葬儀の役割の見直し コロナ禍にあって

(1)葬儀の内容―葬祭従事者と遺族の見方の違い

葬祭事業者の立場から言えば、葬儀とは、
①葬儀の電話等による受注
②病院等からの搬送
③遺体の安置
④打ち合わせ
⑤届出・手配
⑥遺体の管理(納棺、湯灌、ドライアイス処置または保冷庫、エンバーミング)
⑦通夜の準備
⑧通夜
⑨葬儀の準備
⑩葬儀
⑪出棺
⑫火葬(北関東以北では火葬を葬儀に先行する骨葬が多い)
となる。


遺族等から言えば、
①臨終時の看取り
②宗教者・葬祭事業者の手配
③安置された遺体との対面
④枕経・宗教者との打ち合わせ
⑤葬祭事業者との打ち合わせ
⑥関係者への連絡・事務手続き
⑦遺体を中心として関係者で別れの時をもち話し合う
⑧通夜
⑨通夜後の会食(しばしば集まった関係者間で死者の思い出が語られ、近況報告等も行われる)
⑩葬儀
⑪出棺・火葬
⑫拾骨(骨上げ)
⑬遺骨の安置・還骨法要、初七日法要
⑭会食・散会
⑮礼状等
⑯死後事務
となる(順序は入れ替わることや省略がある)。


遺族等は、宗教者や葬祭担当者との打ち合わせでは、死亡直後の精神的に混乱した状況下でさまざまな選択・決断が迫られる。
わからないことは排除して単純な方策(直葬等)を選択するか、専門家の意見を尊重して選ぶ場合もある。


実は個々の家族にとって抱えているものが違い、専門家である宗教者、葬祭担当者は、個々の問題を正確に聴き取り対処することが必要なのだが、しばしば簡単な分類に従い、定型的に対処する傾向も見られる。直葬だからといって遺族には喪のプロセスがないわけではない。


いかなる形態を選ぶにしろ、死者の尊厳を確保すること、遺族の心情を配慮して死者との別れの時を質的に充実して営むことが重要である。
葬祭関係者はいかなる形態であろうと、この視点を重視した支援(葬祭事業者、宗教者は「主体」ではけっしてない!)を行う必要がある。


コロナ禍で看取りが大きく制限を受けているなか、死亡後の死者との向き合いまで充分に行われないなら、それこそ「弔いの不在」となる。

(2)「儀礼の役割」再考

葬儀式等の儀礼は重要である。
死を事実として認容すること、悲嘆を公認し、かつ共有すること、心のうちにある弔う気持ちを表現することであり、これは遺族の心的プロセスにおいてけっして小さくない。

但し、個人化した時代においては、遺族があくまで選択するものであり、多様化した現在、これまで定式化した方式は必ずしも一致して支持されているわけではない。
さまざまな形態が選択される中で、直葬においてすら、少数であっても、遺族等が火葬・拾骨に至るまでの時間、および死亡後約1か月間の死者と向き合う時間は大切である。
あるいはその間において付き添う宗教者、葬祭担当者の寄り添う態度が補える部分が多少はあるはずである。

今後においては「単身化」と「格差」は、ますます大きな問題となる。
弔い手がいない人の場合、葬儀、葬りを、本人の意思を尊重し、尊厳を確保して行えるか。
また「総中流時代」は去り、生活苦を抱えた人が増加している。その場合にも、いかに質を確保した葬送を実現するかは重要な課題である。

葬儀関連に従事する人たちは、葬儀の簡略化、小型化により、遺族への支援についてけっして関心を少なくしてはならない。
事業としては大幅な収益低下で経営的には困難を極めている。
しかし、仕事の本質を見失わず、現況下でコストをかけられなくても人間的サービスの質の向上を図ることで、地域住民からの信頼獲得につながることを期待してほしい、と願う。

