弔われない遺体、近親者にとっての遺体―遺体論③

弔われない遺体   ①行旅死亡人(身元不明の死者)   1899(明治32)年にできて1986(昭和61)年に改正された法律に「行旅病人及行旅死亡人取扱法」がある。 この法律の第1条に「行旅死亡人と称するは行旅中死亡し引取者なき者をいう」とあり、具体的には「住所、居所もしくは氏名知れずかつ引取者なき死亡人は行旅死亡人とみなす」と定められている。 第7条には「行旅死亡人あるときはその所在地市町村はその状況相貌遺留物件その他本人の認識に必要なる事項を記録したる後その死体の埋葬または火葬をな... 続きを読む

『〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓』小谷みどり

小谷みどりさんから最新作 『〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓』(岩波新書) が送られてきた。 すごい本だ! 最新の葬送事情が歴史的社会的背景も踏まえ、また確かな情報分析力で描出されている。 この本読まずに葬送を語るなかれ、だ。 「火葬場が足りない?」という表面的にいかにも通の人たちの間違い 神奈川県横須賀市。大和市等の自治体で取り組んでいる話題のエンディングサポート事業 「墓じまい」が話題となっているが顕著に増加する無縁墓 こうした旬の問題だけではない。 ここに取り上げられていない問題はないくらいだ... 続きを読む

母の初盆―個から見た死と葬送(13)

基本としてここに描いたものはフィクションである。私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。 母の初盆 厳しい日照りのなか家族4人で菩提寺に向かう。毎年欠かさない行事なのだが今年は母がいない。 昨年も厳しい夏であった。でも母は元気に先頭に立って歩いた。その母が秋の訪れと共に寝込むようになり、3カ月後に静かに逝った。だから今年の夏は母の初盆である。 本堂には100人以上の人が集まった。法要の後、住職が立って言った。 今年もこうして皆さんにお集まりいただき、お施餓鬼を勤めること... 続きを読む

葬列―個から見た葬送(12)

基本としてここに描いたものはフィクションである。私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。 葬列 山道は昨夜の雨で少しぬかるんでいた。 近所の年寄りは「滑るから危ない」と言われ、無念そうに家の前で葬列を見送った。 ここの山間はもともと土葬の習慣の残る地区であった。だが合併し「市」となった今、市の病院で亡くなり、その市の斎場で通夜、葬儀が行われ、市の火葬場で荼毘に付されるケースが増えてきた。 この日の死者は、最近では珍しく自宅で亡くなった。 85になる母親は「がんの末期で... 続きを読む

弔われなかった死者たちの「葬」―個のレベルから見た死と葬送(9)

個のレベルから見た死と葬送(9) 基本としてここに描いたものはフィクションである。私の周辺で生じたものが多く含まれているが、当事者の心象に投影して描いている。 弔われなかった死者たちの「葬」 「葬」とは、歴史的に見れば多様である。 大昔であれば、死ねば山や野に、いや川原や路端に捨てられたこともある。聖たちがその死体を集めて火をつけ燃やし、その跡地である塚に名をつけて歩いたとされる記録もある。中世から近世にかけ、戦場や災害で死んだ者の死体は、集められ、大きな穴が掘られ、そこに投じられ埋められ、その跡は「塚」... 続きを読む