葬列―個から見た葬送(12)

基本としてここに描いたものはフィクションである。私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。 葬列 山道は昨夜の雨で少しぬかるんでいた。 近所の年寄りは「滑るから危ない」と言われ、無念そうに家の前で葬列を見送った。 ここの山間はもともと土葬の習慣の残る地区であった。だが合併し「市」となった今、市の病院で亡くなり、その市の斎場で通夜、葬儀が行われ、市の火葬場で荼毘に付されるケースが増えてきた。 この日の死者は、最近では珍しく自宅で亡くなった。 85になる母親は「がんの末期で... 続きを読む

近親者の悲嘆への配慮―「弔い」としての葬式(3)

近親者の悲嘆への配慮   死者の近親者が死別により悲嘆を抱えるようになることは自然なことです。 それ自体病気ではありません。人間が深い関係にある人間を喪失した時に起こる、極めて人間的な感情です。それを埋めようとして行う近親者の作業を喪の作業(グリーフワーク)と言います。 死別の悲嘆(グリーフ)は泣き嘆くこともあれば、怒りになったり、他人への攻撃、情緒不安定、抑うつ等とさまざまな現れ方をします。それぞれの関係によるものですから、実にさまざまです。解放感、安堵もあるし、それだから薄情というわけではあ... 続きを読む

安易に「孤独死」「孤立死」と言うな!―「弔い」としての葬式(2)

安易に「孤独死」「孤立死」と言うな! 死者(遺体)の尊厳と「遺体のリアルな認識」 死者(遺体)の尊厳を守る―というのは、死者(遺体)を美しく保つことだけを意味しません。 腐敗した遺体であろうと尊厳をもって扱うということです。 ※東日本大震災では葬祭業者がこの問題に直面した。 そして死者の尊厳を守るべく正面から相対し、自らの責務を尽くした。 このことはあまり報道されなかったが、きちんと記憶されるべきだと思う。 火葬と埋葬―東日本大震災の仮埋葬 https://hajime-himonya.com/?p... 続きを読む

突然父は逝った―個から見た死と葬送(11)

個のレベルから見た死と葬送(11) 基本としてここに描いたものはフィクションである。私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。 突然父は逝った ドーンという音が身体に響いた。 時計を見たらまだ明け方の4時過ぎ。 うめき声のする玄関に急いだ。 父が倒れていた。頭から血を流しながら。 それからのことはちゃんと記憶していない。 父を抱き起こして声をかけたこと、救急車を呼んで病院に搬送したこと、父がストレッチャーで救急病棟に入って行ったこと… 気がついたら手術室の前の廊下のベ... 続きを読む

無縁の死者たちの葬り

今朝8月14日の朝日新聞朝刊の社会面で 「無縁の遺骨 悲しき弔いー増える孤独死 悩む自治体」 という記事が東京版では大きく扱われている。中途半端なデータしか出ていないが、「朝日新聞調査」として東京都区市町村では「過去5年、引き取り手がなく行政が火葬や管理をする遺体の数は増加傾向にある。昨年度は約5500体に上った。遺骨の管理は悩みの種で、多くは独自に設けた保管期限後 に合葬している」と書いている。    「行旅死亡人」は死亡地の市区町村に葬ることが課せられている。行旅死亡人は「身元不明... 続きを読む