。

詳しくは前に書いている碑文谷創「COVID—19死亡者についてのガイドライン」を参照願いたい。
https://hajime-himonya.com/?p=4904

■ガイドライン「はじめに」

「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方の遺族等は、大切な人を失った辛さに加えて、その最期の場面を通常のかたちで迎えることができないという悲しみを抱くケースがあります。他方、医療従事者の方、遺体等を取り扱う事業者の方、火葬場従事者の方等の関係者の方は、献身的に業務に従事されながらも、感染対策等について多くの不安を抱えています。人間の最期の場面に尊厳を持って携わりながら、関係者の方の安全・安心に対して最大限に配慮し、これらの両立を図ることは、極めて 重要な課題です。」

①ガイドラインの役割

ガイドラインの成果は、COVID—19に感染あるいはその疑いのある人の遺体の取り扱いについて、①整理された知識が提供され、②医療機関と葬祭関連事業者の間で「告知伝達」という意思疎通が確認され、④医療機関と葬祭関連事業者の間で相互の手順が明確になったことである。

40年以上前から医療機関と葬祭関連事業者の間には大きな相互不信があった。
医療関係者は、死亡退院後の遺体の変化には関心を払わず、遺体をたとえ深夜であっても早々に葬祭関連事業者に引き取らせようとし、医療機関の責務である死後のケア(死後処置、エンゼルケア)についても葬祭関連事業者に押しつけようとするところが少なくなかった。
また死亡退院後から火葬まで遺体管理に携わる葬祭関連事業者の遺体からの感染不安を無視し、患者のプライバシーを理由に、危険な感染症情報を秘匿しがちであった。


今回、少なくともCOVID—19に関しては、感染またはその疑いのある場合には告知が義務づけられたことは大きい。

また、死亡後においては、死後のケア、遺体の非透過性納体袋への収容と消毒までは医療機関の責務とされ、おおむねその後の納棺作業までは医療機関で行い、引き渡されることが標準化した。

遺体の便、血液、気道分泌液、体液等の取り扱いには注意を要するものの、納棺されている状態が保持される限り、葬祭関連事業者はマスクの着用、搬送等の移動時の使い捨て手袋の着用、その後の手洗い…という基本を守る限りは特別な処置を要しないことになった(異常事態への対処等が詳しく書かれているが)。

こうした手順が明示されることによって、いたずらな不安や警戒感は相当軽減したことであろう。


また、医療機関においても死亡後の家族との対面、葬祭関連事業者においても納体袋を顔が見えるように工夫することでの家族との対面の重要性を説いている。


感染者または疑いのある遺体について、処分するのではなく、弔い・葬送する対象であることを明らかにした点で重要である。

②二類相当の指定感染症

葬送においてCOVID—19が感染症法において「二類相当の指定感染症」に指定された意味は、通常は死亡後24時間以内の火葬は墓地埋葬法上禁止されているが、感染症法で危険な感染症であるとされている一類、二類、三類および新型インフルエンザ等感染症の感染症については「24時間以内に火葬できる」となっていることである。
※「二類相当指定感染症」から「新型インフルエンザ等感染症」への変更が議論されているが、この措置に変更はない。


エボラ出血熱等の一類感染症については、厚労省令で「24時間以内に火葬しなければならない」とされている。
だが、二類感染症については24時間以内の火葬が許可されてはいるが、義務づけられているわけではない。


実際の運用において、火葬は場所によっては1日あたりの火葬可能数や準備もあり、24時間以内には火葬されなかった事例が多かった。


おおむね通常火葬時間外の夕方時間が指定されて、立ち会う遺族数も5名以内等の制限が設けられた。
一部においては火葬場への遺族の付き添いが拒否される事例もあって問題視されている。

【参考】濃厚接触者―遺族が濃厚接触者?

火葬場が一般に立ち会い人数を15名以下程度に制限したのは、密集による集団感染を避ける意図からである。
他方、COVID—19の感染者または疑いのある遺体の場合には、数名以内もしくは立ち会い拒否に出たのは、遺体からの感染リスクではなく、家族が濃厚接触者である可能性が高く、火葬場職員が感染したり、「感染者が出た」という風評被害を受けたりすることを強く危惧したからと思われる。

これは「家族に濃厚接触者が多いのではないか」という危惧からであり、「濃厚接触者」の定義に基づいたものではない。確かな情報がわからず不安から出た行動であった。


国立感染研究所の定義によれば、「濃厚接触者」とは、患者(陽性確定した人)が感染可能期間に接触した者のうち、同居もしくは長時間の接触があった者、適切な感染防御なしで患者を診察・看護・介護した者、患者の気道分泌液・体液等に直接触れた可能性が高い者、1メートル以内の距離で感染防御なく患者と15分以上接触した者等を言い、保健所が指定し、隔離が要請される。

通常であれば濃厚接触者は外出を制限されるので、家族であっても火葬場、葬儀会館等に出向くことはない。しかし、火葬場を含む葬祭関連事業者には強い不安があり、慎重になった故の策だったのだろう。

過去流行した主な感染症

①ペスト
代表的なのはペスト。14世紀に大流行し、1億人死亡したとされ、東ローマ帝国滅亡因になったといわれる。

②天然痘
疱瘡(平安)、痘瘡(室町)。ラクダ由来? 天然痘ウイルス(飛沫感染・接触感染、潜伏期間7~16日)。
古いのは古代エジプト(紀元前14世紀)、古代ローマで約350万人死亡とも。日本6世紀に渡来人より拡大、8世紀大流行(100万人死亡?)~江戸期まで繰り返し。奈良大仏造営のきっかけとなった。瘡守(かさもり)稲荷神社もある。12世紀十字軍で世界中に拡大。

③コレラ
7回のパンデミック。1817~1917年に世界中で約4千万人死亡。
日本1822(文政5)年下関→大坂・京都で十数万人死亡、1858~1861年安政コレラ、江戸だけで10万人死亡。
明治期の日本国内で約80万人が死亡。
※1897(明治30)年伝染病予防法→火葬推進、下水道整備。

④スペインかぜ 1918~1920年
H1N1亜型インフルエンザ。

大正期の日本国内で約40万人が死亡。全世界では5億人以上が感染し、2千万人以上が死亡した。死亡1億人とも言われるが、第一次世界大戦下で確かな情報がなく不明。
スペインは当時中立国なので発信したためスペインかぜと称されたがスペイン発祥ではない。1918年3月4日米国陸軍兵士最初の発症とされ、第一次大戦で欧州に拡大した。

⑤結核
1934(昭和9)年には国内で約13万人が死亡している。
今でも国内で年間2087人が死亡(2019年人口動態統計[確定数])。発症者数は年間約1万7千人にのぼる。

全世界では今でも年間約150万人が結核で死亡。

⑥インフルエンザ
インフルエンザは、日本では1950~60年代には年間死亡者数が7千人を超すことがあった。しかし2015年以降は2019年が最多で3575人であった。

【参考】COVID‐19での死亡数は2021年2月12日現在、世界で2,368,530人、国内6,817人(クルーズ船13人含む)。但し最終的には世界300万人、国内1万人を超すと推定される。

 

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/