【追記】昨今、直葬価格がダンピング競争に晒されていることを憂いている。
生活保護家庭を対象とした福祉葬において行政の負担は自治体によって幅があるが約20万円である。最低限の人権保障としてある。
直葬でカタログ価格15万円前後(9万円!)が横行している。
だが、葬りの質を担保する人件費が不当に省かれていて、葬送ではなく、簡便だけを主旨とした「処分」になっていないかが強く危惧される。

(3)遺体管理の重要性

コロナ禍が露わにした葬祭関連事業者の問題の一つに、遺体管理について専門性が乏しい人が多い、ということがある。

東日本大震災時に明らかにしたのが、死者をひたすら想い、遺体の尊厳を確保し、かつ衛生的な取り扱いが、エッセンシャルワーカー(essential workerいかなる時にあっても生活に必要不可欠な労働者)としての葬祭関連事業者の基本に属する、ということであったはずだ。そこでまた東日本大震災では大きな信頼を得た。


未だに遺体を扱う際に手袋を着用せず素手で、という公衆衛生に対する無知・無視が横行している。
またCOVID—19患者、疑いのある遺体の取り扱いについて「アマチュアだから」と避ける傾向にあった。

個々の事業者だけではなく横の連携を図りつつでいいのだが、「衛生専門士」のようなものを育てていく必要がある。
エンバーマーのような遺体を扱うプロはまだ200人足らずである。そこまでいかなくとも公衆衛生面で基礎的な取り扱いを心得た従事者の養成が急務ではなかろうか。

社会的に「葬祭関連従事者はエッセンシャルワーカーとして位置づけられている」ことの自覚がもっと拡がる必要があると考える。

【参考】単身化
国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(2018年推計)」によれば、2020年の一般世帯において「単独世帯」が占める割合はトップ36%である。
その他は「夫婦のみ世帯」21%、「夫婦と子の世帯」26%、「ひとり親と子の世帯」9%、「その他の世帯」8%である。

2030年には50歳時生涯未婚率は男性が30%、女性が20%を超す見込みで、従来あたりまえといわれた結婚が選択の時代に。
さらに、結婚しても離婚するカップルは増加しており、およそ3組に1組が離婚していると推定される。
またカップルはいずれ一方の死別という事態が避けられない。
未婚、既婚を問わずに「おひとりさま」は増加の傾向にある。

(4)葬儀の行方

コロナ禍以前においては、葬儀の会葬者数の最多層は、都市部で20~40人、地方で40~60人といったところであったろう。
バブル景気中の一般の個人葬において平均200~300人という社会儀礼色溢れる時代は遠く去り、1995年に開始し2000年頃から一般化した葬儀の「個人化」傾向は2010年以降さらに本格化していた。


「個人化」「多様化」「(超)高齢化」「単身化」「家族分散」「格差拡大」…という現在社会が抱えている問題は今後いっそう拡大・深化することはあっても流れは止むことはないと思われる。

たとえコロナ禍が収束しても、葬儀の個人化、小型化傾向は続くと思われる。

葬儀の傾向を会葬者数で表現してきたが、コロナ禍の影響で言えば、葬儀を会葬者数という「数」を指標とする時代は終わりを告げ、葬儀は個々の弔い、お別れの質ではかる時代に変わるのではなかろうか。また、変わる必要を感じる。


長い葬儀の歴史の中で、会葬者数という数が指標となったのは、たかだか社会儀礼色を強めた戦後の高度経済成長期以降のおおよそ60年にすぎない。

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投稿者: Hajime Himonya

碑文谷 創(ひもんや・はじめ)/ 葬送ジャーナリスト、評論(死、葬送)、 元雑誌『SOGI』編集長(1990~2016)/ 【連絡先】hajimeh46@nifty.com/ 著書 『葬儀概論(四訂)』(葬祭ディレクター技能審査協会) 『死に方を忘れた日本人』(大東出版社) 『「お葬式」はなぜするの?』(講談社+α文庫) 『Q&Aでわかる 葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)  『新・お葬式の作法』(平凡社新書) ほか/